悪役令嬢リティシア

如月フウカ

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恐れ

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 途中でアルターニャの鋭い視線が感じられたので、私は御者に合図して馬車の速度を上げさせた。


 すれ違うその瞬間、「リティシア、覚えてなさいよ」そう口が動いたように見えたが、私はすぐに顔を背けた。


 …なるべく早く忘れようかな。


 アルターニャ、貴女に喧嘩を売りたくはないけれど…だからといってこちらが身を引いてアレクシスを貴女に譲るつもりはないの。


 でもそれは主人公が現れるまでだから…どうにか許してくれないかしら?


 アルターニャは自身の愛する王子様と結ばれる主人公を相当虐めるだろう事が容易に推測されるが…実はそうではない。


 原作で彼女達は何でも話せる親友になるのだから不思議な話だ。


 平民である主人公に愛称は存在しないので王女から呼ばれることはなかったが、彼女自身はアルターニャを「ターニャ様」と呼び、大層気に入っていたようだった。


 アルターニャも主人公との時間を好み、頻繁にお茶会に招待していた。


 その理由は美しい心を持ち、何もかも優しく包み込む主人公を尊敬し、同時に彼女には到底敵わないと感じたからであった。


 最初こそ嫉妬に狂った王女であったが、次第に彼女の優しさに触れ、アルターニャ自身も優しい王女となり、どこかの王子様と結婚して幸せになるという話であったはずだ。


 …アレクシスへの想いは生涯忘れられなかった様だが、それは親友としての気持ちに置き換え、日々を過ごしていたらしい。


 それに比べてアルターニャのリティシアへの態度ときたら相変わらずで…彼女が亡くなった後も悪口三昧で好感度は永遠にマイナスの域であった。


 彼女は主人公によく愚痴を溢していたが、主人公は決して釣られてリティシアの悪口を述べる事はなかった。彼女はきっとリティシアが自分を見てほしくて、派手な行動をしていたのだろうと勝手に納得していたからだった。


 全然違うわ、主人公。リティシアは性根の腐った人間なだけよ。性根の腐った人間の行動は心の綺麗な人間にはまるで理解が出来ないのよ。


 …兎に角、主人公でなければ、あの嫉妬深い王女を親友にする事など到底出来ないことだろう。


 改めて思う。主人公って凄い。私にも主人公補正があればどんなに楽か…。


 まぁ転生しちゃったものは仕方ないのだけどね。今更何を言っても変わることはないのだから。


 仕方ない…リティシア、貴女の運命、私が変えてみせるわ。


 アルターニャと仲良くなるのは多分無理だけど、アレクシスだけは執着せずに引きましょう。そうすれば少なくとも主人公の魔力に殺される事はなくなるだろうから。


 リティシア…貴女は最後の最後に彼への想いに気づいたのよね?彼に…幸せになってほしいわよね?


 彼と結ばれるのは貴女ではないけど…私が彼を絶対に幸せにしてみせる。そして貴女がもし、生きていて、帰ってきたら…普通に暮らすことが出来る様に頑張ってみるわ。


 私からのアドバイスよ。


 今度こそ、普通の人生を歩みなさい。アレクシスがずっと望んでいた…優しい女性になるのよ。そうすれば、貴方はきっと悪役なんかじゃなくて、主人公になれる。


 …待って、リティシアが帰ってきたら?


 私は…どうなるの?


 言いようのない不安に襲われた私は頭を抱える。今まで私は彼女が帰ってきた時の事を全く考えていなかったのだ。


 彼女はもうこの世にいないと考えていたが…それを裏付ける根拠などどこにもないのである。


 だがそれを今考えていても仕方ない。私のすべき事は、アレクシスと婚約破棄し、彼が幸せになれる様に主人公との仲を取り持つこと。それに集中しよう。


 そう理解させようとしたのに、私の心は納得してくれない。もし、本物の悪役令嬢リティシアが、戻ってきたら…。


 そんな事、考えたくもないのに。でもきっと、今度こそ…優しくなってくれるはず。私はそう信じたい。


 あぁ自分は間違ってたんだって、きっと…分かってくれるはず。


 もし帰ってきて、私が彼女に伝えられるのならば…貴女の大切な人を傷つけてはいけないと…そう教えたい。


 立派にそびえ立つ屋敷が見えてくるまで私は一人でただ悶々と考え続けていたのであった。


「リティシア様、お帰りなさいませ。すぐ夕食になさいますか?」


 淡々と述べる執事の言葉に私は応える。


「いいわ。今日は…そんな気分じゃないから。」


 これからの自分の不安定な未来の事を思うと、とても夕食を食べる気分にはなれなかった。
 

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