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8 車椅子
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私の質問にお祖父様は目をパチクリとさせた。
「車椅子? 何だ、それは?」
貴族で使っている人がいるのかもしれないと思ったが、やはりこの世界には車椅子は存在しないようだ。
『本で読んだ』と言っても貧しい暮らしをしていた私が読める本なんて限られているから、ここは自分で思いついた事にしてしまおう。
「あの、お祖父様は今は歩けないんでしょう? だから座ったまま移動出来ないかと思って…。馬車みたいに椅子に車輪を付けて誰かに押してもらったら何処にでも移動出来るんじゃないかと…」
お祖父様だけでなく、モーガンや周りの侍女達の視線が痛い。
終わりの方が口籠るようになったのは仕方がない事だと思う。
お祖父様は顎に手を当ててしばらく考え込んでいたけれど、私の横に立っているモーガンに指示を出した。
「モーガン。ポロック商会を呼べ。ジェシカと話をさせてその車椅子とやらを作るように言うんだ」
「かしこまりました」
モーガンはお祖父様に一礼すると部屋を出ていった。
ポロック商会って、この国で一番大きな商会よね。
平民の私達でも知っているような大きな商会を呼べるなんて、流石は公爵家と言ったところかしら。
モーガンが出ていくのを目で追っているとお祖父様が話しかけてきた。
「ジェシカ、お前が公爵家に来るに当たって対外的に病弱で静養していた事になっているが、実際はどうだったかは大概の貴族は知っている。それでも表立ってそれを口にするような貴族はいないが、ジェシカに対する風当たりは強いかもしれん。だからこそ、この『車椅子』とやらを完成させてジェシカの存在を印象付ける必要があるのだ」
お祖父様の言う通り、次期公爵家当主が妻子を捨てて駆け落ちをしたなんて、醜聞でしか無いし、隠し通せるものでもなかったでしょうね。
だからこそ私に価値があるように周りに周知させるためにも、ポロック商会を呼んでくれるのね。
「わかりました、お祖父様。お祖父様の期待に応えられるように頑張りますね」
しばらく経って戻って来たモーガンがお祖父様に報告をしてきた。
「ポロック商会には午後から来るように通達を出しました。ジェシカ様にはそれまでお部屋でお待ちいただきましょうか?」
「それが良かろう。まだパトリシアには会わせない方が良いだろう」
…パトリシアって誰かしら?
そう思ったところで、すぐにジェシカのお父さんの奥さんだと思い至った。
息子のハミルトンがいたのだから、当然母親もいるに決まっている。
あの二人にとって私は夫であり、父親であるダグラスを奪った女の娘だ。
ハミルトンがあんな態度を取ってきたのだから、母親であるパトリシアも私に対していい感情なんて持っていないだろう。
…こんな事ならジェシカのフリなんてしなければ良かったかしら…。
お祖父様に対面するだけだと思ってここに来たけれど、どうやらこのままここで生活をしなければいけないようだ。
私はモーガンに促され椅子から立ち上がった。
「それではお祖父様、これで失礼いたします」
コクリと頷いたお祖父様は、明るい日差しの中、先程よりも血行が良く見える。
私はモーガンと侍女と一緒にお祖父様の部屋を出て玄関ホール握ったら向かって廊下を歩き出した。
ところが歩いている途中で突然モーガンが立ち止まったため、思わずぶつかりそうになった。
「モーガンさん、一体…」
そこまで言いかけたところで、私は前方からこちらへ向かって歩いてくる人物に気が付いた。
中年女性で顔立ちがハミルトンに良く似ている。
…もしかしてこの人がパトリシア?
