悪役令嬢リティシア

如月フウカ

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潜伏

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 私達はそのまま堂々と城内を歩き始めると使用人達の疑惑の視線があちこちから突き刺さる。


「何故こんなところにリティシア嬢が?隣の人は護衛騎士かしら?」などというひそひそ話が後を絶たず、なんとも居心地が悪い。


 この様子を見るとアルターニャは門番にだけ私が来ることを伝えたのだろう。


 全く中途半端ね。ちゃんと全員に伝えておきなさいよ。居心地悪いったらありゃしないわ…。


 でも正式な招待客でもないし仕方ないかな。一応王女様直々に誘われ…いや挑発されたんだけどね。


 さてと、門番は確か庭園の側…って言ってたわよね。あぁあれかしら。椅子とテーブルが置いてあるわ。アルターニャは近くにはいないみたい。


 私の見つめる先には遠くからでもよく分かる派手なテーブルクロスがかけられた机、加えて高級そうな椅子があった。そして…うっすらとだけど魔力も感じとれる。


 私は魔法を使えるようになってからというもの、誰に教わるでもなく自然と魔力を感じられるようになっていた。


 なんとなく私の魔力と似てる気がするから炎の魔法かもしれない。この場を暖める魔法とかかな。


 それから…あそこにちょこんと置いてあるうさぎのぬいぐるみは一体何なのかしら。


 周りの物が全部新品に近い状態で揃えられているのにこれだけもうボロボロ…。


 アルターニャは余程このぬいぐるみを大事にしていたのね。


 意外だわ。古くなったらすぐ捨てそうなのに。


「公女様、あのうさぎは何でしょうか…?」


 アーグレンは明らかに異質なうさぎのぬいぐるみを凝視しながら疑問を零す。


 やっぱりアーグレンも気になるみたいね。でもそれは私が聞きたいくらいだわ。


「さぁ…でもあそこまで使い込むってことは余程お気に入りなんでしょうね」


「お気に入り…なのでしょうか。そうだとしてもこの場には不相応ですよね。他の物は新品なのに…」


「そうねぇ…もしかしたらあのうさぎの目が宝石とか…使ってる素材が世界に一つしかないとか…」


「あるいはあのうさぎを捨てると呪われるとか…」


 真剣に考えた結果それに辿り着いた私は自分の解答に心底呆れる。アーグレンも似たようなこと言ってるのが余計に問題よね。


「私達がアルターニャをどう思っているのかが…一瞬で分かる会話ね」


「そうですね…」


 結局あのぬいぐるみはなんなのかしら…?いつか本人に聞くことがあれば聞いてみましょう。出来ればもう会いたくないんだけどね。


「公女様、これからどうなさいますか?」


 うさぎのぬいぐるみから視線を外し、私の目を真っ直ぐ見つめて指示を仰いでくる。


 アレクシスとアルターニャがよく見える場所…といったらあそこしかないわね。


「そうね、あそこに隠れましょう」


 私は庭園がよく見渡せるぽっかりとあいた空間を指差すとアーグレンは分かりやすく動揺を顔に浮かべる。


「…何もありませんよ?」


 そう言いながらも私のことを信じて何か隠れるものがあるのではないかと必死に探っているアーグレンの様子は非常に面白かったが、可哀想なので答え合わせをしてあげる。


「大丈夫よ。私達にはこれがあるから」


 そして私は妙にハリボテ感のある小さな草のアイテムを取り出すと、彼は興味深そうにそれを見つめる。


「これは…なんですか?」


「植木変身セットよ」


「植木変身セットですか…?」


 ダサいなって目で見ないでよ。私だってそう思ってるんだから。でもそういう名前なんだから仕方ないじゃない。


「えぇ。昨日貴方と部屋で別れた後にお父様にそれとなく話したら貸してくれたの。人に変身する魔法は存在するけどどうやら物に変身する事はもっと難しくて習得しにくいらしくてね。でもどうしても変身したい…そんな時にはこの誰でも簡単!魔力の高さは関係ない!皆使える植木変身セット!さぁあなたも!気になるあの子を見てみよう!…を使うそうよ」


「今のは公女様が考えて…」


「そんなわけないでしょ。私が考えたらもっと上手に紹介するわよ」


 これよりはもっと上手に紹介できる…というか紹介以前にまず名前から変えるわね。


 というか気になるあの子を見てみようって…。ホントに気になるあの子をこれを使って見てたら確実に嫌われること間違いなしよ。


「そうですよね。…それにしても…丸見えな気がしますが魔法がかけられているんでしょうか?」


「そういうこと。こっちからは全部見えるけどあっちからはただの植木にしか見えないってわけよ。ただし転んだりしたら魔法が解けて相手から見えちゃうから気をつけないといけないわ」


 物凄く犯罪の匂いがするけどまぁこのくらいの用途なら別に良いわよね…。アレクを護るという正義のためだもの。仕方ないわ。


「ちなみにお父様はどうしてこんなものを持ってたと思う?」


 私は手で軽く植木変身セットを跳ねさせながらアーグレンに問う。


「…なんででしょう?」


「…怖くて聞けなかったわ」


「…聞かない方が良い事もありますよね」


 お父様はこれをどんな風に使ってたんだろう…いやこういうのは考えちゃいけないわね。


 世の中には知らない方が良い事もあるもの…。
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