【完結】フェリシアの誤算

伽羅

文字の大きさ
12 / 98

12 パトリシアの愚痴

しおりを挟む
 どう答えるのが正解なのかわからないのでとりあえず「そうですね」と返しておく。

「やっぱり? あなたもそう思うわよね。それにね…」

 うっかり同意してしまったら、パトリシアは延々とダグラスの話を始めた。

 出会ってから結婚してハミルトンが産まれるまで、あんな事があったとか、こんな事を言われたとか…

 気が付けば侍女達は既に私達の周りから姿を消している。

 …いつの間に人払いがされたのかしら…

 まあ、流石に使用人にこんな話は聞かせられないだろうしね。

 義父母にも話せないだろうし、ハミルトンに父親の悪口は言えないし、友人も同じ貴族ならば弱味を見せるようで打ち明けられなかっただろう。

 そこへちょうど現れたのが私というわけだ。

 散々愚痴をこぼしたお陰でパトリシアはスッキリとした顔をしている。

「ジェシカは何歳になったのかしら? もうじき十六歳なのね。公爵家で暮らしていくからにはそれなりの教育が必要ね。さっきの私への挨拶にしても、あれじゃダメよ。近い内にマナーの先生と家庭教師を呼ぶわ。来月… いえ、再来月にはここでパーティーを開いてジェシカのお披露目をしましょうね」

 …はい?

 …私のお披露目?

 普通に考えたらなさぬ仲の関係なのに、随分と歓迎されているようなのは気の所為かしら?

「あの、いいんですか? 普通は愛人の子なんて歓迎されないですよね? 追い出されたりとか、こき使われたりとかするんじゃないですか?」

 小説や物語ではそういうのが定番だし、前世での事件でも連れ子を虐待していたという話をよく聞いた。

 ところがパトリシアはキョトンとした顔で私を見つめる。

「え? どうしてそんな事をしなくちゃいけないの? 元々ダグラスには愛情なんてなかったし、あのまま公爵家でちゃんと仕事をしててくれたら何も言う事はなかったのに…」

 パトリシアの言い分によれば、あのまま仮面夫婦として生活していても何の問題もなかったみたい。

 とりあえずジェシカを受け入れてくれるみたいなので良しとしよう。

「今まで平民として暮らしてきたからここでの生活は窮屈かもしれないわ。困った事があったら何でも相談してちょうだいね。時々はこうしてお茶に付き合ってくれると嬉しいわ」

 優しく微笑むパトリシアに何故か胸が熱くなる。

 私は今世では母を知らない。

 もし、私に母がいたらこんな感じなのだろうか?



 パトリシアとのお茶会を終えて自室に戻り、夕食まで読書の続きを再開する。

 外が暗くなり始めた頃、パッと部屋の明かりが点いた。照明は魔道具で暗くなってくると勝手に点くようになっているようだ。

 やがて夕食の用意が出来ましたという知らせが届いた。

 パトリシアから「一緒に食事をしましょう」と言われていたので、アンナに連れられて食堂に向かう。

 食堂では既にパトリシアとハミルトンが席に着いていた。

 上座に座るはずのお祖父様は、自室で食事をするので空席である。

 いずれ車椅子が出来たらお祖父様も一緒に食事が出来るようになるだろう。

 上座の両脇に二人と向かい合う形で座ると、斜め正面にいるハミルトンが一瞬目を瞠った。

 初対面であれだけ私に牽制して来たんだから、一緒には居たくないんだろうな。

 なるべく彼の視界には入らないようにしよう。

 それにしても美形の親子よね。

 私は食事をしながら不躾にならないように、正面に座るパトリシアとハミルトンをチラチラと見つめた。

 ハミルトンはジェシカと同じで私よりも少し薄い色の金髪碧眼のイケメンだし、パトリシアは亜麻色の髪に緑の目の美人だ。

 とてもハミルトンのような息子がいるようには見えない。

 二人が並ぶと姉弟だと言っても通りそうだわ。

 多少のぎこちなさはありつつも食事を終えたが、先に立ち上がったハミルトンが私を見てフンと鼻を鳴らした。

「そんな格好をしていると多少は見られるな。馬子にも衣装ってやつか?」

 それだけ言い捨てるとさっさと席を立って行ってしまう。

 私は心のなかでアッカンベーをしながらハミルトンを見送った。

 とりあえず初日は何とか乗り切れそうだ。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!

永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手 ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。 だがしかし フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。 貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

駆け落ちした姉に代わって、悪辣公爵のもとへ嫁ぎましたところ 〜えっ?姉が帰ってきた?こっちは幸せに暮らしているので、お構いなく!〜

あーもんど
恋愛
『私は恋に生きるから、探さないでそっとしておいてほしい』 という置き手紙を残して、駆け落ちした姉のクラリス。 それにより、主人公のレイチェルは姉の婚約者────“悪辣公爵”と呼ばれるヘレスと結婚することに。 そうして、始まった新婚生活はやはり前途多難で……。 まず、夫が会いに来ない。 次に、使用人が仕事をしてくれない。 なので、レイチェル自ら家事などをしないといけず……とても大変。 でも────自由気ままに一人で過ごせる生活は、案外悪くなく……? そんな時、夫が現れて使用人達の職務放棄を知る。 すると、まさかの大激怒!? あっという間に使用人達を懲らしめ、それからはレイチェルとの時間も持つように。 ────もっと残忍で冷酷な方かと思ったけど、結構優しいわね。 と夫を見直すようになった頃、姉が帰ってきて……? 善意の押し付けとでも言うべきか、「あんな男とは、離婚しなさい!」と迫ってきた。 ────いやいや!こっちは幸せに暮らしているので、放っておいてください! ◆小説家になろう様でも、公開中◆

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

処理中です...