あなたの罪はいくつかしら?

碓氷雅

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#10-①

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 処刑は粛々と進められた。帝国の騎士憲兵団第二部隊が主導し、昼の鐘が鳴るころには首がつながっている罪人は一人だけだった。

 王都随一の広場に用意された処刑台の上に、最後のひとりが上がる。周囲を取り囲む民衆の盛り上がりは最高潮を見せた。

「罪状を読み上げる!」

 拡張機によって響く処刑人の声で、民衆は鎮まる。ギロチンによって首が飛ぶ瞬間を今か今かと待つその姿は一種の狂気のように思えた。広場を見下ろせる場所に座すアーシェンはふっ、と息をつく。

 つらつらと読み上げられた罪状は、昨夜のうちにコーランドに渡したものだ。間違ったことは言っていない。ただほんの少しだけ、誇張してしている。この男は処刑するに値すると、民衆を納得させるために。

「罪人を固定せよ!」

 パルテン王国の王であった男が無抵抗なままに首と手足を拘束される。鈍く光るギロチンの刃は、その男には見えていないようだった。虚ろな目は何も映さず、だらしなく開いたままの口からはよだれが伸びる。ぼろぼろで、もはやシルクとはわからないほどに汚れた衣服は汗や土などで黄ばんでいる。この男を見て、誰が一国の王だと思うだろうか。

「よろしいの?」
「何がです?」

 アーシェンの傍に控えるように立つヒパラテムは、視界に入れるように跪いた。

「今からでも、あの紐を切る役目をあなたにやってもらうこともできるわ。本当にいいのね?」
「…私はあの男の消滅を望んでおります。ですが妹は戦いや殺しが嫌いなのです。私が手を下すことを良しとはしないでしょう。…だから、これでよいのです」
「そう…。分かったわ」

 口上も罪人の拘束も終わり、斧を握る男の手は強く握られる。処刑人はアーシェンを見上げ、合図を待っていた。

 アーシェンはゆっくりと手を上げる。それに頷いた処刑人は、声高々に叫んだ。

「罪人よ、地獄で詫びるがいい!! 切れ!!」

 大きく振りかぶられた斧は、きれいな放物線を描いて紐を切った。


 ザシュッ。


 勢いよく刃は落ち、ゴトリと頭が落ちる。広場は民衆の歓喜に震えた。処刑人は落ちた頭の髪を掴み、高く晒す。

「ここにパルテン王国の滅亡を宣言するとともに、これよりこの国は帝国の庇護下に入る! 忌避すべき歴史の代名詞となりうるパルテンの名前はここに捨て、新たにエレイナ公国建国を宣言する!!」

 わあっ、とさらに歓喜は大きくなる。ここまでくればもはや何に歓喜しているのか、わからない人間もいるだろう。だが、それでいい。パルテンの名が歴史から消えるのも時間の問題だろう。空白の世紀になろうとも、それは今を生きる人間にとっては知ったことではない。

 晒し台には首が三つ並ぶ。どこからか投げられた石がその一つに当たり、肉が少し削げた。それを皮切りにいろんなものが首に投げられる。

 やがて虫の湧くそれは、もはや原型などとどめていなかった。
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