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おまけ めぐる&田中のその後――
めぐるは海外に行ってしまうのだろうか
しおりを挟む店を出たあと、久門と健はまだ呑みに行くと言うので、そこで別れた。
「ちょっと足らなかったな」
バス停に向かい歩いていると、黒木田がそんなことを言ってくる。
「そうだな」
「めぐるんのおばあさんの店のチャーハンとラーメンが食べたい」
と言う黒木田に、
まだそんなに入るのかっ、と衝撃を受ける。
だが、もちろん、もう店は閉まっているので、屋台で、並んでラーメンを食べた。
「めぐるんが海外に行くのなら、これを機にプロポーズしたらどうだ」
珍しいっ。
黒木田が親身になって考えてくれているっ、と思ったが。
「お前が王将戦で勝って……
いや、勝たなくていいか。
王将戦で負けて、めぐるんに養ってくれって言うんだ……」
そこで黒木田は黙り、
「いや、やはりフラれろ」
と言い出した。
おい……。
「それで、めぐるんはひとり海外に行き。
数年後、俺がイベントのために出かけた異国の地で、めぐるんと運命的な再会をするんだ」
「……お前、もう作家になれよ」
と言いながら、田中は残りのラーメンを啜った。
めぐるは海外に行ってしまうのだろうか。
第二局を前に、コスプレ以外の心配ごとができてしまった――。
その日、めぐると田中はあの川沿いの長屋を見に行っていた。
取り壊され、瓦礫が撤去されている最中なのだ。
――田中さんに初めて出会った同窓会。
帰りに家まで送ってもらったっけな、とめぐるは珍しく感傷的になって、向かいの歩道から工事の様子を眺めていた。
一緒に見ている田中はここのところ、浮かない顔をしている。
「あの、田中さん」
とめぐるは呼びかけた。
訊くのなら、周りに誰もいない今だと思ったからだ。
「心配ごとがあるのなら言ってください。
私ではお力になれないかもしれませんが」
田中が振り向き言う。
「お力にはなれる。
――というか、お前しかなれない」
そうなんですか?
と見つめたが、田中は次の言葉を出さなかった。
工事車両の音がすごいせいで聞こえないのかな? とも思ったが。
田中の唇はまったく動いてはいなかった。
あまりの長い沈黙に、実は今、腹話術でなにか言ったのだろうか、と一瞬、疑う。
いきなり黙り込むことの多い田中だが。
今のは、なにか言葉のつづきがありそうだったのに。
めぐるは運ばれていく長屋であった物を見ながら言った。
「ここ、買おうかと思うんです」
「え?」
「この場所、なんか良くないですか?」
更地にして売り出すそうなんですよ、とめぐるが言うと、田中は、
「俺はどうなる」
と言ってきた。
――なぜ、俺?
どうしました、いきなり、と思ったとき、田中が言う。
「ここ買って別荘にでもするのか?
お前、同窓会に行って、遠くへ行くんだろう」
「同窓会行ったら、なぜ遠くに行くのかわかりませんが……」
めぐるは田中の謎の発想について考える。
「同窓会に行って、昔の借金を思い出した同級生に追われて、逃亡するとか?」
「……あるのか、昔の借金」
「いや、ないですけど」
「同窓会で好きな男ができたりするかもしれないじゃないか……」
できましたけど、田中さんですよ。
「新しい店舗の経営に乗り出したりもしているようだし」
乗り出してはいけないのですか。
「あのー、なんだかよくわかりませんが。
同窓会、一緒に来られますか?」
えっ? という顔を田中はした。
「知ってる人もいますよ、清水とか」
「清水、幼稚園も一緒だったのか。
もう、奴が運命の人なんじゃないのか」
なぜ、幼稚園と小中が一緒だっただけで運命の人に……。
「えーと。
新しい店舗も一緒に見に行かれますか?」
「……いや、いきなり海外には」
対局もあるし、という田中に、
「都内ですよ」
とめぐるは言った。
「は?」
「こっちの百貨店に出店するんです。
スランプになる前から来てた話なんですけど。
この間から、その打ち合わせでフランスから結構、電話かかってきてたんですよね」
「海外に行くんじゃないのか」
「いや、しばらく行かないですけど?」
新店舗の打ち合わせはネットと電話でできますしね、と言うと、田中は、
「そうか……」
と言ったが。
また腹話術でもやっているのか、しばらく、なにも聞こえてこなかったので、めぐるは自分で訊いてみた。
「あのー、海外に行くんだったら、なにがあるんだったんですか?」
すると、田中はまるで、今後の対局の予定を語るように淡々と言う。
「いや、海外に行くのなら、今しかないから、プロポーズしようかと思ってたんだが」
「……じゃあ、今から行ってきますよ」
「いや、行かなくていい……」
ガーッと大きなトラックがやってきて、また瓦礫を運び出しはじめた。
田中は、そちらを見ながら、ふと思い出したように言う。
「待てよ。
対局で勝ってから、俺がチョコの扮装をして、プロポーズしないといけないんだったか」
チョコの扮装ってなんだ……。
「パティシエの格好ですよ。
あと、プロポーズするのは、私の方でしたよ、確か」
「そうか。
ところで、こうして、お前に、どうやってプロポーズしようかと語っているだけで。
すでにプロポーズしていることにならないか?」
「……気のせいですよ」
そう言ったあとで、めぐるはちょっと笑ってみせた。
「……そうか、気のせいか」
そんな話をしながら、二人は、のちに二人の新居が建つ川沿いの土地から歩いて帰った。
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