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苔玉の町
ラスボスとはっ
しおりを挟む「……魔王がたくさんいるのなら、私が倒すべき――
ああ、いや、この剣が倒すべき、ラスボスは魔王様ではないのですかね?」
まあ、やれば倒せる、というだけで、別に倒さなくてもいいのだろうが。
「たぶんなんですが」
と魔王ではなく、ファルコが考えながら答えてくる。
「魔王様は、常に、ひとりだけなのでは?
ひとり消えると、また何処かに、ひとり現れるとか?
放っておいても、キノコが自然に生えてくるみたいに」
魔王の忠臣ファルコ、すごい例え方をするな……とフェリシアは思っていた。
「そうだな。
腐った木にキノコが生えてくるみたいに現れるのかもしれんな」
と魔王自ら言い出す。
「……腐った木。
じゃあ、この世界も腐らないと魔王様、生えてこないんですかね?」
とフェリシアは言った。
まあ、腐った木じゃなくとも、キノコは生えてくるのだが。
……いや、キノコの話じゃなかったな、とフェリシアが思っている間、ドラゴンらしきものは、目をしぱしぱさせながら、ずっと話を聞いている。
「そろそろ出ましょうか」
そちらを見上げ、フェリシアは言った。
「えっ?
喰われますよ、フェリシア様っ」
とファルコが慌てる。
「でも、なんだかおとなしいわ、このドラゴン」
「そうだな。
いつまでもここにいても埒が明かないな。
大丈夫だ、フェリシア。
魔王である私がついているのだ。
ドラゴンごとき、恐れはせぬっ」
……では、そもそも隠れなくてもよかったのでは、と思ったが。
まあ、最初はなにがなんだかわからなかったもんな、とも思う。
そのとき、穴から赤い目が消えた。
空が見える。
「あれっ?」
ドラゴンが起き上がったようだった。
「諦めて帰ったんですかね?」
とファルコが言ったとき、
ずん、と地響きがして、地下水路が揺れた。
「フェリシア!」
「フェリシア様っ!」
よろけたフェリシアを魔王とファルコが支えてくれる。
また、ズンッ、と音がして、水路が大きく揺れた。
「これは……」
とみんな丸く切り取られたような青空を見上げる。
「しびれを切らして、地団駄を踏んでいるとか?」
そうフェリシアは呟いた。
私たちをここから出そうとしているのだろうか?
このままでは、可愛い苔の町に迷惑がかかると、フェリシアたちは穴から出ることにした。
外にはやはり、巨大なドラゴンがいて、町の人たちは家の中から息を詰め、様子を窺っているようだった。
魔王が先に穴から出た。
魔王といえど、人間サイズなので、ドラゴンの前に立つと踏み潰されそうに小さい。
だが、魔王は声を張り上げ言った。
「ドラゴンよっ。
襲うのなら、まず、この私を襲えっ」
ドラゴンは遠慮なく、魔王の首根っこをパクッと咥えた。
「魔王様っ」
「魔王様っ!
しょうがないっ。
この勇者の剣でっ」
とフェリシアは背中の剣を抜き、ドラゴンの額めがけて投げつけようとした。
だが、叫んだのは、魔王の方だった。
「莫迦っ。
当たったら、私が死ぬっ!」
「……そうでしたね」
それたり、額から跳ね返って落ちようものなら、トスッと剣に当たっただけで死ぬと主張している魔王様が死んでしまう。
どうしたら、とフェリシアたちは迷いながら見ていたが。
ドラゴンは魔王のマントの襟を口に咥えたまま、少し悩んで、魔王を自分の背に向かい、ひょいと投げた。
放り出された魔王は、は? という顔をしながら、ドラゴンの背にしがみつく。
次にドラゴンはフェリシアの服の背も咥えた。
「えっ、ちょっとっ」
ドラゴンは魔王のときより、長めに悩んだあとで、やはり、ひょいっと背に向かい、投げる。
落ちてきたフェリシアを魔王が抱き止めた。
ドラゴンは次にファルコを見た。
「そ、その人もついでに乗せてあげてください」
フェリシアの言葉に、ドラゴンは素直に従い、ファルコも背に乗せた。
ちなみに、スライムは頼まなくとも、勝手に背中をよじのぼっていた。
あのおばあさんたちが外に出てくる。
「なんとっ。
大聖女様たちが凶悪なドラゴンを手懐けられたっ」
「大聖女様っ」
「大聖女様っ、バンザイッ!」
……いや、手懐けてはいません。
このまま巣に連れ帰られて喰われるかも、とフェリシアは思っていた。
だが、空に舞い上がったドラゴンは指令を待つように旋回する。
「フェリシアッ」
ずり落ちそうになるフェリシアを魔王が抱き止めた。
「これは……何処に行くか、命じないといけないのでは?」
とファルコが言う。
「そうだな。
ドラゴンはお前を探しに来たのだから、お前が命じたらいい、フェリシア」
「……でも、このドラゴン、カタリヤの王族に恨みがあったのでは?」
そうフェリシアが呟いた瞬間、ドラゴンはすごい勢いで飛びはじめた。
飛ばされる~っ。
やはり、我々を殺す気なのだろうかっ!
魔王に抱き抱えられたまま、フェリアは風圧に耐えた。
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