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いつもより多めに懐いています
のどかのところに飛んできたいなと思ってたんじゃないのか
しおりを挟む「中原さん、どうしたんですか。
風邪ひいて道に倒れてたって聞きましたけど」
のどかは喉が渇いたという中原に水を渡しながら、そう訊く。
もう遅いし、風子は、
「中原さんに、あんたが助けたってよく言っておくから」
と言って帰らせた。
イケメンくんが、
「お姉さん、僕、送っていきますよ」
と言ってくれたので、喜んで帰っていった。
その変わりように、
いや、傷ついたイケメンが傷ついたままなんだが、いいのか……とちょっと思いながら、見送ったのだが。
中原は少し迷うような顔をしたあとで、
「実は……。
いや、この屋敷の呪いの秘密を解こうかと。
どのポイントで此処へ飛ばされたのか調べていたんだ」
と言い出す。
「そうだったんですか、ありがとうございます」
とのどかは礼を言ったが、中原は何故か気まずげに目をそらしてしまった。
すると、
「本当か?」
とのどかの真後ろに居た貴弘は、腕を組み、中原を見下ろして訊く。
「本当はのどかのところに飛んできたいなと思ってたんじゃないのか」
いや、そんな莫迦な、と思って振り返るのどかの後ろで貴弘は、
「海崎だけじゃなくて、お前までのどかがいいのかっ。
こんな女の何処がいいんだっ」
と言い出した。
……おい。
「お前は、女子好みのいわゆる『クールなイケメン』とかいう奴だろうが。
幾らでもモテるだろうに、何故、こんな女を好きになるっ?」
中原さんを誉め殺しか、と思ったとき、
「待ってください、成瀬社長」
と少し薬が効いてきたらしい中原がハッキリとした口調で言ってきた。
「私やうちの社長は、胡桃沢に近づいちゃ駄目なのに、八神さんは一緒に住んでもいいのは何故ですか」
貴弘は横に居た八神を見、
「だって、こいつは別にのどかのことを好きじゃないだろう」
と言う。
そういえば、最近は八神と居ることに寛容だったが、そういう結論を出したからだったのか、とのどかは思ったが。
いきなり話を振られた八神は、ん? という顔をしたあとで、少し考え、
「いや――」
と言い出した。
「……いや?」
と貴弘が訊き返す。
「別に、熱烈に好きとかいうわけじゃないが。
そういえば、嫌いじゃないな。
顔は好みじゃないこともないし。
一緒に居て、落ち着くし。
言われてみれば、嫌いじゃないな。
むしろ好きなのかもな」
と自分で言っておいて、うん、そうか、好きなのかもな、と納得したように八神は頷く。
中原が、
「……どうして顔を覗けてもいなかった蛇を藪からつつき出すような真似をするんです」
と言い、
「いや、お前が八神の話を振ったからだろ」
と貴弘が呆然と呟いていた。
まあ、ともかく……と中原は咳払いをすると、
「私はこの屋敷の呪いを解こうとして、夜道をウロついていたんです。
決して、社長に抜け駆けして、此処に来ようとしたわけじゃない」
と不思議な主張を始める。
「でも……呪いを解くって言っても」
とのどかは側に立っていた泰親をチラと見た。
呪いを解いたら、泰親は消えてしまうのではないかと思っていたからだ。
だが、泰親は、
「いや、のどか。
私のことなら案ずるな」
と言い出す。
「呪いが消え。
その呪いを見守っていた私も消えても。
私は再び、この地に蘇ってくる――。
この地に。
いや、お前たちの側に」
「……泰親さん」
「必ず、蘇ってみせる!
――ミヌエットか、マンチカンとして!」
「……人間じゃなくてか」
と貴弘が言い、
「なにかいろいろ味をしめたようだな」
と八神が呟いていた。
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