あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~

菱沼あゆ

文字の大きさ
90 / 114
いつもより多めに懐いています

改良型タンポポコーヒーですっ

しおりを挟む
 


 その二日後、貴弘が、
「普段、ひとりで回す気なら、やっぱり、手際のよさが大事だろ」
と言い出したので。

 八神や飲みに来ていた飯塚と一緒に、調理器具や皿の配置をキッチンで考えていると、突然、ぎゃーっという声がすでにあばら屋敷でないあばら屋敷の中に響いた。

 急いで行ってみると、また呪いの部屋にイケメン様が降ってきている。

 今度のイケメン様は茶髪でヘッドフォンをした今風の若者だった。

 やはり、靴は履いていない。

「大丈夫ですか? イケメンさん」
とのどかは話しかけたが、制服姿の彼はヘッドフォンを外しながら、

「あ、はい。
 えーと……。

 俺、なんで此処に」
ときょとんとしている。

「あ、まあ、とりあえず、なにか飲み物でも」
と言いながら、のどかは訳がわからないといった様子のイケメンくんを庭が見渡せる窓際の席に連れていく。

「……なんすか、此処。
 素敵じゃないですか」
とイケメンくんは庭を見て目を輝かせている。

 庭の木や地面に、ランプを置いているので、相変わらず、夜だけは、幻想的な雰囲気に仕上がっているからだろう。

 鬱蒼とした雑草が見えないからだな、とのどかは思う。

「此処、今度は、カフェになるんですよ」
と言いながら、のどかは、そっとショップカードを手渡し、

「改良型タンポポコーヒーです」
とチタンのカップを置いて、微笑んだ。

 ……はあ、となんだかわからないまま、イケメンくんはコーヒーを一口飲む。

 カップの中を見つめて言った。

「あ、なんだろう。
 コーヒーといえば、コーヒー、な感じなんだけど。

 すっと飲みやすい」

「ありがとうございます。
 前、薄すぎたみたいなんで、ちょっと濃いめにしてみたんですよね」
とのどかが微笑みかけると、イケメンくんは、ちょっと赤くなり、はあ、と相槌を打つ。

 そして、
「っていうか、このカップもいいじゃないですか」
と言ってきた。

「うちにも似たのあるんですよ。
 親父がハマってるんで、アウトドアグッズに」

 うーむ。
 やはり、男子には小洒落た陶器のカップより、こっちの方がいいようだ、とのどかは思った。

 昨日、貴弘と八神が庭で小さな火を起こし、コーヒーを淹れて、また、このカップを使って飲んでいたので、ふと思いついて、店の備品にも買ってみたのだ。

「これで、庭にテントとかあって、そこで飲めたら最高ですねー」
と言うイケメンくんに、

「あ、いいですねー」
とのどかが笑うと、飯塚が、

「微妙に店のコンセプトが変わってってますよね……」
と苦笑いして呟く。

 確かに。
 素敵な古民家カフェのはずが、アウトドアカフェになりつつあった。

「でもまあ、雑草カフェだし、アウトドアとは相性がいいかもですね」
と飯塚が言うと、イケメンくんが、

「じゃあ、開店したら、アウトドア好きの男友だち連れてきますよ」
と言ってくれたのだが。

「はいはいはい。
 じゃあ、宣伝にショップカード持って帰れ」
と八神が言い、貴弘が、ほら、とのどかが渡した一枚とは別に何枚かのカードを押し付ける。

「男じゃなくて、女子を誘えよ。
 お前ひとりとか、男ばっかりで、この店には来るなよ」
と貴弘はよくわからないことを言いながら、イケメンくんを叩き出そうとした。

 貴弘はのどかを振り返り、
「アウトドアカフェはやめろ。
 野郎ばっかり来るから。

 店の中、花とレースだらけにしろ」
と言ってくる。

 飯塚が、
「……やめてください」
と青ざめた。

 せっかく設計したシンプルな古民家がっ、と思ったようだった。

 だが、そのとき、店の外で女の悲鳴が上がった。

 ……悲鳴。

 いや、ちょっと嬉しそうな感じなんだが、と思って、のどかが外に出ると、何故か中原を肩に担いだ風子が、

「のどかっ。
 外に傷ついたイケメンが倒れてたんだけどっ」
と浮かれた感じに言ってくる。

 いや……、何故、嬉しそうなんだ?
と思ったが、どうも『傷ついたイケメン』というのが彼女の萌えポイントのようだった。

 のどかは風子に担がれている中原の赤みを帯びた頰を見、
「……いや、それ、傷ついたイケメンじゃなくて、風邪をひいたイケメンでは」
と呟く。

 中原は、普段なら、それってなんだーっと怒鳴り返してくるところなのだろうか、今は熱でぼんやりしているのか、なにも言ってはこなかった。

 とりあえず、空いている部屋のベッドに運んでみる。



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ほんとうに、そこらで勘弁してくださいっ ~盗聴器が出てきました……~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 盗聴器が出てきました……。 「そこらで勘弁してください」のその後のお話です。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

侯爵様と私 ~上司とあやかしとソロキャンプはじめました~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 仕事でミスした萌子は落ち込み、カンテラを手に祖母の家の裏山をうろついていた。  ついてないときには、更についてないことが起こるもので、何故かあった落とし穴に落下。  意外と深かった穴から出られないでいると、突然現れた上司の田中総司にロープを投げられ、助けられる。 「あ、ありがとうございます」 と言い終わる前に無言で総司は立ち去ってしまい、月曜も知らんぷり。  あれは夢……?  それとも、現実?  毎週山に行かねばならない呪いにかかった男、田中総司と萌子のソロキャンプとヒュッゲな生活。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

処理中です...