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2 婚約の余波
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婚約式の翌日、学校に向かい教室に入るとクラスメイト達から質問責めにあった。
「ちょっと、ヴァネッサ! 一体どういう事? リュシアン様と婚約なんて寝耳に水だわ!」
「あなた達、いつの間にそんな仲になってたの? 白状しなさい!」
こうなる事は目に見えていたので、あらかじめ私とリュシアンは対応の仕方を打ち合わせていた。
「公爵家の方から打診があったの。断る理由がないからという事で、父が承諾の返事をしてしまったのよ」
あくまでも家同士の婚約であることを強調した。
だがその説明で友人達は特に疑う事もなく納得をしたようだ。
「確かにあなたの所はアンジェリック様に次ぐ家柄だものね。他の公爵家には年回りの合う方がいないから侯爵家から選ぶのは当然ね」
キャアキャアと騒ぐクラスメイト達の相手をしていると、ふと誰かの視線を感じた。
そちらに目をやると子爵家のアリーヌが凄い目で私を睨んでいる。
そういえば、彼女はよくリュシアンに話しかけていたわね。
下位とはいえ、貴族だからそれなりに節度は保っていたけれど、それでも中には彼女の行動に眉をひそめる者もいた。
やはりリュシアンの事が好きなのね。
流石に公爵家と子爵家では婚姻を結ぶことは難しい。
本人同士が好きあっていれば、上位の貴族に養子縁組をして婚姻をする場合もあるが、それは最も稀な事だ。
それに彼女の家はそんなに上位の貴族とのツテはないはずだ。
リュシアンが彼女を好きになってどうしてもと望めば話は簡単に進むだろうけど、そんな動きもない。
そこでふと、私はリュシアンが誰の事を好きなのか知らない事に思い至った。
アリーヌで無いことは確かだろう。
身分違いの恋でないとすれば、もしかしたら相手は既に婚約者がいるのかもしれない。
そこであのプロポーズされた日にリュシアンも外を見下ろしていた事を思い出した。
…まさか、アンジェリック様?
リュシアンに聞いてみたい思いにかられたけれど、リュシアンが話したがらない以上、むやみにほじくり返すのはやめた。
相手が誰か知った所でリュシアンにどうにも出来ない以上、私が口出し出来るわけもないのだから…。
アリーヌの視線を無視して私は友人達との会話に耳を傾けていた。
やがて始業のベルが鳴り授業が始まる。
授業に没頭しているうちに私はアリーヌの存在をすっかり忘れていた。
午前中の授業が終わり、皆で食堂に移動している時の事だった。
階段の踊り場付近に差し掛かったとき、ドンと誰かに追突された。
まさかそんな小説のような展開が私の身に起こるなんて想像もしていなかったからすっかり油断をしていた。
あっ! と声をあげた時には既に私の足は宙に浮いていた。
落ちる!
次に来る衝撃を覚悟して目をつぶったが、ふと気付くと誰かに後ろから抱きしめられていた。
フワリと両足が地面に着くと同時に魔力の残滓を感じた。
「ヴァネッサ、大丈夫か?」
頭の上からリュシアンの声がした。
どうやらリュシアンが魔術を使い、私を転倒の危機から救ってくれたようだ。
転倒を免れた事よりも後ろからリュシアンに抱きしめられていることに恥ずかしさを覚え、その手から逃れようとした。
「ありがとう、リュシアン。大丈夫だからその手を離してくださる?」
恥ずかしさで顔が赤くなるのを自覚しつつも身をよじるが、リュシアンは離してくれない。
「そんなふうに暴れたらまた落ちそうになるよ。手を繋いであげるから、ね?」
そう言ってリュシアンは私の手を取り、階段を降り始めた。
「ヴァネッサ。婚約したからって見せつけないでくれる?」
友人達のからかいの言葉に更に顔を赤くしつつも、リュシアンに手を引かれて食堂へと向かう。
その私の視界の端にアリーヌの姿が見えた。
ギリ、と唇を噛み締め、先程よりも更に鋭い視線を私に向けている。
まるで視線で私を射殺さんとばかりの鋭さだ。
まさか、さっきのは彼女が?
問い詰めたいけれど、後ろから追突されたので誰に追突されたのかはわからない。
証拠もないのに犯人扱いすることは出来ない。
誰かが目撃していてくれたのならば、その情報を元に告発できるかもしれないが、それでも確たる証拠にはなり得ない。
アリーヌを陥れるための共謀だと言われかねないからだ。
だが、この出来事があってから、リュシアンは移動の際には常にエスコートしてくれるようになった。
「いつもありがとう、リュシアン。だけどそんなに付き添ってくれなくても大丈夫よ」
リュシアンの手を煩わせてしまっているようで申し訳なく思って、さり気なく大丈夫だとアピールしたけれど、リュシアンは軽く微笑んだ。
「いいんだよ。君は僕にとって大事な体だからね。それにうるさい虫への牽制にもなる」
リュシアンが私と婚約したとわかっていても相変わらずアリーヌはリュシアンに付き纏っているようだ。
以前ほどではないにしても、婚約者のいる男性に対する態度ではない。
リュシアンに対して好きという感情はなくても、自分の婚約者に纏わりつかれるのはやはり気分のいいものではない。
私ってこんなに独占欲が強かったのかしら?
