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9 秘薬
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アンジェリックは焦っていた。
ライバル視している侯爵令嬢のヴァネッサとの争いに勝って見事王太子妃の座を勝ち取ったにもかかわらず、未だに妊娠の兆候がないからだ。
ヴァネッサはリュシアンと結婚してアンジェリック達の挙式後に妊娠が発覚し、間もなく出産を控えていた。
その事が余計にアンジェリックを追い詰めていた。
そんな焦りを胸に秘めて義母である王妃ジャネットとのお茶会の席に向かった。
「お待たせいたしました、お義母様」
王妃の待つサロンに足を運ぶと優雅にお辞儀をする。
「アンジェリック、そちらに座って。…あなた達は下がっていいわ」
ジャネットはアンジェリックに席を勧めると、侍女達をすべて下がらせた。
他人に聞かれたくない話をするのだろうとアンジェリックは悟ったが、一体何を言われるのかは見当がついていた。
「アンジェリック。まだ妊娠の兆候はないの? リュシアンの所はもうじき生まれるって言うのに…」
やはりその話か、とアンジェリックはげんなりした。
ジャネットは姉であるジョゼットと仲が悪いせいか、ことごとく張り合っているような節がある。
リュシアン達の方が結婚が早かったとは言え、そろそろアンジェリックにも子供が出来てもいいと思っているのだろう。
アンジェリックが謝罪の言葉を口にするより早く、ジャネットは気になる事を告げた。
「それにしてもアドリアンったら、まだあなたに秘薬を使ってないの? 新婚生活を楽しみたいのはわかるけれど、血筋を残すのを優先してほしいものだわ」
…秘薬?
「…秘薬って何ですか?」
聞き慣れない言葉に思わず反応すると、義母は不思議そうに首をかしげた。
「あら? アドリアンから聞いていないの? その薬を飲んで行為に及ぶと確実に男の子を妊娠出来るのよ。王族に嫁ぐと必ず男の子を産まないといけないというプレッシャーがあるでしょ? わたくしもその秘薬のおかげでアドリアンを授かったわ。二人目は女の子が欲しかったのにまた男の子だったのはプレッシャーがなかったせいかしらね」
それはアンジェリックにとっては寝耳に水だった。
そんな秘薬があるならば、どうして使ってくれないのだろう。
ジャネットは「新婚生活を楽しみたいから」と言ったが、アドリアンにそんなつもりはないだろう。
何しろベッドを共にするのは最近ではひと月に一度くらいの頻度になったからだ。
結婚した当初は毎日とは言わないまでもそれなりに渡りがあったが、徐々に間隔が開くようになっていった。
…まさか他に女がいるのでは?
婚約した当初も仲睦まじく見せるのは人目がある場所だけだった。
国王陛下が決めた婚約だから恋愛感情はないにしても、それなりに好意は持ってもらえていると思っていたがどうやら違うようだ。
せめて王太子妃としての務めを果たせるように秘薬を使ってくれるように進言しよう。
そう決意したアンジェリックは翌朝、執務に向かう前のアドリアンを訪ねた。
「どうしたんだ、アンジェリック? リュシアンが待っているから手短に済ませてくれないか」
うっとおしそうな表情を隠しもしないアドリアンに歯噛みをしたくなったが、ぐっとこらえた。
「昨日、お義母様から伺ったのですが、王家に伝わる秘薬があるそうですね。どうしてわたくしに使ってくださらないのですか?」
アンジェリックが問い詰めるとアドリアンは少し顔を歪めたが、すぐに平静を装った。
「秘薬か。残念ながらもう作れないな。あれは女と交わる前の僕の体液から作られるんだ。君と寝た以上、作る事は出来ないんだ」
最もアンジェリックより先にヴァネッサと寝ているがそんな事はおくびにも出さない。
アンジェリックは秘薬がもう作れないと聞いてショックを受けた。
「もう作れないって…。どうしてわたくしと結婚する前に作ってくださらなかったのですか!」
秘薬は既にヴァネッサに使ってしまっていたのだが、アンジェリックはそんな事は露知らずアドリアンに詰め寄る。
「そんなにがなり立てるな。子供が欲しいんだろう? 今夜にでもお前の寝室に行くよ。もう、行くぞ」
アドリアンはアンジェリックに言い放つと、アンジェリックの側を通り過ぎて部屋を出ようとした。
「まったく…面倒臭い…」
アドリアンは小声で呟いたが、その言葉はしっかりアンジェリックに届いていた。
「…面倒臭い?」
その途端、アンジェリックの中で何かがプツリと音を立てて切れた。
アンジェリックは無意識の内にドレスに隠し持っていた護身用の短剣を握りしめていた。
「アドリアン」