モーガンが立ち止まったまま頭を下げていると、その女性は私に気が付いて足を止めた。
まさか、こんな所で出くわすなんて思ってもみなかった。
ペコリと頭を下げたが、パトリシアは私を一瞥しただけで何も言わずに歩き出した。
モーガンがホッとしたように息を吐いたが、私も同じように力が抜けた。
どうやら思った以上に緊張していたようだ。
「ジェシカ様。いずれ改めてご紹介させていただきますが、先程の方があなたのお父様の奥様であるパトリシア様です」
淡々と説明してくれるモーガンに頷くと、私はまた彼の後について歩き出した。
「車椅子? 何だ、それは?」
貴族で使っている人がいるのかもしれないと思ったが、やはりこの世界には車椅子は存在しないようだ。
『本で読んだ』と言っても貧しい暮らしをしていた私が読める本なんて限られているから、ここは自分で思いついた事にしてしまおう。
「あの、お祖父様は今は歩けないんでしょう? だから座ったまま移動出来ないかと思って…。馬車みたいに椅子に車輪を付けて誰かに押してもらったら何処にでも移動出来るんじゃないかと…」
お祖父様だけでなく、モーガンや周りの侍女達の視線が痛い。
終わりの方が口籠るようになったのは仕方がない事だと思う。
お祖父様は顎に手を当ててしばらく考え込んでいたけれど、私の横に立っているモーガンに指示を出した。
「モーガン。ポロック商会を呼べ。ジェシカと話をさせてその車椅子とやらを作るように言うんだ」
「かしこまりました」
モーガンはお祖父様に一礼すると部屋を出ていった。
ポロック商会って、この国で一番大きな商会よね。
平民の私達でも知っているような大きな商会を呼べるなんて、流石は公爵家と言ったところかしら。
モーガンが出ていくのを目で追っているとお祖父様が話しかけてきた。
「ジェシカ、お前が公爵家に来るに当たって対外的に病弱で静養していた事になっているが、実際はどうだったかは大概の貴族は知っている。それでも表立ってそれを口にするような貴族はいないが、ジェシカに対する風当たりは強いかもしれん。だからこそ、この『車椅子』とやらを完成させてジェシカの存在を印象付ける必要があるのだ」
お祖父様の言う通り、次期公爵家当主が妻子を捨てて駆け落ちをしたなんて、醜聞でしか無いし、隠し通せるものでもなかったでしょうね。
だからこそ私に価値があるように周りに周知させるためにも、ポロック商会を呼んでくれるのね。
「わかりました、お祖父様。お祖父様の期待に応えられるように頑張りますね」
しばらく経って戻って来たモーガンがお祖父様に報告をしてきた。
「ポロック商会には午後から来るように通達を出しました。ジェシカ様にはそれまでお部屋でお待ちいただきましょうか?」
「それが良かろう。まだパトリシアには会わせない方が良いだろう」
…パトリシアって誰かしら?
そう思ったところで、すぐにジェシカのお父さんの奥さんだと思い至った。
息子のハミルトンがいたのだから、当然母親もいるに決まっている。
あの二人にとって私は夫であり、父親であるダグラスを奪った女の娘だ。
ハミルトンがあんな態度を取ってきたのだから、母親であるパトリシアも私に対していい感情なんて持っていないだろう。
…こんな事ならジェシカのフリなんてしなければ良かったかしら…。
お祖父様に対面するだけだと思ってここに来たけれど、どうやらこのままここで生活をしなければいけないようだ。
私はモーガンに促され椅子から立ち上がった。
「それではお祖父様、これで失礼いたします」
コクリと頷いたお祖父様は、明るい日差しの中、先程よりも血行が良く見える。
私はモーガンと侍女と一緒にお祖父様の部屋を出て玄関ホール握ったら向かって廊下を歩き出した。
ところが歩いている途中で突然モーガンが立ち止まったため、思わずぶつかりそうになった。
「モーガンさん、一体…」
そこまで言いかけたところで、私は前方からこちらへ向かって歩いてくる人物に気が付いた。
中年女性で顔立ちがハミルトンに良く似ている。
…もしかしてこの人がパトリシア?
モーガンが立ち止まったまま頭を下げていると、その女性は私に気が付いて足を止めた。
まさか、こんな所で出くわすなんて思ってもみなかった。
ペコリと頭を下げたが、パトリシアは私を一瞥しただけで何も言わずに歩き出した。
モーガンがホッとしたように息を吐いたが、私も同じように力が抜けた。
どうやら思った以上に緊張していたようだ。
「ジェシカ様。いずれ改めてご紹介させていただきますが、先程の方があなたのお父様の奥様であるパトリシア様です」
淡々と説明してくれるモーガンに頷くと、私はまた彼の後について歩き出した。
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