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雨が降らなくなりました
お前に買ってやらなくては……っ!
しおりを挟むさっき、花宮に、
「うちの前まで来たとき、開いてたことないでしょう?」
と言われて、つい、赤くなってしまった……。
何故、赤くなったのだろうかな、と総司は考えていた。
部下である萌子の部屋を個人的に知っている、という気恥ずかしさのせいか。
自分がアパートの前まで行けるくらい彼女と近しい間柄であることが嬉しくてか。
「いやいや、だから、アパートの前でいつも引き返してるんでしょー」
と理辺りに罵られ、瀬尾に痛烈に批判されそうだったが。
……キャンドルを買わねばな、キャンドルを、と思う総司の頭にも、あのとき言った自分の言葉がずっと残っていた。
キャンドルを買わねば、花宮に告白できない。
いや、できないわけではないのだが、それを告白するきっかけにしたい。
花宮の部屋のサイズはどのくらいだろう。
何個買ったら、キャンドルでいっぱいになるだろう。
そもそも、キャンドルでいっぱい、の定義とは如何に。
床と棚の上に敷き詰めたら、それでいっぱいなのか。
可愛く飾れる範囲がいっぱいになったら、いっぱいなのか。
っていうか、二人で出かけるたびに、一個ずつ買ってるわけだから。
何度二人でお出かけしたら、告白できるのか、
と苦悩する総司の許に、理がやってきた。
「総司ーっ。
聞いてくれよ、変なんだよっ。
なんでだかわからないけど、柴崎さんに告白できないんだよーっ」
……今、此処に柴崎さんがいたら、すでに告白していることになると思うが、
と思いながら、総司は職場の廊下で、そんなことを叫んでくる友を見た。
次の日の昼、総司は萌子たちとコンビニに弁当を買いに来ていた。
今日もふたりでお出かけと言えなくもないな、と思う総司の目には、周りにいる理や多英たちは入っていなかった。
キャンドルはないだろうか。
キャンドルは……、と思ったとき、
「課長、なに探してるんですか?」
と萌子に訊かれた。
「いや、キャ……
蝋燭を」
キャンドル、という言い方をしたら、自分がなにを考えてるのかわかってしまいそうだ、と思った総司は、思わず、そう言い換える。
「蝋燭なら、さっき見ましたよ」
ほら、と萌子が案内してくれた先にあったのは、仏壇用の小さく細い蝋燭がたくさん入った箱だった。
違う、とは言えずに、総司は、
「……ありがとう」
と言い、それを買う。
みんなで公園で弁当を食べた。
理は楽しげに、めぐと話している。
「明日は、新しいキッチンカーのランチ買ってもいいですね」
とめぐが言い、理が、
「付き合うよっ」
とすごい勢いで言っていた。
女の子に気軽に声をかけられるようになったのに、本命には告白できない、という話を理から聞いて。
例の藤崎に憑いていた霊が理に移動したのではと思い、週末、司に相談してみようと思っていたのだが。
……なんか楽しそうだから、これはこれでいいのでは、と思ってしまう。
やがて、じゃあ、帰ろうか、とみんな立ち上がった。
理は多英やめぐのゴミまで持ってやったりして、ふたりとも満更でもなさそうだった。
それを見ながら、萌子が呟く。
「……まめな男の人が一番モテるっていうの、なんかわかる気がしますね。
いや、滝沢さんはイケメンでもありますけどね」
お前、理にイケメンとかっ。
俺にも言ってな……っ
言ってるかもしれないが……。
でも、そこに価値を見出してるようには思えない口調でしか言ってない気がするんだが。
「花宮」
とみんなとともに歩き出した萌子を総司は呼び止める。
なんですか? と萌子が振り返った。
「やろう」
と総司は萌子に蝋燭のつまった青い箱を渡した。
「126本入りだ」
何故っ!? という顔を萌子はする。
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