64 / 86
ゼロどころか、マイナスからの出発
恐ろしい秘密
しおりを挟む「で、これがムーミンランドで。
こっちが大学。
そして、これがフィンランドのおうちです」
とあかりがスマホの写真を見せてくれる。
白と水色で統一された落ち着いた内装の部屋だった。
真っ白なソファに、ぽんと置かれたクッションも。
壁にかけられているシンプルな絵もセンスがいい。
「これは、アパートか?」
「いえ。
知り合いのうちを借りてたんです。
中の家具とかも最初からついてたんで、すごく助かりました」
青葉はその白いソファに座り、あかりを見上げている自分を想像する。
それはリアルにあったことのような……
ただの妄想のような、と思ったとき、あかりが道から撮ったらしい家の写真を見せてくれた。
確かに一軒家のようだった。
だが、それよりも気になることが……。
「この玄関扉、可愛いですよね。
このランプ、あのランプなんですよ」
とあかりは後ろを指差したようだが、振り向けない。
この扉……っ。
真っ白の木の扉に金色のノブ。
その横に、今、奥の水色の扉にかけてあるのと同じランプがかけてあった。
ほんのり灯りのともったそのランプに照らし出された白い扉を見ていると、自分の中の扉が開きそうな気がした。
記憶の扉だ。
さっきまで、そこを開けて、笑顔のあかりが飛び出してくるのを切望していたのに。
今、急いで、心の扉を閉めてしまった自分に気づいていた。
……なんなんだろうな。
なにかよくない記憶がそこから、溢れ出してきそうな。
そんな気がしていた――。
うーむ。
あかりの心の扉が開きかけているのに、こちらが急いで閉めてしまった。
もしかして、俺が記憶をなくしたのは、事故のせいじゃなくて。
なにか封印しておきたい記憶でもあったとか?
「木南さん、どうかしましたか?」
そんな青葉の動揺に気づき、あかりが心配そうに訊いてくる。
「いや……」
最初は黙っていようかと思ったが。
こんなことで、せっかく近づいたあかりとの距離がまた開いてしまうのは嫌だな。
そう思った青葉は覚悟を決め、訊いてみた。
「お前、フィンランドにいた頃、俺になにか秘密にしていたことはないか?」
「えっ?」
「なにか俺に恐ろしい秘密を隠していて、それで。
それに気づいた俺は……」
愛するあかりの秘密を見て見ぬフリするために、記憶を失ったとか――
と言おうとしたとき、あかりが言った。
「まさか。
それに気づいた私が青葉さんを殺害したとかっ?」
「……俺、生きてるよな」
「……すみません。
昼間、お客様が来ないとき、再放送の二時間サスペンスを見てるので」
じゃあ、毎日、ずっと見てるんだな……。
「まあ、私みたいにずっと見てなくても。
日本人には二時間サスペンス脳の人、多いと思うんですよね~」
「そんな脳みそ、捨ててしまえ。
だが、まあ、そのあと、俺が事故にあったのは確かだな」
「すると、私の恐ろしい秘密を知った青葉さんを誰かが事故に――」
あかりはまだ、二時間サスペンスの世界から抜け出せないようだった。
「待て。
なんでお前が他人事みたいに語ってるんだ。
誰かが事故にって誰なんだ。
その場合、俺を事故にあわせるのはお前だろう」
「……ですから、共犯者がいるのかもしれません」
そう真面目な顔であかりは言う。
「何処に?」
「さあ?」
「……自分で言っておいてなんだが。
そもそもお前に俺に隠しておかねばならない恐ろしい秘密なんてあるのか」
「青葉さんに隠しておかねばならない恐ろしい秘密……?」
今の話の流れのせいで、現在の自分込みで、『青葉さん』と言われてる気がして、ちょっと嬉しかった。
あかりが愛した青葉も自分だとあかりが認めてくれた気がしたからだ。
だが、自分の中に流れ込もうとしている青葉の記憶は、得体が知れないもののように感じはじめていて。
ちょっと怖くなってきてはいるのだが――。
「うーん。
なにかありましたかね?」
「……ないのなら別にいいんだぞ」
「いや、待ってくださいっ。
もしかしたら、あれかも……っ」
と、あかりは青ざめる。
「あれってなんだ?」
「……すみません。
ご記憶にはないでしょうが。
実は、ちょっと残っていたコンディショナーの容器にうっかりシャンプーを足してしまって。
勝手にコンディショナー イン シャンプーになってたの、青葉さんに言うの忘れてました……」
「じゃあ、どっちもシャンプーで永遠にあわあわだったんじゃないか」
「怒られなかったので、気づかなかったのかなと思ったんですが」
「……付き合いたての可愛い盛りだから、少々のミスは見逃したか。
俺が浮かれていて気づかなかったかだな。
どのみち、殺されるかけるような秘密じゃないと思うが……」
「そうですね。
あっ、いや、待ってくださいっ」
とあかりは手を突き出す。
「そういえば、二人でソファに座ってテレビを見てたとき。
なんか外国の料理が出てて。
