侯爵様と私 ~上司とあやかしとソロキャンプはじめました~

菱沼あゆ

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ダイダラボッチはなんで課長に憑いてるんでしょうね

豆のスープは美味しいです

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「で、その正体とやらが気になったので、目覚ましかけ直して、また寝たんですよ。

 でも、つづきはCMのあと、みたいな感じになっちゃって。

 あれって、CM明け、ちょっと話を巻き戻してからやるじゃないですか。

 あんな風にはじまっちゃって、なかなか正体にたどり着かなくて。

 いよいよ正体がっ!

 ってところで、目覚まし鳴って、また目が覚めちゃったんですよ。

 でも、やっぱり気になったので、また目覚ましかけて……」

「お前、よく何度も夢のつづきが見られるな」
と総司が呆れたように言ってきたが。

「いや、さすがに次は見られなかったんですよ。
 代わりに、遅刻しかける夢を見ました」
と萌子は言って、

「それ、夢じゃなかったんじゃないのか」
と総司に言われる。

「予知夢でしたね~」

 ははは、と笑ったあとで、萌子は総司の前の鍋を見て訊いた。

「ところで、課長。
 それ、スープですか?」

「そう。
 豆のスープだ。
 身体にいいぞ。

 そういえば、レンズマメは古代ギリシアでは媚薬だったんだそうだ」

 萌子は総司が炊いている鍋の中を見て言った。

「……これは、なんのスープですか?」

「ソラマメ」

 ……ですよね。

 蘊蓄言いたかっただけなんですね、課長。

 まあ、レンズマメより、ソラマメの方が好きかな~と萌子が思ったとき、鬱々とした表情で藤崎が言い出した。

「すみません。
 俺のせいで、課長まで火をつけられなくて。

 ……あ、花宮も」

 おまけのようにだが、私にも言ってくれてありがとう、と苦笑いして聞いていると、藤崎は更に謝りはじめた。

「そういえば、せっかく課長にお呼びいただいたのに、まだなにもサバイバル術をお教えできてないですね」

「そういえば、そうだな。
 じゃあ、なにかひとつ教えてもらおうか」
と総司は顔を上げて言ったのだが、藤崎は沈黙している。

「それが俺、不器用な人間なので、なにから教えたらいいのか思いつかないんです。
 今、ピンチになっていただければ、すぐに対処してみせられますが」

 課長、ピンチになってください、という顔で藤崎は総司を見ていた。

「……いや、そう言われても」
と困惑しながら、豆のスープを注ごうとして、総司は、
 
「そうだ。
 こいつなら、すぐにピンチになるぞ」
と萌子の方に視線を向ける。

「何故、そんなところにってところで、穴に落ちてたりするしな」

「いや~、あの穴、なんだったんですかね?」
と話していると、藤崎が、

「ありがたい神社の裏山なんだろ?
 なにか意味がある穴なんじゃないのか?」
と言ってきた。

「お前が言ってた島根の猪目洞窟みたいなものとか?」
と総司に言われ、

「いや、だったら、死に至ってしまうじゃないですか」
と言ったあとで、萌子はふと思う。

 実は私、あのとき、もう穴に落ちて死んでるんじゃ……。

「私、実は死んでるんですかねっ?
 じゃあ、きっと、これは死後の世界か、夢なんですよっ」

「待て。
 お前は死んでるのに夢を見るのか。

 いや、それ以前に、お前は死後の世界で、豆のスープを受け取り損ねて、辺りにぶちまけるのか」
という総司の言葉に下を見ると、総司がカップを渡そうとした瞬間に萌子が、

「死んでるんですかねっ?」
と言いながら、立ち上がったらしく、スープが少し土にこぼれていた。

 わああああっ、すみませんっ、と萌子は慌ててカップを受け取る。

 スープを飲み、
「あ、おいしい」
と言ったあとで、萌子は主張する。

「だって、
 課長と私がキャンプ友だちになるとか。

 現実にそんなことが起こるなんて、信じられないじゃないですかっ」

「いや、あやかしがそこ此処にいるのはいいのか……?」
と総司に言われ、藤崎には、

「俺とキャンプしてるのは、特になんの変哲もない日常なんだな……」
と言われ、いろいろと突っ込まれてしまったが。



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