あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~

菱沼あゆ

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おまけ

やさぐれてた私の前に降ってきてくださってありがとうございます

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 目を閉じたのどかは貴弘に手を引かれ、ちょっと歩いた。

 この感じは、店の庭先の方かな~、と思っていると、
「静かに、しゃがめ。
 そして、素早く目を開けろ」
と指示される。

 な、なんなのですか……、
と思いながらも、言われた通りに、貴弘に右手を握られたまま、しゃがみ。

 そっと目を開けて見ると、草むらに黄色い光が点滅していた。

 その淡い光は白いホタルブクロの花の中にあった。

 釣鐘型のホタルブクロの花の中にホタルが入っているのだ。

 小さなホタルの光は、花の中にあるせいで、更にぼんやりと柔らかな光となって、闇に広がっている。

「……綺麗ですね」

 そのまましばらく二人で黙って、ホタルが光るのを見ていた。

「あ、写真、撮っときましょうか」
とのどかがスマホを出したが、

「お前、また容量いっぱいなんだろ」
と言って、貴弘が自分のを出してきた。

 ところが、
「……俺もいっぱいなようだ」
と貴弘は呟く。

 少し消そうと写真を開けてみたようだ。

 すると、あの、バーで二人、頭を少し寄せ合って写っている写真がパッと出て来た。

 どうやら直前まで、のどかのスマホから転送してあったその写真を開いて眺めていたらしい。

 貴弘が少し赤くなった。

「……これを早く見れば良かったんだよな」
と言う貴弘に、のどかは、

「どうでしょうね。
 そこまでの積み重ねがあったから、この写真を見て、このときも幸せそうだったな、と素直に思えたのかも」
と言う。

 のどかは、その写真を見、貴弘が見せてくれたホタルブクロの光を見、かつてのあばら屋敷を見上げた。

「社長、ありがとうございます」
とのどかが店を見上げて言うと、

「いや、店が軌道に乗ったのは、お前の努力のおかげだろ」
と貴弘は言ってくる。

「いえ、そうではなくて。
 ……職を失ってやさぐれてた私の前に、降ってきたように現れてくださってありがとうございます。

 イケメンの呪いとかで、引き寄せられたわけでもないのに」
とちょっと笑うと、

「俺には婚姻届の呪いがかかってるからな。
 永遠に、消えない呪いだ……」

 そう言って、貴弘は、そっと口づけてくる。

「のどかー、貴弘ーっ。
 食べるんだろ、カップ麺!」

 湯、湧いたぞっと綾太が叫んでくる。

「……絶妙のタイミングで呼んでくるな。
 あいつら、絶対、こっち見てるだろ」

 そう文句を言いながらも、貴弘は立ち上がった。

「行こう、のどか」
と手を差し出してくる。

 はい、と微笑み、のどかは、そっとその手を取った。

 雑草まみれの庭の中、ぼんやり光るホタルブクロの光を振り返り、のどかは言う。

「あ、今、ついでに式場を決める花占いもやればよかったですね」

「式場はお前の好きにしていいと言ったろ。
 ゆっくり考えろ。

 ……でも、ずっと決めないのもいいな」

「えっ?」

「ずっと式を挙げなかったら。
 ずっと結婚前の一番熱々な時期の恋人同士でいられる感じがするだろ」
と言って貴弘はのどかを見つめ、強く手を握ってくる。

 のどかは赤くなりながらも、
「いやいや、それ。
 おばあさんになっても、式場は何処にしましょうかね? おじいさんって言ってるわけですか?」
と言ったのだが、貴弘は、

「それもいいな。
 結婚式と金婚式を一緒にやればいいじゃないか」
と笑って言ってきた。

「そういえば、お前がいいって言ってる海の見える式場って、どんなとこなんだ?」

「そういえば、社長は忙しくて、まだ見てないですよね、あの式場。

 すっごい素敵なとこなんですよ~。
 だって、この愛着あるあばら屋敷と迷うほどですからね。

 ちょっと先の駅まで乗ってたら、電車からでも見えるんですよ。
 海が見下ろせる場所にある白亜の神殿みたいな感じで。

 イグレシアってとこなんですけど。
 すっごい格好よくて、親切な男性スタッフの方が丁寧に式場の説明してくださ――」

「却下だ」

「え?
 今、お前の好きにしていいって――」

「却下だ」

 うーむ。
 悩む必要はなかったようだな……。

 っていうか、あのイケメンスタッフの人は、別に私に気などないと思いますが……と思うのどかの手を引き、貴弘は歩き出す。

「よし、決まりだ。
 式は来週の日曜日、此処でやろう」

「……あのー、さっき、このまま永遠に式挙げないのもラブラブでいいとか言ってませんでしたっけ?」

「いや、やっぱり早く挙げとかないと。
 他の男に持ってかれたりしたら困るからな」

 ……すみません。
 そんな心配していただけるほど、私、モテません、
と思いながらも、強引に手を引いて歩く貴弘がちょっと嬉しく、もう反論せずにのどかは俯いた。

「早く来いっ。
 ラーメン伸びるだろっ。

 そうだ。
 お前らの式、此処で焚き火を囲んでやれよ」

「じゃあ、料理は雑炊か、ラーメンで」

「酒さえあれば、あとは別にいいな」
と綾太と中原と八神が言うのが聞こえてきた。

 青田は苦笑いし、泰親はそもそも式に興味ないようで、ミヌエットに背に乗られながら、焚き火を枝でつついている。

 ひーっ。
 私の夢の結婚式が、どんどん勝手に決まってくんですけどーっ、と思いながらも、のどかは騒がしい連中のいる焚き火台に向かい、歩いていった。
 



                         完


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感想 7

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みんなの感想(7件)

田沢みん
2021.01.29 田沢みん

あっ、なんかいい雰囲気。
甘い予感がするけどどうだろう。
ドキドキ💕

2021.01.29 菱沼あゆ

田沢みんさん、
ありがとうございます(⌒▽⌒)

ど、どうでしょうね(^^;

解除
田沢みん
2021.01.26 田沢みん

キャラ文芸大賞から辿り着いて一気読みしました。
うん、物語に恋愛要素を求める私には貴重な胸キュン要素ありのキャラ文芸。
貴弘さんが徐々にデレていく感じが良かったです。

2021.01.26 菱沼あゆ

田沢みんさん、
もったいないお言葉、ありがとうございますっm(_ _)m
嬉しいです。

あと少し頑張りますっ(⌒▽⌒)

解除
柚木ゆず
2021.01.25 柚木ゆず

本日、雑草料理に目覚めたんですっ、まで拝読しました。

雑草に関する場面での皆さんの言い回しですとか、通帳を使った某行動とそちらに対するリアクションですとか、作品全体のテンポですとか。
ほのぼのであり軽快で、今日も、楽しい時間を過ごすことができました。

いつも、ありがとうございます……!

2021.01.25 菱沼あゆ

柚木ゆずさん、
こちらこそ、ありがとうございますっm(_ _)m

あと少し頑張りますね~っ。

解除

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