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学院編
72 言い訳
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僕がアーサーの向かいに座るとエミーがお茶を淹れてくれた。
「ありがとう。用があったら呼ぶからしばらく下がっていていいよ」
さり気なく人払いをすると、エミーは軽く頭を下げて応接室を出て行った。
僕が無言でカップを口に運ぶと、アーサーも同じようにお茶を一口飲む。
先にカップを下ろしたアーサーが「それで?」と口火を切る。
「どうしていきなり眼鏡をかける事になったのかな? 今まで一緒に過ごして来たけれど、そこまで目が悪くはないよね? 『前世の記憶がある』という事以外にも何か秘密があるのかな?」
アーサーの言う事も最もだ。
何の兆候もなく、いきなり目が悪くなるなんて通常ではあり得ない。
突然の思いつきで眼鏡をかける事にしてしまった僕の浅慮さが浮き彫りになった形だ。
それに、転生した時点で二十歳だったのだから、今の僕は三十歳のオッサンだ。
見た目は十歳なのに、中身はオッサンだなんて他人に知られたら気味悪がられるかもしれない。
ここはやはり僕が王子である事は伏せて何とか誤魔化すしかないだろう。
「アーサーはエドワード王子の噂は聞いてる?」
「エドワード王子の噂?」
話が突然飛躍したので、アーサーはキョトンとした顔を見せる。
「そう。父親である国王にそっくりだって言う噂だよ」
これは実際に義母様から聞いた事がある話だ。
最近のお茶会の席で、そういう話が出たらしい。
その話をしてくれた時、義母様は僕にこう告げた。
『そう言えばエドアルドもどことなく陛下に似ているのよね。もしかしたら学院でエドワード王子に似ているって噂になるかしら?』
そう笑った義母様に僕は『…まさか』と乾いた笑いしか返せなかったのだ。
「義母様に言わせると僕もどことなく国王陛下に似ているらしいんだ。こんな事を言うと『自意識過剰だ』って言われるかもしれないけれど、僕は学院で『エドワード王子に似ている』って言われたくないんだよ」
そう訴えるとアーサーはほんの少し眉間にしわを寄せた。
「どうして? エドワード王子に似ていると言われたら嬉しくないのかい?」
「だって考えてごらんよ。その噂がエドワード王子の耳に入ったとするよ。その場合、僕が勝手にそんな噂を流していると勘違いされたらどうする? 『不敬だ』と言われたら下位貴族の僕には何の反論も出来ないかもしれない。何より僕は平和にひっそりと生きて行きたいんだ」
最後の方は拳を握って力説すると、アーサーは少したじろいだように身体を後ろに引いた。
「そ、そうか。学院生活を平和に過ごしたいと思っているのなら、『エドワード王子に似ている』という噂を避けたいのはわかるよ。だけど、本当にエドアルドも国王陛下に似ているのか?」
アーサーが半信半疑に聞いてくるので、僕はこっそりと打ち明けた。
「これはちょっと内緒の話なんだけれど、義母様が僕を引き取った理由の一つが『幼い頃の陛下に似ているから』なんだって。義母様と義父様が話しているのを聞いちゃったんだ。これは誰にも内緒だよ」
声をひそめてアーサーに告げるとアーサーはプッと吹き出した。
「エドアルドの所もか。僕の母上も昔は陛下の事をこっそりと見ていたらしい。身分的に結婚出来ないってわかっているから余計に憧れたらしいよ。それで陛下と同じ金髪碧眼の父上と結婚したのに生まれた僕は母上と同じ茶髪に緑目だったからがっかりしたってさ」
そう言ってアーサーはケラケラと笑う。
口ではそう言っていてもアーサーの母親のサヴァンナ様はアーサーを溺愛している。
だからこそアーサーも笑いながらこの話をするのだろう。
「エドアルドの事情はわかったよ。学院では騒がれずに静かに過ごしたいんだね。僕もそれに協力するよ」
「ありがとう、アーサー。出来れば卒業までエドワード王子とは関わりたくないんだけれど、無理かな?」
「どうだろうね? こればかりは始まってみないと何とも言えないな。それよりもこれから何をする?」
そう言ってアーサーは話を切り替える。
