御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅

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学院編

87 エルフ

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 僕が名前を呼ぶと、マーリン先生は好々爺こうこうやの顔をしてみせる。

 だが、その目は冷たく僕を見据えている。

「先ほどの授業ですべての光を発しておったからのぉ。まさか下位貴族のクラスで全属性の魔法を持っている人物がいるとは思わなかったわい」

 そう告げたマーリン先生の身体を再び白い霧が包む。

 そしてマーリン先生の姿は消え、エルフの男性の姿が現れた。

「今のは仮の姿ですよ。本当の姿がこちらです。ああ、自己紹介が遅れましたね。エルフのオーウェンです。以後お見知り置きを」

 オーウェンと名乗ったエルフの男性は座ったままの僕を上から見下ろした。

 思いがけない出来事に僕の頭の中はパニック状態だ。

「マーリン先生が実はエルフで…こっちが本当の姿…」

 ブツブツと呟く僕をマーリン先生、いやオーウェンが片方の口角を上げて見ている。

 …待てよ…。

『オーウェン』って名前、何処かで聞いたな。…何処だっけ…。

 グルグルと考えを巡らせていると、フッと教科書の一文が頭の中に浮かんだ。

『アルズベリー王国はその昔、この地を治めていたエルフ、オーウェンに戦いを挑んだヴィンセント・アルズベリーが勝利した褒賞としてオーウェンから譲り受けた』

 かつてこの地を治めていたエルフの名前がオーウェンだった。

 エルフは長命だから、そのオーウェンが生きていても不思議ではないのかもしれない。
 
 だが、本当に今目の前にいるエルフがそのオーウェンなのだろうか?

 目を見開いた僕をオーウェンがまたもやクッと笑う。

「どうやらこの国の成り立ちを思い出したようですね。お察しの通り、私がかつてこの国を治めていたオーウェンです」 

 オーウェンはそう言うと芝居がかったような動作で僕に向かってお辞儀をする。

 まさか、そんな人物が学院で生徒に魔法を教えているとは思わなかった。

「どうして、あなたが学院で先生をやっているんですか? そもそも、マーリン先生がエルフだなんて、皆知っているんですか?」 

 そう尋ねるとオーウェンはおどけた調子で肩をすくめて見せた。

「まさか。私がマーリン先生だなんて誰も知りませんよ。長く生きていると退屈なんですよ。だから、時々こうやって人間のフリをして学院で魔法を教えているんです」

 そう笑って告げるオーウェンは、長身をかがめて僕の顔を覗き込んでくる。

「それにしても本当に驚きました。まさか、このクラスに全属性の魔法を持つ者がいるなんて…。王家の血を引く者が男爵家に入ったとは聞いていないんですけどねぇ…」

 オーウェンにじっと目を覗き込まれ、僕は心の中までも見透かされるような気分になってきた。

「…おや? …あなた、面白い魂をしていますね…。…なるほど。異世界からの転生者ですか。…しかも、王家に生まれた双子の片割れとは…。クックックッ」

 オーウェンは喉の奥で笑うと、僕の首に向かって両手を伸ばしてきた。

 避ける間もなく僕の首にオーウェンの両手が掛けられ、喉を圧迫してくる。

「まさか、またもや双子が生まれるとはねぇ。二度と双子が生まれないようにしたのですが、効力が薄れて来たんですかねぇ」

 じわじわと僕の首を押さえてくるオーウェンの手を僕はバシッと掴んだ。

 だが、どうやってもその手を払いのける事が出来ない。

 まさか、オーウェンは僕を殺そうとしてる?

 そこで僕はハッとした。

 まさか、二百年前の兄王子はオーウェンによって殺されてしまったのではないだろうか…。

 僕は苦しい息の中、声を振り絞る。

「…あなたが…二百年前、兄王子を殺したんですか?」

 オーウェンは腕の力をほんの少し緩めると、僕に向かって二イッと笑って見せた。

「おや、良くわかりましたね。そう、私が二人の内の一人を排除したんですよ」

 僕もこのまま、オーウェンに殺されてしまうのだろうか?




 
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