そうして呼びかけに振り向いたアドリアンの胸にその先端を突き立てた。
ライバル視している侯爵令嬢のヴァネッサとの争いに勝って見事王太子妃の座を勝ち取ったにもかかわらず、未だに妊娠の兆候がないからだ。
ヴァネッサはリュシアンと結婚してアンジェリック達の挙式後に妊娠が発覚し、間もなく出産を控えていた。
その事が余計にアンジェリックを追い詰めていた。
そんな焦りを胸に秘めて義母である王妃ジャネットとのお茶会の席に向かった。
「お待たせいたしました、お義母様」
王妃の待つサロンに足を運ぶと優雅にお辞儀をする。
「アンジェリック、そちらに座って。…あなた達は下がっていいわ」
ジャネットはアンジェリックに席を勧めると、侍女達をすべて下がらせた。
他人に聞かれたくない話をするのだろうとアンジェリックは悟ったが、一体何を言われるのかは見当がついていた。
「アンジェリック。まだ妊娠の兆候はないの? リュシアンの所はもうじき生まれるって言うのに…」
やはりその話か、とアンジェリックはげんなりした。
ジャネットは姉であるジョゼットと仲が悪いせいか、ことごとく張り合っているような節がある。
リュシアン達の方が結婚が早かったとは言え、そろそろアンジェリックにも子供が出来てもいいと思っているのだろう。
アンジェリックが謝罪の言葉を口にするより早く、ジャネットは気になる事を告げた。
「それにしてもアドリアンったら、まだあなたに秘薬を使ってないの? 新婚生活を楽しみたいのはわかるけれど、血筋を残すのを優先してほしいものだわ」
…秘薬?
「…秘薬って何ですか?」
聞き慣れない言葉に思わず反応すると、義母は不思議そうに首をかしげた。
「あら? アドリアンから聞いていないの? その薬を飲んで行為に及ぶと確実に男の子を妊娠出来るのよ。王族に嫁ぐと必ず男の子を産まないといけないというプレッシャーがあるでしょ? わたくしもその秘薬のおかげでアドリアンを授かったわ。二人目は女の子が欲しかったのにまた男の子だったのはプレッシャーがなかったせいかしらね」
それはアンジェリックにとっては寝耳に水だった。
そんな秘薬があるならば、どうして使ってくれないのだろう。
ジャネットは「新婚生活を楽しみたいから」と言ったが、アドリアンにそんなつもりはないだろう。
何しろベッドを共にするのは最近ではひと月に一度くらいの頻度になったからだ。
結婚した当初は毎日とは言わないまでもそれなりに渡りがあったが、徐々に間隔が開くようになっていった。
…まさか他に女がいるのでは?
婚約した当初も仲睦まじく見せるのは人目がある場所だけだった。
国王陛下が決めた婚約だから恋愛感情はないにしても、それなりに好意は持ってもらえていると思っていたがどうやら違うようだ。
せめて王太子妃としての務めを果たせるように秘薬を使ってくれるように進言しよう。
そう決意したアンジェリックは翌朝、執務に向かう前のアドリアンを訪ねた。
「どうしたんだ、アンジェリック? リュシアンが待っているから手短に済ませてくれないか」
うっとおしそうな表情を隠しもしないアドリアンに歯噛みをしたくなったが、ぐっとこらえた。
「昨日、お義母様から伺ったのですが、王家に伝わる秘薬があるそうですね。どうしてわたくしに使ってくださらないのですか?」
アンジェリックが問い詰めるとアドリアンは少し顔を歪めたが、すぐに平静を装った。
「秘薬か。残念ながらもう作れないな。あれは女と交わる前の僕の体液から作られるんだ。君と寝た以上、作る事は出来ないんだ」
最もアンジェリックより先にヴァネッサと寝ているがそんな事はおくびにも出さない。
アンジェリックは秘薬がもう作れないと聞いてショックを受けた。
「もう作れないって…。どうしてわたくしと結婚する前に作ってくださらなかったのですか!」
秘薬は既にヴァネッサに使ってしまっていたのだが、アンジェリックはそんな事は露知らずアドリアンに詰め寄る。
「そんなにがなり立てるな。子供が欲しいんだろう? 今夜にでもお前の寝室に行くよ。もう、行くぞ」
アドリアンはアンジェリックに言い放つと、アンジェリックの側を通り過ぎて部屋を出ようとした。
「まったく…面倒臭い…」
アドリアンは小声で呟いたが、その言葉はしっかりアンジェリックに届いていた。
「…面倒臭い?」
その途端、アンジェリックの中で何かがプツリと音を立てて切れた。
アンジェリックは無意識の内にドレスに隠し持っていた護身用の短剣を握りしめていた。
「アドリアン」
そうして呼びかけに振り向いたアドリアンの胸にその先端を突き立てた。
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