あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~

菱沼あゆ

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一夜一夜にヒの一夜が消えました……

庭の草って食べられるんですよ?

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「八神ー。
 お前、まだ金ないのか。

 貸してやろうかー」

 片手に缶コーヒーを持ち、片手で署の古いパソコンのキーボードをぽちぽち打っていた八神は、そんな先輩刑事の言葉に、

 いや、まだ金ないのかって。
 給料日前に、突然、金が何処からか現れたら、それは、なんかヤバイことやってるか、博打だろうよ、と思いながら、

「お金はないけど、なんとかメシは食えそうなんで、大丈夫ですー」
と振り返らずに返す。

 すると、側に来たその先輩刑事、高円寺こうえんじは、
「おっ、なんだなんだ。
 彼女でも出来たかっ。

 いいよなー。
 ツラがいいと、金なくても生きてけるよなー」
と言い出す。

 自分の父親より少し下くらいの歳の高円寺は、何故かこの手の話が好きだ。

「いや、女には違いないんですが。
 お隣さんですよ。

 お金がないって言ったら、ご飯作ってくれたって言うか。
 一緒に作ったって言うか……」

 作らされたって言うか……とだんだん声が小さくなっていったが、高円寺はその辺の微妙な感じは読み取ってはくれず、

「美人か?
 お隣さん」
と突っ込んで訊いてくる。

「はあ、まあ……美人でしょうね。
 っていうか、可愛い? 感じなんですけど」

 つい、? をつけながら語ってしまう。

 いや、見た目は申し分なく、美人で可愛いし、スタイルもいいのだが……。

 なんというか、そこはかとなく得体の知れない感じなのだ。

 ぼんやりし過ぎてて、得体が知れないというか。

 度胸が据わりすぎてて、得体が知れないというか。

 なんで、若い娘が、あの呪いの部屋のある家に平気で住んでるんだ。

 いや、まあ、あの家に住んでるのは俺も同じだが……と思う八神に
「おっ、美人なのかっ?

 いいじゃないか、いいじゃないか。
 でっ?」
と他の連中も身を乗り出してくる。

「好みなのか?」
と三つ上の先輩刑事、桑原が爽やかな笑顔で訊いてきた。

「まあ、好みでないこともないんですが。
 なんていうかこう……

 ……得体が知れない感じで」
と思ったままを暴露してみたが、既に盛り上がっているみんなは、

「そうか、ミステリアスな美女なのかー」
と言っている。

 ミステリアスな美女?

 まあ、そう言えなくもないんだが……と八神は、昨日、夕暮れの庭でのどかがと出会ったときのことを思い出す。




 夕方、
「あ、お隣さん、こんにちはー」
とちょうど帰ってきた自分を見て、のどかはあのぼんやりした調子で声をかけてきた。

 そんなこんなで話しているうちに、のどかが何故、庭に立っていたのかという話になった。

「いや、お金がなくてちょっと」
とのどかは言う。

 まあ、こんなところに住んでるくらいだからな、と思っていると、
「そうだ。
 庭の草って結構食べられるらしいんですよ」
とのどかが言い出した。

 どうやら、庭の草をむしって調理しようとしていたようだ。

「元は雑草だった野菜もあるし、雑草になった野菜もあるらしいですしね」
と言うのどかに、へえー、と感心して、八神は言った。

「じゃあ、俺も金がないから、庭の草でも食ってみるかな」

 忙しくてあまり家に居ないので、自分の家の前も草ぼうぼうだった。

「そうですか。
 じゃあ、一緒に、どうにかして雑草食べましょう!」

「いや、レシピ知ってるとかじゃないのかよ……」
 



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