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苔玉の町
大聖女だなんて、認めませんわっ!
しおりを挟むフェリシアたちは何処かで見たことのある城の中庭に舞い降りていた。
「ドラゴンが戻ってきたぞ~っ」
と城の衛士たちが慌てふためいている。
ドラゴンはフェリシアたちを乗せたまま、噴水の水をゴクゴク呑み始めた。
喉が渇いていたのだろうか……。
太陽の近くを飛ぶと暑いもんな、と思ったとき、
「フェリシアっ!
なんで、ここに帰ってくるんだっ。
しかも、ドラゴンを連れてっ」
と叫んだ者がいた。
ランベルトだ。
ドラゴンはフェリシアたちを乗せ、カタリヤまで飛んだのだ。
「いや~、話の中で、カタリヤという名前を出したので、それが行き先だと思ったのかも」
と言うフェリシアの後ろで、ファルコが、
「それかフェリシア様がこの城の正当な後継ぎなので、ここへお連れしたのでは?」
と言ってくる。
魔王はフェリシアを抱き、ふわりとドラゴンから舞い降りた。
そこに聖女のような装いをしたウィリカがやってくる。
まだ気に入ってたのか、聖女ごっこ、と思ったとき、ウィリカが目を見開いて言った。
「お義姉様っ!
……その美しい殿方たちはっ?」
いつもだったら、まず、嫁に行ったはずなのに、なんで戻ってきたのとか文句を垂れてくるところだが。
今はキラキラしい魔王とファルコに目を奪われているようだった。
「だ、大魔導師、アルバトロス様と騎士のファルコ様よ」
魔王の腕から下りたフェリシアが言う。
「この方たちがっ」
ウィリカは彼らの前に跪き、
「初めまして。
聖女、ウィリカです」
と名乗った。
大をつけないところが、まだ可愛らしいところか。
大聖女なら、なにかやってみせろと言われたら嫌だからだろうか。
聖女として挨拶したら、気が済んだようで、ウィリカは立ち上がり、ランベルトを振り返り言う。
「お義父さまっ。
お義姉様を早くこの城から追い出してっ。
ああでも、トレラントからも追い出されたのでしたよね、お義姉様っ」
「そうなの。
行くところがないの。
でも、ここには戻らないから、安心して」
家というのは、帰ると安心できる人たちがいるから家なので。
ここはなにも安心できないから、自分の家ではない、とフェリシアは思っていた。
「あら、行くところがなくて、彷徨ってらっしゃるの?
お義姉さまらしいわっ」
ファルコが見兼ねて割り込んでくる。
「大聖女フェリシアさまは世界を幸福に導くため、旅をしてらっしゃるのです」
「大聖女?
お義姉さまが?」
ウィリカは鼻で笑った。
「こんななにもできない人が大聖女なわけありませんわっ」
「いや、美しいではないですか」
遅れて現れたサミュエルが言う。
「なにもできなくとも、美しいではないですか。
そこにいるだけで、説得力があります」
……なにもできないと断言されてしまった。
いやまあ、できないんだが。
あと、人の美醜は結構、その人の好みの問題かも、とフェリシアは思っている。
「お義姉さまが大聖女だなんて認めませんわっ。
ねえ、お義父様っ」
ウィリカはランベルトを振り返ったが、ランベルトはとことこドラゴンから降りてきたスライムの男の子と楽しく遊んでいた。
こちらを攻撃することも忘れているらしい。
まあ、水晶玉の通話友だちだからな、と思いながら、フェリシアが眺めていると、突然、ウィリカが言い出した。
「そうだわ。
城の宝物庫にいいものがありましたわ。
サミュエル、持ってきて」
サミュエルは、だから、勝手に宝物庫を漁らないでください、という顔をしながらも言う。
「あれですか。
ホンモノかどうかわからないじゃないですか」
「あれってなに?」
とフェリシアが問うと、サミュエルは、
「最近、ウィリカ様は暇に任せて、宝物庫を漁っておられるのです」
と報告してくる。
……いや、聖女の格好でか。
「まあ、虫干しになるので助かるといえば、助かるのですが。
聖なるチカラに反応する水晶玉とやらを見つけたらしくて」
いろんな水晶玉があるな、この城……。
サミュエルは部下に命じて、その水晶玉を持ってこさせた。
てっぺんに古代文字が小さく掘り込んである、手のひらサイズの水晶玉だ。
紫の布に包まれている。
フェリシアはそれを眺め、
「……なるほど。
聖なるチカラが加わると光る。
より強いチカラだと辺り一面にその光が広がる、みたいに書いてあるわね」
と解読した。
「古代文字が読めるのですか?」
と驚き、ファルコが訊いてくる。
「ちょっとだけだけど」
サミュエルも読めるはずなので、彼が解読したのだろう。
ふうん、と魔王も物珍しそうに水晶玉を覗く。
「これは文字なのか?」
……魔王なのに、読めないのか、と思ったが。
そういえば、この魔王、若いんだったな、と思い出す。
なんか魔王って、イニシエの時代から生きてそうだが。
このピチピチの魔王様は、まだ古代文字を見たことがないようだった。
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