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一年生・夏の章
忍び寄る影⑦
しおりを挟むルイはハッとし慌てて片膝を付き俯くと、リヒトのただならぬオーラに気圧されそうになるのを耐える。セオドアも同じように片膝を付いて俯き、状況を理解出来ないまま冷や汗をかいた。
「ルイ君……セオ君……!」
フィンは二人の変わりように目を見開き驚きの表情を浮かべる。
「ご無礼を。ご挨拶が遅れました。南部の統率を務めるリシャール侯爵の嫡子、ルイと申します」
王族特務・大魔法師に対する敬意を示し挨拶をするルイ。
「王都にて魔法薬と魔法医術の権威を持つ、フルニエ伯爵の四男、セオドアと申します」
セオドアも同じように挨拶をすると、ボーッと立っているフィンを見て青ざめた表情を浮かべた。
「フィンちゃん、何してんの!とりあえずこっちきて挨拶しないと!」
状況が理解出来ていないセオドアは、小さく声を出してフィンに手招きをする。
「う、うん!(あれ、セオ君すごい制服がぼろぼろ……)」
フィンは王都の慣わしの一種かと思い、慌ててセオドアの横に行こうとするも、リヒトはため息を吐いてそれを静止し、「君はいいんだよ」と囁く。
「フィンが世話になっている。後見人のリヒト・シュヴァリエだ」
リヒトの言葉に、ルイとセオドアは目を見合わせ目をひくつかせる。
「「(大魔法師が後見人なんて聞いてねぇ~!!)」」
ルイとセオドアはバッとフィンに視線を送ると、フィンはビクッと身体を震わせわなわなと震えた。
「ご、ごめんねぇ……二人には言おうと思ってたんだけど、そんな話にもならなかったからぁ……」
フィンが困り笑いをすると、横からリヒトが口を開く。
「もう顔を上げて立ってくれるか。君らとは少々と話がしたいが、今日は諸々の処理で無理そうだ。明日の午後十四時、シュヴァリエ家の本邸に来てもらうことは可能だろうか」
リヒトは淡々と真顔でそう語ると、二人はゆっくりと立ち上がり、胸に手を当て王都式の敬礼をする。
「「はい。お伺い致します。お招き頂き、光栄でございます」」
貴族としての二人の態度を初めて見たフィンは、目を輝かせた。
「…………」
リヒトは敬礼する二人の姿を見る。
ルイは石化の影響で靴と制服が劣化しているのと、少々出血しているのが確認できた。セオドアに至っては、服がボロボロになっており、手には軽い火傷の痕が残っている。
フィンはハッとした表情を浮かべ、慌てて二人に駆け寄った。
その間、リヒトは三体の伝書梟を召喚すると、魔法をかけ、エリオットとアレクサンダー、そしてエヴァンジェリン宛に飛ばす。
「セオ君!おてて怪我してるし、制服もぼろぼろ……。ルイ君も、足怪我してるよね!?」
フィンは涙を溜めながら声をかける。
「いや、平気だ。お前こそ大変だったみたいだが、怪我はないのか?見たところ大魔法師様が助けてくれた、ってことで良いんだよな」
ルイの問いかけに、フィンは縦に大きく頷く。
「フィンちゃん、ごめんね。すぐに行けなくて。俺らが追ったの、ギュンターの偽物っぽくてさ」
セオドアの言葉に、フィンは首を横に振った。
「僕、ちゃんと言う通りに真っ直ぐ帰れば良かった。ちょっと怪しいなって思ったけど、結局ついてっちゃって、僕のことなのに、二人に怪我させちゃうし……」
落ち込むフィンの姿に、二人はふぅっと息を吐き、笑いながらフィンの頭を撫でた。
「いーんだよそんなこと。先に気付いたのは俺らだったし、出来ればお前のこと巻き込まず終わらせようと思ったけど……なんか訳アリっぽいな」
ルイはリヒトが王族宛に梟を飛ばしていたのを見抜いており、フィンのストーカーという枠組みから外れた話だと気付く。
「フィンちゃんにはさ、笑って過ごしてほしいんだ。実は今までも、なんか変なのが付き纏ってたのをルイと一緒に追っ払ってて。ただ今回はさ、もうちょっと色々教えてあげるべきだった!ごめんっ!」
セオドアは顔の前で手を合わせ謝罪をする。
「そうだったんだ……僕何にも知らなくて。ありがとう、二人とも」
フィンはニコッと優しく笑みを浮かべて二人を見上げた。
ルイはぽりぽりと頬を掻き、照れ隠しをする。
「ま、友達なんだから、こんなの当たり前だ。あーでもセオがストーカーされてても無視するけどな」
「ヒドイ!ルイのひとでなし!」
「お前の場合、ストーカーにも愛想良くしそうだな」
「なっ、俺を八方美人みたいに!」
「ははっ、違うのか?」
二人の明るいやり取りを見ていたフィンは、安心したようにぽろぽろと涙を流した。
「どうした!?」
「どしたのフィンちゃん!」
二人はギョッとした表情を浮かべ、慌ててフィンの顔を覗き込む。
「ぼく……二人と友達になれて本当によかった」
か細い声でそう言ったフィンに、二人はキュンっとときめき顔を赤らめる。
「そういうの、卒業の時に言えよ……恥ずいだろ」
ルイはかぁーっと顔を赤らめ、セオドアはふにゃっと溶けたように笑みを見せる。
「フィンちゃんって本当、そういうところが良いよね。ルイにも見習ってほしいねー」
「なに!お前こそ成績上げろよボケ、俺らの足元にも及んでないぞ!」
「ぬぁ!?!?今それ関係あるかー!?」
三人の戯れ合う姿をじっと見ていたリヒトは、クスッと笑みを浮かべ、安心したように視線を落とす。
王族特務機関に所属し、敵対している国からスパイを送られ命を狙われる事が多い分、周囲に迷惑をかけないようにしてきた。しかし、予想通りフィンを危険に晒してしまい、フィンの周囲にもそれが及んでいる。
自分が後見人だと分かってもなお、フィンに友人として接する彼らを見たリヒトは、ある決心を固め口を開いた。
「取り込み中のところ申し訳ないが、状況把握のため、君らの記憶も見させてもらう。また明日詳しく話すが、これは敵対する国からの攻撃と関係がある。君たちにも協力を願いたい」
リヒトは真顔で口を開き、二人に近づく。
「大魔法師様の命とあらば、いくらでも協力致します」
「右に同じです」
リヒトはルイとセオドアの額に同時に触れると、アカシックレコードを発動させる。それは瞬時に終わり、リヒトはすぐに手を離した。
「やはり、ドラゴンの技を使ったか。石化に竜の息吹。それを他者の身体を使って……」
リヒトはふむふむと一人で声を発しては一人で納得をし、やがて思い出したように突然目を見開くと、二人を睨み付ける。
「「!?」」
ルイとセオドアは身構えたように身体を硬直させ、顔を強張らせた。
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