どうなるかわからない未来よりも、これから何をして遊ぶか、という現実の方が僕達には重要案件だった。
「ありがとう。用があったら呼ぶからしばらく下がっていていいよ」
さり気なく人払いをすると、エミーは軽く頭を下げて応接室を出て行った。
僕が無言でカップを口に運ぶと、アーサーも同じようにお茶を一口飲む。
先にカップを下ろしたアーサーが「それで?」と口火を切る。
「どうしていきなり眼鏡をかける事になったのかな? 今まで一緒に過ごして来たけれど、そこまで目が悪くはないよね? 『前世の記憶がある』という事以外にも何か秘密があるのかな?」
アーサーの言う事も最もだ。
何の兆候もなく、いきなり目が悪くなるなんて通常ではあり得ない。
突然の思いつきで眼鏡をかける事にしてしまった僕の浅慮さが浮き彫りになった形だ。
それに、転生した時点で二十歳だったのだから、今の僕は三十歳のオッサンだ。
見た目は十歳なのに、中身はオッサンだなんて他人に知られたら気味悪がられるかもしれない。
ここはやはり僕が王子である事は伏せて何とか誤魔化すしかないだろう。
「アーサーはエドワード王子の噂は聞いてる?」
「エドワード王子の噂?」
話が突然飛躍したので、アーサーはキョトンとした顔を見せる。
「そう。父親である国王にそっくりだって言う噂だよ」
これは実際に義母様から聞いた事がある話だ。
最近のお茶会の席で、そういう話が出たらしい。
その話をしてくれた時、義母様は僕にこう告げた。
『そう言えばエドアルドもどことなく陛下に似ているのよね。もしかしたら学院でエドワード王子に似ているって噂になるかしら?』
そう笑った義母様に僕は『…まさか』と乾いた笑いしか返せなかったのだ。
「義母様に言わせると僕もどことなく国王陛下に似ているらしいんだ。こんな事を言うと『自意識過剰だ』って言われるかもしれないけれど、僕は学院で『エドワード王子に似ている』って言われたくないんだよ」
そう訴えるとアーサーはほんの少し眉間にしわを寄せた。
「どうして? エドワード王子に似ていると言われたら嬉しくないのかい?」
「だって考えてごらんよ。その噂がエドワード王子の耳に入ったとするよ。その場合、僕が勝手にそんな噂を流していると勘違いされたらどうする? 『不敬だ』と言われたら下位貴族の僕には何の反論も出来ないかもしれない。何より僕は平和にひっそりと生きて行きたいんだ」
最後の方は拳を握って力説すると、アーサーは少したじろいだように身体を後ろに引いた。
「そ、そうか。学院生活を平和に過ごしたいと思っているのなら、『エドワード王子に似ている』という噂を避けたいのはわかるよ。だけど、本当にエドアルドも国王陛下に似ているのか?」
アーサーが半信半疑に聞いてくるので、僕はこっそりと打ち明けた。
「これはちょっと内緒の話なんだけれど、義母様が僕を引き取った理由の一つが『幼い頃の陛下に似ているから』なんだって。義母様と義父様が話しているのを聞いちゃったんだ。これは誰にも内緒だよ」
声をひそめてアーサーに告げるとアーサーはプッと吹き出した。
「エドアルドの所もか。僕の母上も昔は陛下の事をこっそりと見ていたらしい。身分的に結婚出来ないってわかっているから余計に憧れたらしいよ。それで陛下と同じ金髪碧眼の父上と結婚したのに生まれた僕は母上と同じ茶髪に緑目だったからがっかりしたってさ」
そう言ってアーサーはケラケラと笑う。
口ではそう言っていてもアーサーの母親のサヴァンナ様はアーサーを溺愛している。
だからこそアーサーも笑いながらこの話をするのだろう。
「エドアルドの事情はわかったよ。学院では騒がれずに静かに過ごしたいんだね。僕もそれに協力するよ」
「ありがとう、アーサー。出来れば卒業までエドワード王子とは関わりたくないんだけれど、無理かな?」
「どうだろうね? こればかりは始まってみないと何とも言えないな。それよりもこれから何をする?」
そう言ってアーサーは話を切り替える。
どうなるかわからない未来よりも、これから何をして遊ぶか、という現実の方が僕達には重要案件だった。
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