同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ

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知らない人がとなりにいます……

下町の食堂

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 次の日の昼前。

 田中はすぐ近くの食堂に向かい歩いていた。

 みんなで出前を頼むことになったのだが。

 電話しても、その食堂の人が出てくれないのだ。

「忙しいと出てくれないらしいよ。
 店は開いてるはずだから、配達してもらえないか、訊いてきてー」
と頼まれたのだ。

 ……電話に出られないほど忙しい店が配達してくれるだろうか、と思いながら、長閑な住宅街を歩く。

 小さなビルなんかもところどころにあるが、どれも、ちょっと古びていて、落ち着く雰囲気だ。

 人のいいおばあさんが経営してそうな食堂がすぐ近くにあった。

 田中はガラガラと重いガラス戸を開け、中を見る。

 客は多いがてんてこまいという雰囲気ではない。

 単に出前を受けたくなかったのかなと思ったが、何故か赤いエプロンをつけた若い娘が足を押さえて、床にうずくまっていた。

「いつまで、しゃがんでるんだいっ」
と奥からおばさんが顔を覗ける。

 全然、人の良いおばあさんな感じではない……。

「……イタイ。

 コユビ。

 イタイ」

 娘は何故かカタコトな感じにしゃべる。

 どうやら、テーブルの脚で小指を強打し、悶絶しているようだった。

「ほら、男前のお客さんが来たよ。
 注文訊きなっ」

「めぐるちゃん、代わりに訊いてあげるよ」
と同情したのか、レジ付近に財布を持って立っていたおじさんが苦笑いして言う。

「……めぐる?」

 まだコンクリートの床の上にしゃがみ込んでいる娘を見ると、彼女が顔を上げた。

 ちょっと幼くも感じるが、綺麗な顔をしている。

 紛れもない、天花めぐるだった。

「あ、私の代わりに補充された人……」
「俺の前座……」

 お互いを見て、二人は、そう呟いた。
 


 なんで、前座だ……と思いながら、めぐるは田中の注文を受けていた。

「いや~、すみません。
 電話、最初は手が回らなくて、とれなくて。
 次は足強打して、とれなくて」

「ああ、忙しいところ、すまなかったな。
 配達は遅くなってもいいそうだから」

 そう田中は言ったが、奥から、祖母、百合香が、

「なに言ってんだい。
 あのじいさん、そう言いながら、遅いとうるさいんだよ。

 めぐる。
 すぐ作るから持っていきな」
と言ってくる。

「あ、じゃあ、待ってるから。
 俺も運ぼう」
と田中が言ってくれた。

 大丈夫ですよ、と言ったものの、数が多かった。

 オムライス5個、半チャーハンにラーメン……。

 オムライスが多いな……。

 めぐるは、可愛い子どもたちがオムライスを待っている姿を想像した。

 住所を訊く前に、田中が一緒に行ってくれると言ったので。

 何処に持っていくのかは訊いていなかった。

 百合香は何処からの注文だかわかっているようだったし。

 


 料理ができるまでの間、田中には空いているカウンターに座ってもらっていた。

 暑い中来たんだろうと思い、冷たい水を出してみる。

「……ありがとう」

 こちらを見上げ、田中が言った。

 ……ほんとうに綺麗な顔してるな。

 だからどうというわけでもないのだが……。

 静かに座っている田中の横がレジなのだが。

 何故かお金を払うおじさんたちはみな、ニコニコと田中を見ていた。

 中には、ぽんぽん、と肩を叩いていくおじさんや、握手を求めるおじさんがいて、田中はいちいち、

「ありがとうございます」
と頭を下げている。

 ……いや、なんの儀式っ?
とそちらを窺いながら、レジを打つ。

 出ていくおじさんたちが小声で話しているのが聞こえてきた。

「……死神……

 ホンモノの方が男前だねえ……」

 死神ってなに?

 ホンモノの方が男前?

 ニセモノは何処にっ?
とか思っているうちに、料理ができあがった。

 二人でおかもちを抱え、店の外に出る。

 


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