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イケメンさんと相席になりました
ひょんなことから、就職が決まりました
しおりを挟むすごい。
なんという幸運っ。
お好み焼き屋の相席から就職が決まってしまったっ。
この感じだと、すぐに働ける感じだな。
もうちょっと前の職場の疲れを癒したい気もしていたのだが。
実際に、大人の夏休みのように過ごしてみると、長くダラダラしているのも、逆に疲れるなと気がついた。
よしっ。
腹くくって働こうっ。
「馬車馬のように働きますっ。
よろしくお願いいたしますっ」
と張り切ったが、
「いや……馬車馬のように働くほどの用事、今はないから」
と言われる。
「そういや、履歴書見ていいか」
「はいっ」
履歴書見せる前に決まってたな、そういえば、と思いながら、砂月は頷く。
封筒から履歴書を出した途端、高秀は渋い顔をした。
砂月を見て、また履歴書を見る。
「これは誰の履歴書だ……」
「私のです」
「言われないとわからないぞ」
「証明写真って、なんであんな極道みたいに写るんですかね?」
「……普通、極道みたいに写ったら、撮りかえないか?」
「いやー、何度撮りかえても大差ないですよ」
私はもう諦めました、と砂月は言う。
「似ても似つかぬ証明写真を眺めていると、ときどき思うんです。
証明写真の国っていうのがあるんじゃないかと」
「……なんだ、それは」
「証明写真を撮ると、証明写真の国から、自分に似た人が連れてこられて、写真に収まるんですよ。
だから、誰が撮っても上手く撮れないんです。
しかも、その証明写真の国は、ほぼ刑務所で構成されてるんですよ。
だから、大抵の人は、前科何犯みたいな顔になるんです」
そこで、高秀が呆れ顔でこちらを見ているのに気がついた。
「あっ、クビにしないでくださいっ。
何回撮っても、何処で撮っても、なんか違う人みたいに写るから。
なんでだろうなと思って、一生懸命考えたんですっ」
と砂月は慌てて言う。
ついでに、それか、と付け加えた。
「実は、私の脳内で顔が修正されてるだけで。
リアルな私は、こんな感じに極悪人みたいな顔してるとか」
「いや、普通に可愛いが」
……今、なんとおっしゃいました?
「俺の目には普通に可愛く見えるが」
意外とチャラいのだろうか、この人っ。
こんなことを平然と言うなんてっ、と思ったが、彼にとっては、
「はい、とっても綺麗な肝臓ですよ~」
と言うのと、大差ないセリフだったらしい。
なんの感慨もなく、
「お前は目鼻立ちが整っていて。
パーツのひとつひとつも悪くない。
まあ、美人の部類だろう。
あと、愛嬌があるので、可愛いのでは?」
と言われた。
「……ありがとうございます」
なんだろう。
褒められているような気もするのだが。
言葉を発している相手が、淡々として無表情だと、なにも嬉しくないな……と砂月は思った。
「では、明日からよろしくお願いいたします」
ずいぶん日が長くなってきた。
まだほんのり明るい店の外で砂月は高秀に頭を下げる。
そのとき、なにかが足にすりすりしてきた。
「あ、にゃん太郎」
と砂月は屈んでその猫の頭を撫でる。
「にゃん太郎というのか、その猫は」
時折見かけるが、と高秀が言う。
「いや、ほんとはなんて言うのか知らないんですけど。
なんかこの辺ウロウロしてるので、勝手に名前、つけたんです」
四肢を投げ出して、でーんと道に広がっている白いニャン太郎の腹を撫でてやる。
その様子を真横で眺めていた高秀が呟いた。
「こいつはダイエットした方がいいな」
今度、いい餌を買ってきてやろうと言いかけたあとで、
「待てよ。
こいつに飼い主はいるのか?」
と高秀は訊いてくる。
「さあ?
みんな適当な名前つけて呼んでるみたいなんで」
「いや、飼い猫なら、勝手に餌はやれないなと思って。
っていうか、飼われてないにしては、ふくふくしてるが」
「みんなが餌やるからじゃないです?」
「そうか。
ところで、お前、うちの病院の場所はわかるのか?」
「いえ」
「じゃあ、ちょっと案内してやる」
と連れていかれた。
その真新しい病院の場所を確認したあと、買い物があったので、高秀とは、そこで別れる。
いいベランダがあるな~、隣。
缶ビールを手に砂月は窓から隣の高層マンションのベランダを眺めていた。
こちら側には普通の窓しかないが、表通りに面した方には、広いベランダがあるようだった。
ライトアップされた木々が美しい。
なんかうちまでグレードアップされた気がする、と思いながら。
視界に入る人様の庭を眺めながら、砂月は一杯やっていた。
そうだ。
出勤時間を言うのを忘れていたな。
自宅に戻ったあと、高秀は気がついた。
電話しようと履歴書を取り出したが、ちょっと癖のある字で、0か9かハッキリせず。
電話番号がところどころわからない。
こんな数字書いてて、よくあんないっぱい資格がとれるな、と高秀は思う。
確か、秘書検定もあったが。
こんな数字を書く秘書では困るだろうに。
……っていうか、受付兼事務でも困るぞ。
思わず採用を見送ろうかと思った。
この近くに住んでいるようだが、あまり遅くに女性の家に訪ねていくのもな、と思いながら、住所の欄を見てみた。
ここから近いようだ。
『リバーサイドヒルズガーデン202』
うちみたいな感じのマンションかな。
まあ、高層マンションも新しいのがたくさん建ってるもんな。
っていうか、ニートのくせにいいところ住んでるんだな。
3丁目。
すぐ近くか。
番地を頼りに行ってみるか。
忙しくて、この辺りまだあまり散策できてないしな。
だが、道に出た高秀はすぐに気がついた。
何丁目、という境が自分のマンションの真横にあり。
すぐ隣のお好み焼き屋のブロック塀に、今まさに探していた番地の表示があることに。
……そういえば、この上、なんか部屋があるな、と高秀はお好み焼き屋の二階を見上げる。
「リバーサイドヒルズガーデン202」
リバーはどこに?
ヒルズは……まあ、なんとなくつけてるだけのマンション多いしな。
そして、ガーデンは……と思いながらその古い建物の二階を見上げる。
左側の部屋。
マンションに面している方の窓がよく見れば開いている。
高秀は自分の部屋に駆け戻った。
『決して開けてはなりません』と担当スタッフに言われた(?)窓のカーテンを開け放つ。
窓を開け、缶ビール片手に、何故かこちらを見ている砂月と目が合った。
視線をそらさないまま、缶を口元にやり、ぐびり、と一口呑んだあとで砂月は言った。
「なんだ、運命じゃないじゃないですか」
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