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ゼロどころか、マイナスからの出発
相変わらず犬コロみたいで可愛いな
しおりを挟む結局、大吾は、『呪いの村に行ってきました』というお菓子をくれた。
……ちょっと食べたくない。
っていうか、呪いの村を売りにしている観光地なのだろうか。
そんなところで、フィールドワークやって、なにか民俗学の参考になるのだろうか。
なんの専門なのか聞いてはいないし。
そういえば、じっくりは見なかったあの名刺の表にも書いてなかった気がするのだが。
まあ、民俗学をやってるんだろうな、とは思う。
これで数学とかだったら、ビックリだ。
未開の呪いの地に、インドの「ゼロ」よりすごい発明でもあったのかもしれないが。
そのとき、
「父親~」
と手をふりふり日向が店に飛び込んできた。
「おお、日向かっ。
相変わらず犬コロみたいで可愛いなー」
大吾はそう言い、日向を抱き上げたあと。
逞しいその片腕で抱いて、頭をわしわし撫でていた。
……犬コロ扱いしているその子は、あなたの親戚ですが。
見ると、まだ店の外にいた幾夫が遠目だとよくわからないらしく、
この人、どっち!?
という顔をしていた。
いやいや、大吾さんに決まってるではないですか。
青葉さんがこの時間に探検家の服など着て現れるとしたら、それはもう、社長を退陣させられたときだと思いますよ……。
っていうか、同じ顔、同じような体格でも、青葉さんの方が格好いいですしね。
いえ、ひいき目ではなく、とあかりは思う。
真面目に思う。
本気でそう信じて思う。
一ミリの疑う余地もなく思う。
まあ、孔子がそれを聞いたら、
「いやあんた、筋肉が違うでしょうがっ。
筋肉がーっ」
と叫ぶことだろうが。
大吾に高い高いして遊んでもらったあと、
「おねーちゃん、あの人に水あげた?」
と日向が笑顔で訊いてくる。
「あ、大丈夫。
あげといたよ」
そうあかりが言うと、大吾が、ん? とおじいさんの人形の方を見る。
「ああ、あの店の隅のご老人か」
と言った。
今、この人、生きてる人みたいに言いましたよっ、と幾夫と二人、震え上がる。
やがて、日向は飾りとして置いていたレトロなオーブントースターで遊びはじめた。
「は~い、クッキーで~す」
日向は、ととととっとあかりの元に、なにかを運ぶフリをする。
「ありがとうございます~」
とあかりが言うと、日向は笑顔で、
「焼いて食べてくださいね~」
と言った。
焼いて?
生なのか……?
「はい、こちらは誕生日になります~」
と日向は大吾のところにも、なにか持っていくフリをする。
誕生日ケーキのことだろうか……と思ったとき、日向は、あ、と気づいたように小さなお口に手を当てて言った。
「おまちください。
ちょっとオーブンで冷やしてきますね~」
大吾に、
「……ツッコミどころ満載だな。
さすがお前の子だな」
と言われたが。
いやいや、何処の子でもこんな感じですよ、この年頃、と思う。
まあ、普段、小さい子との接点なんてないんだろうな、と思い眺めていたが。
大吾は戻らなければならない時間まで、ちゃんと日向のおままごとに付き合ってくれていた。
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