侯爵様と私 ~上司とあやかしとソロキャンプはじめました~

菱沼あゆ

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ダイダラボッチはなんで課長に憑いてるんでしょうね

一応、女子なんですけど

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 ……なんかラブラブだな、と思いながら、藤崎は萌子の祖父母の側から、母屋寄りの境内の隅で、キャンドルを見つめているふたりを眺めていた。

 総司がいなくなったあと、
「藤崎」
と司が自分に呼びかけてきた。

 はい? とそちらに行こうとすると、司の方からやってきて、右肩の辺りを手で払ってくれる。

「落ちないな……」

「え?」

「余程、強固な霊なのか。
 この霊を憑けていたいと願うお前の願望のせいだろうか?」

 いいんだか悪いんだかわからない霊が憑いている、と司は言った。

「えっ?
 どんな霊ですか?」

「次々女性に声をかけることはできるが。
 肝心な女性には、なにも言えないタラシの霊だ」

 ……次々女性に声をかける、のところは自分とは違うが。

 肝心な女性にはなにも言えない、のところは同調できてしまうな、と思いながら、藤崎はひとりキャンドルを眺めている萌子を見た。



「じゃあ、お邪魔しました。
 ありがとー」
と萌子が総司の車に乗り込もうとしたとき、司が肩をつかみ、言ってきた。

「藤崎、憑かれやすいから気をつけてやれ。
 総司は少々悩んでも悪いものには憑かれないから大丈夫だが」

「えっ? そうなの?」
と萌子が言うと、

「あれが憑いてるから」
と司は天を指差した。

 萌子は夜空にうっすら浮かぶダイダラボッチを見上げて思う。

 そういえば、課長の上だけ雨が降らないとか言ってたっけな。

 もしかして……と思ったとき、総司が、
「花宮、出るぞ」
と言ってきた。

 はいはい、と萌子は後部座席に乗る。

 今日も助手席は藤崎に譲っていた。

 その方が緊張しなくていいからだ。

 キャンプも好きだが、こうして三人で帰り道、まったりやる反省会も好きだな、と萌子は思っていた。

「やっぱり、モスキートネットで寝ると涼しいんだ?」
と藤崎の話に萌子が相槌を打つと、総司が、

「一応、女子だからお前はやめておけよ。
 寝姿を人様にさらすとか」
と前から言ってくる。

「まあ、私の場合、別の理由もあって、人様にはさらせませんけどね」
と萌子が言うと、なんだ? と男二人が振り向いてきた。

「いや、たいしたことじゃないんですが。
 たまに、私、目を開けたまま寝てるみたいなんですよね」

 二人は想像してみたらしい。

 モスキートネットになっていて、中が見えるテント。

 そこに女子が横たわり。

 目を開けて、こちらを見たまま動かないでいるところ……。

「完全に殺人現場だろっ」

「ホラーかっ」
と総司と藤崎が言い、

「目を開けて寝るとか、蚊か? ハエかっ?」
と更に総司が乙女を例えるのにあるまじきことを言ってくる。

「……結構いますよ、目を開けて寝る人」
と言う萌子に、総司は、

「何処に?」
と突っ込んで訊いてくる。

「……えーと。
 何処かに……」
としか萌子は答えられなかった。



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