青葉さんが美味しそうだなって言って。
あ、私、これ、作ったことありますって、つい言っちゃったんですけど。
よく考えたら、ゲームの中で作っただけでした。
あとで気がついたんですけど。
今度、食べてみたいな、お前が作ったやつって、青葉さんが素敵な笑顔で微笑んできたので、言えなくて……」
「……一週間しか一緒にいなかったのに、よくそれだけ、ボロボロしょうもない話が出てくるな。
っていうか、そんな記憶ばかりなんだったら、別に思い出さなくてもいい気がしてきたぞ」
お前のそんなしょうもないところは、今でも頻繁に見ている、とあかりに言った。
「いやいやいや、あれかもっ。
それとも、あっちかもっ」
とあかりは悩みながら、突き出した手をぐるぐる回している。
「……待て。
ありすぎじゃないか?
お前の恐ろしい(?)秘密」
24
あなたにおすすめの小説
半年間、俺の妻になれ〜幼馴染CEOのありえない求婚から始まる仮初の溺愛新婚生活〜 崖っぷち元社畜、会社が倒産したら玉の輿に乗りました!?
とろみ
恋愛
出勤したら会社が無くなっていた。
高瀬由衣(たかせゆい)二十七歳。金ナシ、職ナシ、彼氏ナシ。ついでに結婚願望も丸でナシ。
明日までに家賃を用意できなければ更に家も無くなってしまう。でも絶対田舎の実家には帰りたくない!!
そんな崖っぷちの由衣に救いの手を差し伸べたのは、幼なじみで大企業CEOの宮坂直人(みやさかなおと)。
「なぁ、俺と結婚しないか?」
直人は縁談よけのため、由衣に仮初の花嫁役を打診する。その代わりその間の生活費は全て直人が持つという。
便利な仮初の妻が欲しい直人と、金は無いけど東京に居続けたい由衣。
利害の一致から始まった愛のない結婚生活のはずが、気付けばいつの間にか世話焼きで独占欲強めな幼なじみCEOに囲い込まれていて――。
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
絵麻
恋愛
桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。
父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。
理由は多額の結納金を手に入れるため。
相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。
放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。
地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。
妖狐の嫁入り
山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」
稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。
ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。
彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。
帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。
自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!
&
苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る!
明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。
可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ!
※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~
有木珠乃
恋愛
両親を亡くし、二人だけの姉妹になった一ノ瀬栞と琴美。
ある日、栞は轢き逃げ事故に遭い、姉の琴美が務める病院に入院することになる。
そこで初めて知る、琴美の婚約者の存在。
彼らの逢引きを確保するために利用される栞と外科医の岡。
「二人で自由にならないか?」を囁かれて……。
花も実も
白井はやて
恋愛
町で道場を営む武家の三男朝陽には最近、会うと心が暖かくなり癒される女性がいる。
跡取り問題で自宅に滞在したくない彼は癒しの彼女に会いたくて、彼女が家族と営む団子屋へ彼は足しげく熱心に通っているのだが、男と接客している様子を見ると謎の苛立ちを抱えていた。
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる