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イケメンさんと相席になりました
また来てしまった……
しおりを挟むやっと来たお好み焼きを砂月が食べはじめたころ、高秀は帰っていった。
店も少し空いてきたので、台拭きを手におじさんが言う。
「砂月ちゃん、どう?
さっきのお客さん、すごいイケメンだろ?」
「品もあるよねー。
何者だろ」
とおばちゃんがうっとりと言う。
「セレブなマンションとやらができてから、ああいうお客さんも増えたけど。
この下町の雰囲気がいいって移り住んできた年配の人が多いからねえ」
テーブルを片付けながら、おばちゃんは語る。
そうなのだ。
ここは穏やかな下町だったのだが。
近年、豪華な高層マンションが幾つも立って、高級スーパーなんかもでき。
住民の雰囲気も変わって、町は様変わりしつつあった。
「砂月ちゃん、好みかい? ああいう人」
と言われたが。
「いやー、あんな綺麗な顔してると、ドキドキしちゃって」
はは、と砂月は笑ったが。
実は最初こそ意識していたものの、お好み焼きが来てからはお好み焼きしか見ていなかった。
まあ、またバッタリ会うなんてこともないかな。
ここ、お客さん多いしね。
たくさんいる客同士がたまたま出会っただけだ。
……それに顔思い出そうとしても、焼きそばとお好み焼きに阻まれて、いまいち思い出せないし。
あ、そうだ。
明日こそ、シチュー作ろう。
そんなことを考えながら、砂月は家に帰った。
二日後の昼。
ソースの強烈な匂いには抗いがたく、砂月は、また、お好み焼き屋に来ていた。
うーん。
昼なんで、軽い方がいいよな。
じゃあ、焼きそば抜きで。
いやいや、いっそ、焼きそばで。
そうだ。
今こそ、焼きそばを。
メニューから顔を上げ、砂月は言った。
「おばちゃん、焼きそばね」
「今日は、生はいいのかい?」
と笑って訊かれるが、
「いや、さすがに昼からは」
と苦笑いする。
……だが待てよ。
今こそ、頼むべきなのではっ。
仕事をしているときには呑めなかった昼ビール。
背徳の香りがするっ。
一度、味を覚えたら、もう仕事に戻れなくなりそうだっ、などと悩んでいる間に、焼きそばが来た。
ああ、これこれ。
この匂いっ。
縁日の匂いというか、海の家の匂いというかっ。
この匂いを嗅ぐだけで、子どものころのワクワク感が蘇ってくる。
いざっ、と箸を手に持ったとき、
「砂月ちゃん」
とおじさんが呼んだ。
はい、と顔を上げると、
「相席いい?」
と言って笑う。
あのイケメンさんが立っていた。
何故かすごい形相で、砂月の手元の焼きそばを見ている。
この娘っ。
さんざん迷って、お好み焼きに決めてきた俺の目の前で、焼きそばをっ。
高秀は、前回も相席した美人さん、の前の鉄板でじゅうじゅう音を立てながら、香ばしい匂いを発している焼きそばを見る。
許すまじっ。
……また見知らぬ人を睨んでしまった。
いや、見知らぬの人ではないか。
前回も見てるから。
ちょっと反省しながら、軽く頭を下げ、高秀は彼女の前に座った。
そのころ、砂月は、高秀に前に座られたことで、ちょっと困っていた。
ビール。
働いてそうな人の前で頼むのは、あれだな。
でもこの人、かっちりした格好はしてるけど、スーツじゃないな、
と思ったとき、高秀が壁に貼ってある短冊メニューの方を見て言った。
「すみません。
揚げ玉のおむすびを」
――今、なんて言いましたっ?
私がいつも迷いながら、頼まない揚げ玉のおむすび、頼みましたっ?
「あと、生ビール、中で」
えっ?
あなたに遠慮して迷ってる私より先に頼みました? ビールッ。
「それと……
お好み焼きそば入りで」
入れたっ、そばっ。
お昼からっ。
いや、お昼から入れて別にいいんだが。
私が、そば入れたら重いしな。
でも、そば食べたいし、で焼きそばにしたのにっ。
なんか怨念を感じる……という目でイケメンさんはこちらを見ていた。
そんな二人を離れた席から見ているものがいた。
近所の大学生、谷田だ。
二人が最初に相席になったときも近くにいた。
……あ、あのとき、美人と相席で、うらやましいと思った人が、またあの人と相席になっている。
二人はともにビールを手に、無言で呑んでいた。
いや、美人の方の目は、男の手元の皿にある揚げ玉とネギと沢庵のおむすびを見ている。
あんなイケメンが目の前にいるのに!?
だが、その視線をイケメンに気づかれた美人は、はっ、という顔をしたあとで、間が持てなくなったのか、口を開いた。
「……あの、焼きそば、お好きなんですか?」
何故、お好み焼きを頼んでる人に……?
「お前はお好み焼きが好きなのか?」
何故、焼きそばを頼んでいる人に……?
谷田は二人が最初に頼んでいたものまでは覚えていなかった。
「いや、両方好きなんだ」
「私もです」
二人はお互いが頼んだものを熱く見つめていた。
同時に口を開く。
「半分こにしないか」
「半分こにしませんか?」
なんだろうっ。
愛がはじまりそうなシチュエーションだっ。
いや、単に二人とも食い意地が張っていただけだったのだが、恋に恋する大学生、谷田は、そう思った。
こんな出会いがあるだなんてっ。
「おい、お好み焼き来たぞ。
お前、ほんと、ここのお好み焼き好きだよな。
まあ、美味いけど。
よそのとなにか違うんだよな~」
と言う友人に身を乗り出して言う。
「なあ、今度から、一人ずつで来ないか、この店」
「えっ?
なんでだよっ。
俺、こう見えて、一人で飲食店に入れない子なんだよっ」
と小さな木の椅子にギリギリのれている感じの図体で、友人は言う。
「だって、相席になんねえだろっ」
「……なんだって?」
なんかわからんが、話を端折るな、と言われた。
例のイケメンと美人は友人の後ろ側にいたので、あの素敵な(?)出会いには気づいていないようだった。
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