【完結】大魔法師様は運命の恋人を溺愛中。〜魔法学院編〜

みるくくらうん

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一年生・夏の章

忍び寄る影⑧

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「フィンのうさぎ姿を見たのか」


 リヒトの突拍子も無い質問に、二人は目を丸くする。


「「え?」」

「見たどころかウサギの耳に触れたな」



 リヒトは恨めしそうな表情で二人を睨む。その気迫に負けた二人は小さく頷いたが、同時に“大魔法師”の殻から飛び出したリヒトの姿を垣間見たような心情になり、二人は目を見合わせた。



「……そうか」



 リヒトがチッと舌打ちすると、二人はビクッと肩を震わせ顔を顰める。



「え、俺ら悪いことした?」


 セオドアはコソッとルイに耳打ちすると、ルイは顔を引き攣らせ首を傾げた。


「いや……分からないな」



 リヒトの様子を見たフィンは、思いついたようにリヒトを見上げ笑顔を見せる。


「あのね、リヒトにも見せようと思って、変身薬、余ったの持ってるんだよー」


 フィンの一言で、リヒトはキリッとした表情に変わった。


「……帰ったら、頼む」

「うん!」


 リヒトはすっかり機嫌を良くし、優しく笑ってフィンの頭を撫でた。



「「(大魔法師が優しく笑ってる……)」」


 クールで笑みを見せない印象が強いリヒトのレアな表情を見た二人は、そうさせたフィンに対しても驚きの表情を見せる。



「つーかさ、大魔法師様を呼び捨てにしてるフィンちゃん、凄くない?」


 セオドアはコソッとルイに耳打ちすると、ルイはコクリと頷く。


「俺も思った……」

「付き合ってんのかな」

「……可能性はあるかもしれないな」



 二人はリヒトとフィンから漂う雰囲気を見てこそこそと会話を続けていると、箒に乗ったエリオットがとてつもない速さで現場に到着し、慌ただしい様子で走ってこちらに向かってきた。



「リヒト!すまん、今日は学会で学校にいなかった。ちょうど終わったところで良かったーっととと、あーこれが例の第四十位の子ねハイハイ」


 副学長であるエリオットは、伝書梟の知らせを受けすっ飛んできたのか、少々髪を乱れさせている。
 床に転がって眠るギュンターに躓いたが、事の顛末を聞いているエリオットは眠るギュンターを軽々と抱き上げて肩に担ぎ首を鳴らした。



「「「副学長」」」


 ルイ、セオドア、フィンは頭を下げ挨拶をする。


「あー、挨拶はいーって。とりあえず事情は大体聞いてるから、今日はとりあえず真っ直ぐ帰城してくれ。馬車の手配はしておいた。あーっと、第二十五位は、怪我大丈夫そうか?」
 

 エリオットはセオドアを見下ろすと、手の火傷を指差し首を傾げる。



「平気ですよ、うちの家は薬だらけなんで」


 セオドアは満面の笑みでピースをする。



「とは言え、竜の息吹で受けた火傷は治りにくい。フルニエ家には王城に保管されてる専用の材料を君宛に送っておくから、それを調合して使うようにしてくれ」

「王城の保管物を!?ちょっと大袈裟な気も……」

「痛いだろう?うっすらとドラゴンの魔力が見える。使いなさい」


 セオドアはエリオットの指摘に図星を突かれた表情をし、未だ疼く火傷の痛みを手で押さえながら渋々頷いた。



「はい……ありがとうございます」


 エリオットは次にルイを見下ろす。


「第二位、君は石化を受けたな。リシャールの生まれなら平気か?」

「えぇ、平気です。黒髪の蛇乙女メデューサを呼びました」

「流石だな。だが、少し怪我をしているようだが」

「問題ありません。セオドアが持っている治癒薬ですぐに治るレベルです」


 ルイは無造作ヘアーの黒髪を揺らしながら頷き、上品に笑ってみせた。



「それならいいが……フィン君も、間一髪だったようだね。三人とも面倒をかけてすまなかった。副学長としてこの事態に巻き込んだ事を謝罪する。生徒を危険な目に合わせた」



 エリオットがペコリと三人に対し頭を下げると、三人が静止する前にリヒトが口を開いた。



「エリオット。これは俺の問題だ。今日は王城に行かねばならないが、二人は明日本邸に招いて話をしようと思っている。お前も時間があるなら来い」

「いーや俺も関係あるね。お前のその全部抱える癖やめろって」


 エリオットは深いため息を吐きぽりぽりと頭を掻く。


「……とりあえず、今日の件は国家侵略に関わる。一旦、箝口令を発動させてくれ」



 リヒトは杖を振り、一枚の契約書を用意すると、ルイ、セオドア、フィンはそれにサインした。
 学院の混乱を招かないための処置だと分かっているため、三人は特に抵抗する事なく契約を結ぶ。



「今回の件、他者に漏らすことはありません。俺達も平気なんで」

「フィンちゃんが学校来れなくなるとか、そーゆうの絶対無しですよ」


 ルイとセオドアはエリオットを強気の目線で見上げると、エリオットは困ったように表情を歪ませた。


「誰がそんなことを言った。その辺りは問題ない。魔法大国ローザリオンの教育機関を侵す者は、この大魔法師様の手にかかれば即解決だろ」


 エリオットはリヒトの背中をポンと叩き笑みを浮かべる。


「教育機関への侵害は、報復されても仕方ないと捉えている。そのために王城に報告へ行く」



 リヒトは真顔でそう言ってギリっと杖を握りしめた。


「……リヒト、無理はだめだよ」


 リヒトは不安げなフィンを見下ろし、優しい笑みを浮かべて頬を撫でる。


「大丈夫だよフィン。今日は姉様が馬車で迎えに来てくれている。少し忙しくなるから、フィンは本邸に帰って先に休んでくれるかい?」


 リヒトはフィンの頭を撫でると、フィンはコクリと小さく頷き笑みを見せた。


「わかった。待ってるね」



 フィンの切なげな表情に、リヒトは一瞬心臓を押さえ悶えるが、すぐに真顔になりエリオットに向き直った。





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「じゃあ、また明日ね。今日は本当にありがとう……」


 フィンは馬車の手前まで見送る二人にペコリと頭を下げた。


「言っとくけど、この怪我はお前の所為じゃないからな。気にするなよ」

「そーそ。フィンちゃん気にしすぎ」

「うん……二人とも気を付けて帰ってね。明日、待ってるから」


 フィンが二人の優しさに目を潤ませている様子を、馬車にいたエヴァンジェリンがハラハラしながら見守った。


「おう。明日、な」


 ルイはくしゃっとフィンの頭を撫でて笑みを浮かべる。


「俺らが休みの日に会うなんて初だよな。明日なー!」



 セオドアは満面の笑みでフィンに手を振ると、フィンも手を振って馬車に乗り込んだ。
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