昨日、あなたに恋をした

菱沼あゆ

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完璧だったはずの男

素直すぎるっ!

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 なんか大変なことになっている……。

 ゆーちゃんと東城先輩がゆっくり話せるよう、気を利かせたはずなのに、
と日子は新太と裕子のやりとりを見ながら青くなっていた。

「でも、東城って、ストー……」
と本人を前に新太が言いかける。

 そう。
 東城は社長のお嬢さんをストーキングしていると噂になって、前の会社をやめたのだ。

「いいえ、なにも知りませんっ。
 私は東城さんを信じていますっ」
と繰り返す裕子に向かい、新太は笑って言った。

「ストーカーだよ。
 日子の。

 いいの? そんなやつで」

「は?」

「は?」

「は?」

 最後の「は?」はようやく来た誠孝だった。



「なんでいるんですか、沙知見さんっ」
と誠孝の登場に、裕子は驚いていた。

 だが、
「おお、シゲタカ」
とベルゼブブ新太が言ったので、

「なんだ、新太さんのお友だちなんですね」
と裕子は納得する。

 それで待ち合わせのため、ここに来たのだと思ったようだった。

「それで、あの、東城さんが楓さんのストーカーって、どういうことなんですか?」

 そう訊く裕子に新太が言った。

「だって、こいつ、昔から日子好きだもん。

 偶然装って、本屋に行って待ち伏せてたり。
 大学行くのに、わざわざ遠回りして、高校に行く日子と出会おうとしたり。

 挙句の果てには、日子のマンションの警備員とか。
 そりゃもう、ストーカーだろ」

 いや、待って、新ちゃん……。

 少なくとも、ひとつは間違っている、と日子は思っていた。

「いや、あの新ちゃん。
 東城さん、私より先にここにいたから。

 それに、よく出会ってたのは、たぶん……狭い街だから」

 いや、そういえば、かなり他の人よりバッタリ出会う確率高かったな、
と思いながらも、日子は東城をかばうために、そう言った。

「新太さん、そういうのはストーカーではないですよ」
と意外にも誠孝も割って入ってくる。

「遠くから、ちょっとだけでも眺めていたいとか。
 ほんの少しでも会話がしたいとか。

 思うことあるでしょう? 誰でも」

 あるんですかっ? 沙知見さんっ、と日子は驚いていたが。

 まあ、東城先輩をかばってのことかもしれないな、とも思う。

 失礼だが、あまり恋愛とかしそうにはないタイプに見えていたからだ。

「そうか?
 俺は好きなら、偶然を装ってバッタリ会って、ちょっと話すとかじゃ満足できないけどな。

 いつも側にいたいし。
 いっぱい話したい」

 いや……、新ちゃんはそういう人だけどね。
 なかなか人は、そうはいかないんだよ、と思ったとき、新太が言った。

「まあ、ともかく、この件に関しては、冤罪であることは明らかだ。
 だって、こいつは日子のストーカーで、その社長令嬢とやらのストーカーじゃないからな」

 どうも、その社長令嬢、東城を好きすぎて思いつめて、言いふらしてしまったようだ、と新太は言う。

「妄想の域に達していたのかもしれん。
 東城は彼女に恥をかかせてはと思って、会社をやめて去ったんだろう。

 自分はクビになったと周りに言って。
 やさしい奴だからな」

 いや、そんなことは……と東城は俯き言ったが、たぶん、それが真実なのだろう。

 前の会社の人たちも、東城と親しい人はすべて察していたに違いない。

「でもそれ、東城さんが彼女にストーキングされたりしませんか?」
と裕子は心配したが、新太は、

「いや、親も事情はわかってたみたいで、海外に留学させて、東城から引き離したらしいから」
と言う。

「でも、私なら、ひっそり戻ってきて、日々、物陰から東城さんを眺めては、
『今日の私の東城さん♪』とか日記を書きますよ」

 裕子の言葉に妙なリアリティがあって、ひっ、と怯えた日子と誠孝は周囲の木の陰とかを探してしまう。

 だが、裕子は、
「でも、大丈夫ですっ。
 私がその社長令嬢から、東城さんを守りますっ」
と宣言した。

「そして、いつの日か東城さんに私のストーカーになってもらえるよう、頑張りますっ」

 いや、そこは頑張らなくていいのでは……と日子は思っていたが、振り向き笑った裕子は、

「そのくらい素敵な女性になれるよう頑張るって意味です。
 目標は日子さんですっ」
と言う。

 あ、日子になった……と苦笑した日子の横で、誠孝が、

 いや、こいつを目標にするのはやめた方が……という顔をしていた。

 東城が、
「そもそも俺は誰のストーカーでもないんだが……」
と呟いたあとで、日子をチラ、と見る。

 だが、日子が視線を合わせると、珍しく少し赤くなり、目をそらしてしまった。

 ベルゼブブ新太が、
「よしっ。
 偉いぞ、ゆーちゃん」
と言って裕子の頭を撫でると、裕子は、

「わ~っ。
 やめてくださいっ。

 今、東城さん一筋と誓ったばかりなのに、めっちゃ揺らいじゃいます~っ」
と真っ赤になって言う。

 ……ゆーちゃん、素直すぎ。
 でも、そういうとこ、結構好きだな、と思い、日子は笑った。



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