【完結】フェリシアの誤算

伽羅

文字の大きさ
11 / 98

11 パトリシアとの対面

しおりを挟む
 パトリシアとのお茶会の準備が出来るまで部屋で待機する事になった。

 私は先程まで読んでいた本を開いて続きを読み出す。

 半分くらい読み進んだ所で扉がノックされてモーガンが顔を見せた。

「お待たせいたしました、ジェシカ様。ご案内いたします」

 私は本をテーブルの上に置くとモーガンの後について歩き出す。

 私の後ろをついて歩くのは先程から私の世話をしてくれている侍女だ。

 モーガンによると私付きの侍女で名前はアンナと言うらしい。

 廊下に出てすぐの向かい側にある扉が開かれ、そこから庭園の間を歩くための石畳が敷かれている。

 そこを歩きながら庭園を進んで行くと前方に四阿が見えて、誰かが座っているのが確認出来た。

 …ところで、貴族に挨拶するのってカーテシーだっけ?

 前世で読んだ小説などでそういう知識はあるけれど、実際にどうやるのかまでは理解していない。

 変に知ったかぶりをしたところで、メッキが剥がれるのは目に見えている。

 ここは無難にお辞儀だけをした方がいいだろう。

 四阿の前で立ち止まるとモーガンがスッと手を胸に当ててお辞儀をする。

「パトリシア様、ジェシカ様をお連れしました」

 モーガンが脇に避けたので、私の目線の先にパトリシアが見える。

 私はペコリと頭を下げた。

「はじめまして、ジェシカです」

 しばらく頭を下げた後、恐る恐る頭を上げると、冷たい視線を向けられた。

「とりあえずそこにお座りなさい」

 パトリシアの向かいの席を勧められて、私はもう一度ペコリとお辞儀をして席に座った。

 パトリシアの後ろに控えていた侍女が私の前にお茶を置いて下がっていく。

「いただきます」 

 私が一口お茶を飲んだのを見届けるとパトリシアが話しかけてくる。

「あなたはどこまでこの家の事を聞いているのかしら?」

 私、というか本当のジェシカがどこまで父親の家の事を知っていたかと聞きたいのだろう。

 だが、ジェシカは自分の父親の実家が公爵家だとは聞いていないはずだ。

 もし聞かされていたのならば、両親が亡くなった時点で公爵家を頼ったに違いない。

「いえ、何も聞いていません。あの時もお父さんの実家に行くとしか聞いていませんでした」

 あの時とはジェシカの両親が王都に行くと言って出かけた際、盗賊に襲われて亡くなった時の事だ。

 公爵家でもジェシカの両親を探す際に亡くなった理由を把握しているはずだ。

 それを聞いてパトリシアはこめかみに手をやるとふるふると首を振った。

「この家に無心に来るつもりだったのね。本当にどこまでも恥知らずな人だわ。妻である私を蔑ろにした挙げ句に、お金をせびりに来ようとするなんてね。あなたのお父様が私と結婚していたなんて聞いてもいなかったんでしょうね」

「はい。ただお母さんとの結婚を反対されたから駆け落ちをしてきたとしか聞いていません」

 実際にジェシカはそれしか聞かされていなかったのだから嘘ではない。

「ダグラスもせめて自分の実家がどこなのかをあなたに教えておくべきだったのにね。そうすればダグラス達が亡くなった後、あなたが孤児院に入らずに済んだのに…。最もダグラス達も盗賊に襲われて死ぬなんて思ってもみなかったのでしょうけれど」

 …あれ?

 その言い方だと、ジェシカが父親の実家がここだと知っていたら受け入れたと言っているように聞こえるんだけど…。

「…あの、もしかして、私をこの家に引き取るつもりがあったんですか?」

 恐る恐る尋ねるとパトリシアはキョトンとした顔をする。

「当たり前でしょう。この公爵家の血を引いた娘ですからね。大体、あの二人は駆け落ちなんてする必要はなかったのよ。流石に離婚には応じられなかったけれどね。別邸に二人で住んで公式の場だけ私と出席してくれれば良かったのに…。勝手に二人で盛り上がっちゃって悲劇の主人公ぶって出ていったのよ」

 えっ? 何それ?

 思わずまじまじとパトリシアの顔を見つめると、パトリシアは盛大なため息をついた。

「私もお義父様もお義母様も、どうせすぐに戻って来るとたかをくくっていたわ。だってダグラスは自分で働いた事なんてなかったもの。それなのに一向に戻って来る気配が無かったからそのまま放置しておいたのだけれど、まさか亡くなっていたとはね」

 …この家の人達の感覚ってちょっとズレてない?

 黙ってお茶を飲んでいると、突然パトリシアはドン、とテーブルを叩いた。

「私がハミルトンを産んだ時、ダグラスったらなんて言ったと思う? 『僕は女の子が欲しかったな』なんて言ったのよ! 私は頑張って跡継ぎを産んだって言うのに酷いと思わない!」

 …このお茶、お酒なんて入っていないよね?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拾った指輪で公爵様の妻になりました

奏多
恋愛
結婚の宣誓を行う直前、落ちていた指輪を拾ったエミリア。 とっさに取り替えたのは、家族ごと自分をも売り飛ばそうと計画している高利貸しとの結婚を回避できるからだ。 この指輪の本当の持ち主との結婚相手は怒るのではと思ったが、最悪殺されてもいいと思ったのに、予想外に受け入れてくれたけれど……? 「この試験を通過できれば、君との結婚を継続する。そうでなければ、死んだものとして他国へ行ってもらおうか」 公爵閣下の19回目の結婚相手になったエミリアのお話です。

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる

夏菜しの
恋愛
 十七歳の時、生涯初めての恋をした。  燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。  しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。  あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。  気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。  コンコン。  今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。  さてと、どうしようかしら? ※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

処理中です...