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おまけ めぐる&田中のその後――
怖くて訊けない
しおりを挟む実家の居間の固定電話を切って部屋に戻ると、田中は本棚の前に立って、分厚い文庫本を読んでいた。
「あ、それ、もう読んだんで、お貸ししますよ」
と言ったが、いや、いい、と言って、田中は棚に戻した。
「電話、なんだったんだ?」
「ああ、今度、幼稚園のときのメンツでも同窓会をやろうかって話になったみたいで」
と言うと、田中は沈黙する。
「どうかしましたか?」
「……いや、別に。
ところで、来た途端に、お前が電話に出てしまったので、聞きそびれていたんだが。
その服はなんなんだ」
めぐるはチャイナっぽいフリースとパンツを着ていた。
「ああ、スランプ脱出の気分転換にと思って、気功をはじめたんです。
で、まずは衣装からと思って。
はっ」
とめぐるは片手を田中に向かい突き出してみせる。
「……俺は飛ばされてみせないといけないのか?」
「いえいえ。
動画見ながら軽くやってるだけなんで」
とめぐるは笑う。
「まあ、軽く吹き飛ばしたい人はいるんですけど」
「誰なんだ?」
「若林さんです」
「若林か」
二人同時に言っていた。
田中も相変わらず、無理難題を言われたりしているようだった。
だが、ああ見えて、いろいろ情報を集めてきてくれたりと、気まぐれに親切なときもあるので、頼まれると断りづらかった。
「……そういえば、このところ、海外からもよく電話がかかってるみたいだな」
「そうですね。
新しい店舗のことで」
田中はまた沈黙した。
「田中さ~ん、こっちでお茶飲まない~?」
と母親が扉の外から声をかけてきた。
「ありがとうございます」
と言う田中の声を聞きながら、めぐるは、
『田中竜王のところに住めばいいじゃないですか。
実家帰ってないで』
と言う若林の言葉をふと思い出していた。
その日、田中は黒木田や久門たちと焼き鳥の店に行っていた。
焼き鳥の店というから、もっと騒がしい感じを想像していたのだが。
落ち着いた雰囲気の店だった。
久門と健が雑誌で見て、行きたいと言ったらしい。
店内にはタレの焦げるいい匂いが漂っていた。
コース料理のように、小さな皿に一本ずつ焼き鳥が出てきて上品な感じだが。
黒木田は、
「美味いが、なかなか腹一杯にならないな……」
と呟いていた。
「雰囲気。
雰囲気を楽しもうよっ」
と久門が言う。
こういうところでは、なぜか黒木田より久門の方が大人な対応を見せる。
……将棋のときの落ち着きのなさはひどいのにな、と思いながら眺めていた。
そういえば、最近、健はよく久門と将棋を指しているようだった。
健はまだ将棋の世界に戻れていないし。
研究会というわけでもないようなのだが。
異色の組み合わせだが、お互い学ぶところが多いと言っていた。
なんだかんだで、みんな真面目なんだよな。
いる世界は違うけれど、めぐるも――。
このところ、海外からの電話が多いのが気になる、と思ったタイミングで、店員さんがやってきて、黒い小皿が置かれた。
ぽってりとした黄身の横につくねの串。
見た目綺麗だから、喜びそうだが。
実はあいつの苦手なものばかりだな……とつい、また、めぐるのことを考えていたとき、
「そういえばさー。
この間、めぐるんちゃんとバッタリ会ったんだけど」
と久門が語り出した。
「ドラッグストアの前で、スマホで話してて。
なんか外国語だったよー」
……なんか外国語。
久門の言うことはあいかわらず、ザックリしていた。
「めぐるんちゃんって、あれ?
もう海外戻っちゃうの?」
「いや……」
そうとは聞いていないが。
新店舗がどうとか言ってたな。
なんだか訊くのが怖くて訊けていない……。
そんな乙女のようなことを田中は思っていた。
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