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ケダモノが膝を抱えています
往生際悪いわね
しおりを挟む「本当に朝ご飯、食べていかなくていいの?」
鏡花が欠伸をしながらお見送りをしてくれた。
「いや、間に合わなくなるから。
明日実、お前はまだ、ゆっくりしてってもいいんだぞ」
外はまだ暗い。
貴継は明日実を見下ろし、そう言ってくる。
「いえ。
お見送りしたいので」
と言うと、そうか、と言う貴継はちょっと嬉しそうだった。
では、お邪魔しました、と明日実が頭を下げ、玄関を出ようとすると、
「ちょっと」
と鏡花に腕をつかまれ、引き寄せられた。
「夕べ、どうなったの?」
と小声で訊いてくる。
「え。
どうって……」
「えーっ。
まさか、なんにもなしっ?
わざわざ離れた部屋にしてあげたのにっ」
と文句を言ってくる。
「全然、ケダモノじゃないじゃない、この人っ」
と指差し言う鏡花を、なんの文句を言ってるんだ、という顔をして、もう外に出ている貴継が振り返っていた。
「大事にしないさいよ、明日実。
こんな男、滅多に居ないわよ」
「はい。
……って、違いますよっ。
ほんとに~っ」
あんたも往生際悪いわねえ、と夕べの貴継と同じことを言い、鏡花は眉をひそめていた。
……やっぱり似てるかもしれない、この二人。
両方から押してこられたら、もう無理かもな、とちょっと思ってしまった。
鏡花の家の最寄りの駅は新幹線が止まる。
ちょうどよかったな、と思いながら、貴継は、
「じゃあな、明日実」
と在来線に乗る明日実と別れ、新幹線乗り場に行こうとした。
だが、明日実は、とことこと後ろをついてくる。
足を止めて振り向き、
「どうした?」
と問うと、明日実は俯きがちに、
「……いえ、ただのお見送りです」
と言う。
少し考え、
「時間があまってるからです」
と付け足してきたが、貴継は、ふふふ、懐いて来たな、と思っていた。
新幹線の改札近くにある、ちょっと小洒落た店で二人分のサンドイッチと飲み物を買った。
「いいです。
自分で出します」
と明日実は言うが、
「いや、此処まで見送ってくれた礼だ」
と言うと、明日実は渡されたビニール袋をつかんだまま黙っていた。
「じゃあ、行ってくる」
券売機で買った切符を手にそう言うと、明日実は、しばらくじっとしていたが、やがて、顔を上げ、
「あのー……。
いってらっしゃい」
と言ってきた。
いってらっしゃいって言うまで、どんだけかかってんだ、と苦笑しながら、
「いってきます」
と笑って、改札を抜ける。
振り返ると、明日実はまだ立っていた。
もう一度手を振り、エスカレーターに乗った。
あそこで、いってらっしゃい、と言って、軽くキスでもしてきたら合格なんだがな、と思いながら。
明日実に言ったら、
『合格ってなんですかーっ』
とキレるところだろうが。
いや――
キレないかな。
もしかしたら……、今なら。
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