101 / 114
すべては夢だったのでしょうか……
今は、いつなんですかっ?
しおりを挟む薄暗いビルのロビーで、のどかは目を覚ました。
寝ていたソファから起き上がると、身体にかけてあった薄手のカーディガンが落ちた。
自分のカーディガンだ。
そのまま、ぼんやり向かいのビルを見つめていた。
幼なじみ海崎綾太の会社であり、自分が働いていた会社のビルだ。
なんでこんなところに居るんだろうな、とのどかは思った。
同期のみんなと楽しく酒を呑んでいたはずなのに。
そうだ。
気がついたら、みんな彼氏から電話がかかったりして、ひとり減り、ふたり減り――。
そのあと、誰かと呑んでて。
えーと……と思ったとき、その人は現れた。
細身で厳しい顔の警備員のおじさんだ。
のどかに向かって言う。
「あんた何処から入ったの?
上のオフィスの人?
まだ明かりついてるとこあるけど。
なんか酒臭いよ。
こんなところで寝てないで、早く帰りなさい」
「は、はい、すみません」
と言って、のどかは慌てて自分のカーディガンを拾い、出て行こうとした。
それにしても寒いな。
クーラー効きすぎなんじゃないか?
と思ったとき、ちょっと震えたのどかに気づき、その一見厳しい顔の警備員さんが眉をひそめて言ってきた。
「この時間、誰も居ないのに、なんでこんなクーラー効いてるんだ?
あんた、風邪ひいてないかね」
「あ、はい。
大丈夫です。
ありがとうございます」
と出て行こうとして、はっと気づいた。
クーラー?
酔っていた頭がハッキリしてくる。
みんなと飲んでいたのは、まだ寒い連休前の金曜日だった気がするのだが。
「あっ、あのっ」
とのどかは警備員を振り返った。
「今、いつですかっ?」
「金曜日の午後11時だよ」
「あっ、そうじゃなくて、日付なんですけどっ」
のどかのその言葉に、警備員は、相当酔っているのだろうかとちょっと不安になったようだった。
「六月二十一日だけど……」
「へっ、平成っ?」
「令和元年六月二十一日」
と言う警備員の顔はますます不安な感じになってくる。
その瞬間、のどかの頭に蘇っていた。
令和を迎える前の連休。
此処で目を覚ましてからのことが――。
苦手な取引先の社長、成瀬貴弘と出していた婚姻届。
呪いのあばら屋敷。
猫耳神主に、ふさふさの泰親猫。
そして――
『お前と出会って気づいたんだ。
俺が先に行きたいのは、振り返って誰かの手を引きたいからだって』
『俺がお前を好きなほど、俺を好きにならなくていい。
その代わり、絶対、ついて来るんだぞ』
『俺がお前を死ぬほど好きになったら、お前も俺を、まあ、死んでもいいかな~くらいは好きになれ』
そう言い、自分を見つめてきた貴弘の顔が――。
そのとき、のどかのポケットでカサリとなにかが音を立てた。
「あっ、君っ」
といきなり走り出したのどかに、警備員が後ろで声を上げた。
11
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
侯爵様と私 ~上司とあやかしとソロキャンプはじめました~
菱沼あゆ
キャラ文芸
仕事でミスした萌子は落ち込み、カンテラを手に祖母の家の裏山をうろついていた。
ついてないときには、更についてないことが起こるもので、何故かあった落とし穴に落下。
意外と深かった穴から出られないでいると、突然現れた上司の田中総司にロープを投げられ、助けられる。
「あ、ありがとうございます」
と言い終わる前に無言で総司は立ち去ってしまい、月曜も知らんぷり。
あれは夢……?
それとも、現実?
毎週山に行かねばならない呪いにかかった男、田中総司と萌子のソロキャンプとヒュッゲな生活。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
解けない魔法を このキスで
葉月 まい
恋愛
『さめない夢が叶う場所』
そこで出逢った二人は、
お互いを認識しないまま
同じ場所で再会する。
『自分の作ったドレスで女の子達をプリンセスに』
その想いでドレスを作る『ソルシエール』(魔法使い)
そんな彼女に、彼がかける魔法とは?
═•-⊰❉⊱•登場人物 •⊰❉⊱•-═
白石 美蘭 Miran Shiraishi(27歳)…ドレスブランド『ソルシエール』代表
新海 高良 Takara Shinkai(32歳)…リゾートホテル運営会社『新海ホテル&リゾート』 副社長
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる