あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~

菱沼あゆ

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一夜一夜にヒの一夜が消えました……

イケメンの呪いのせいか

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「のどかさん、帰ってしまいましたけど、よかったんですか?
 夕食の話、つめとかなくて」
と振り返りながら、北村が言う。

 貴弘は、
「いや、なにか言う雰囲気にならなくて……」
と言ったあとで、

「まあ、あとでまた連絡するよ。
 イケメンが放り込まれる呪いとかあやしいこと言ってたからな」
と一応、手許の資料に目を落としたが。

 のどかが語って言った一連のあやしい話ばかりが頭を回り、

「……単に、勝手に部屋に入り込んだ隣の奴が、呪いだとか言ってるんじゃないのか?」
と、つい、呟く。

 さすがに会社で、猫耳神主が、とか言いにくかったので、のどかは、イケメンの呪いの話しかしていなかったのだ。

 いや、それだけで、どうかと思われる内容なのだが――。

「ともかく、あとで行ってみるよ」
と貴弘が言ったとき、

「社長っ、すみませんっ。
 今、出先なんですけど……っ」
と焦った感じの電話が入ってきた。

 連休中、止まっていた仕事が動き出し、発覚していいなかったトラブルも動き出す。

 仕事に忙殺されているうちに、また日付が飛んでいた。

 タイムスリップだろうか……とほとんど人の立ち入らない、吸わない人の部屋で目を覚ました貴弘は思う。

 徹夜明けの土日なので、誰も居ない。

 そうだ、のどかは……?

 渡した連休中のバイト代も尽きてそうだし、ちゃんと食べているだろうか、と子どもかペットを心配するように心配し、貴弘は昼間の眩しさに目をしばたたきながら、ビルから出た。

 


 その庭先に立った貴弘は、とある昔話を思い出していた。

 都から帰ってくると、昔と変わらぬ美しい妻が出迎えてくれるが。

 目が覚めてみれば、そこはあばら屋で。

 妻はとっくの昔に死んでいたという。

 ……いや、此処は最初からあばら屋なんだが。

と一応、自分が所有している雑草まみれの家を見上げ、貴弘は思う。

 日中見ると、より、あばら屋だな……。

 どうしてこの家に文句も言わずに住んでるんだ、のどか。

 イケメンの呪いのせいか。

 うちのマンションはオール電化だし、食洗機もついてるし、オートロックだし、なにかあれば、警備会社も飛んでくるから、呪いにより人が放り込まれても、すぐにおかえりいただけるぞ。

 などと思いながら、庭先に突っ立っていると、縁側を通りかかったのどかがこちらに気づき、ガラス戸をガタピシ言わせながら開けてくれる。

「成瀬社長、お元気でしたか?」
と他人に向かい、呼びかけるように言ったのどかの手にはキャットフードの入った皿があった。

「どうした。
 まさか、金がなくなって、それを食っているのか?」

「いやいや。
 大丈夫ですよ。

 これはうちの猫のです」

 猫、居たのか、本当に……と思う貴弘に、

「キャットフードなんて食べるわけないじゃないですか」
とのどかは笑う。

「私が食べてるのは雑草ですよ~」

 ……いや、なにも大丈夫ではない、と貴弘は、雑草まみれのあばら屋で笑う妻を見た。
 



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