自分の心に戸惑いつつも、リュシアンにエスコートされながら教室を後にした。
「ちょっと、ヴァネッサ! 一体どういう事? リュシアン様と婚約なんて寝耳に水だわ!」
「あなた達、いつの間にそんな仲になってたの? 白状しなさい!」
こうなる事は目に見えていたので、あらかじめ私とリュシアンは対応の仕方を打ち合わせていた。
「公爵家の方から打診があったの。断る理由がないからという事で、父が承諾の返事をしてしまったのよ」
あくまでも家同士の婚約であることを強調した。
だがその説明で友人達は特に疑う事もなく納得をしたようだ。
「確かにあなたの所はアンジェリック様に次ぐ家柄だものね。他の公爵家には年回りの合う方がいないから侯爵家から選ぶのは当然ね」
キャアキャアと騒ぐクラスメイト達の相手をしていると、ふと誰かの視線を感じた。
そちらに目をやると子爵家のアリーヌが凄い目で私を睨んでいる。
そういえば、彼女はよくリュシアンに話しかけていたわね。
下位とはいえ、貴族だからそれなりに節度は保っていたけれど、それでも中には彼女の行動に眉をひそめる者もいた。
やはりリュシアンの事が好きなのね。
流石に公爵家と子爵家では婚姻を結ぶことは難しい。
本人同士が好きあっていれば、上位の貴族に養子縁組をして婚姻をする場合もあるが、それは最も稀な事だ。
それに彼女の家はそんなに上位の貴族とのツテはないはずだ。
リュシアンが彼女を好きになってどうしてもと望めば話は簡単に進むだろうけど、そんな動きもない。
そこでふと、私はリュシアンが誰の事を好きなのか知らない事に思い至った。
アリーヌで無いことは確かだろう。
身分違いの恋でないとすれば、もしかしたら相手は既に婚約者がいるのかもしれない。
そこであのプロポーズされた日にリュシアンも外を見下ろしていた事を思い出した。
…まさか、アンジェリック様?
リュシアンに聞いてみたい思いにかられたけれど、リュシアンが話したがらない以上、むやみにほじくり返すのはやめた。
相手が誰か知った所でリュシアンにどうにも出来ない以上、私が口出し出来るわけもないのだから…。
アリーヌの視線を無視して私は友人達との会話に耳を傾けていた。
やがて始業のベルが鳴り授業が始まる。
授業に没頭しているうちに私はアリーヌの存在をすっかり忘れていた。
午前中の授業が終わり、皆で食堂に移動している時の事だった。
階段の踊り場付近に差し掛かったとき、ドンと誰かに追突された。
まさかそんな小説のような展開が私の身に起こるなんて想像もしていなかったからすっかり油断をしていた。
あっ! と声をあげた時には既に私の足は宙に浮いていた。
落ちる!
次に来る衝撃を覚悟して目をつぶったが、ふと気付くと誰かに後ろから抱きしめられていた。
フワリと両足が地面に着くと同時に魔力の残滓を感じた。
「ヴァネッサ、大丈夫か?」
頭の上からリュシアンの声がした。
どうやらリュシアンが魔術を使い、私を転倒の危機から救ってくれたようだ。
転倒を免れた事よりも後ろからリュシアンに抱きしめられていることに恥ずかしさを覚え、その手から逃れようとした。
「ありがとう、リュシアン。大丈夫だからその手を離してくださる?」
恥ずかしさで顔が赤くなるのを自覚しつつも身をよじるが、リュシアンは離してくれない。
「そんなふうに暴れたらまた落ちそうになるよ。手を繋いであげるから、ね?」
そう言ってリュシアンは私の手を取り、階段を降り始めた。
「ヴァネッサ。婚約したからって見せつけないでくれる?」
友人達のからかいの言葉に更に顔を赤くしつつも、リュシアンに手を引かれて食堂へと向かう。
その私の視界の端にアリーヌの姿が見えた。
ギリ、と唇を噛み締め、先程よりも更に鋭い視線を私に向けている。
まるで視線で私を射殺さんとばかりの鋭さだ。
まさか、さっきのは彼女が?
問い詰めたいけれど、後ろから追突されたので誰に追突されたのかはわからない。
証拠もないのに犯人扱いすることは出来ない。
誰かが目撃していてくれたのならば、その情報を元に告発できるかもしれないが、それでも確たる証拠にはなり得ない。
アリーヌを陥れるための共謀だと言われかねないからだ。
だが、この出来事があってから、リュシアンは移動の際には常にエスコートしてくれるようになった。
「いつもありがとう、リュシアン。だけどそんなに付き添ってくれなくても大丈夫よ」
リュシアンの手を煩わせてしまっているようで申し訳なく思って、さり気なく大丈夫だとアピールしたけれど、リュシアンは軽く微笑んだ。
「いいんだよ。君は僕にとって大事な体だからね。それにうるさい虫への牽制にもなる」
リュシアンが私と婚約したとわかっていても相変わらずアリーヌはリュシアンに付き纏っているようだ。
以前ほどではないにしても、婚約者のいる男性に対する態度ではない。
リュシアンに対して好きという感情はなくても、自分の婚約者に纏わりつかれるのはやはり気分のいいものではない。
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