悪役令嬢リティシア

如月フウカ

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悪役

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 全て言いきった後に私はようやく自我を取り戻し、冷静に今叫んだことを辿っていく。


 …私がこう思っていたのは仕方ない。


 言葉にして初めて分かる思いというものもあるだろう。それは理解出来る。


 だがそれをアレクに言う必要があっただろうか?いや、確実にない。


 でも…何故だか彼に言いたくなった。


 理由は分からないが…それがアレクの力なのかもしれない。


「…ごめんなさい。忘れて。ちょっとその小説に思い入れがあっただけだから」


 苦しすぎる言い訳でも彼ならば理解してくれる。きっと流してくれる。


 そう思った私とは裏腹に彼はその話題を変えるつもりは更々ないようであった。


「…なぁリティシア。悪役はどうして悪役になるんだろうな」


 彼は勝手に暴走した私を問いただすでもなく、ただ冷静に意外な質問を口にした。


 悪役が何故悪役になるか?


 そんなの決まってる。その人物は…物語の中で、悪役だと初めから決められているからだ。


「生まれた時は皆同じだ。世間の事は何も知らずにただ泣いているだけ。皆純粋で疑う事すら知らない人間だったはずなのに…何がきっかけで変わってしまうんだろうか」


「…面白いことを言うのね。悪役は生まれた時から悪役なのよ。変わったんじゃない。初めからそうなの。だって…神様にそう決められて生まれてくるんだから」


 小説でリティシアが最初から最後まで悪役だったように…悪役は生まれた時からそうなんだ。


 私という現代人がたまたまリティシアに転生していなければ…この身体は変わらず破滅へと進んでいったことだろう。


 それは何故か。


 答えは簡単。そう決められているから。


 この小説を書いた作者が、リティシアは「悪」と決めつけているからだ。


 私が仮に何も行動を起こさなかったとしたら…この決められた「悪」に従い勝手に破滅していくのだろう。愛する人に嫌われ、殺される。そんな最悪の結末が悪役令嬢リティシアを待っているのだ。


 悪役に相応しい、悲劇的で、残酷で派手な終わりが…ただじっと彼女を待っているのである。


「…そうかもな。もしかしたら…初めから全て決められているのかもしれない。俺達がどう生き、誰と敵対し、誰と仲良くなるのか、何もかも全て…。でもそう考えてしまうのはあんまりよくないな。俺達の人生はなにもかも全て誰かに決められた人生だなんて…そんなの俺達自身に失礼だと思うから」


 彼の紡ぐ言葉一つ一つに耳を傾けるとなんとも新鮮な考え方に純粋に驚かざるを得ない。


 そう考えるのは私達自身に失礼?


 …そんなこと考えもしなかったわ。だってここは決められた世界だってことを知っているから。


 でも…アレクやアーグレン、ルナが…小説通りに動き続けたことって一度でもあったかな?


 パーティが開かれるとか、大まかな展開こそ決められていたことかもしれないけど…彼らは小説と同じ言葉、小説と同じ行動をとったわけじゃない。


 記憶が薄れていても、あまりにも同じ行動を取られれば既視感が起こるはずだ。だから違うと分かる。


 つまり、それは殆どなかったのだ。


 むしろ私が変わるにつれて彼らの行動も変わっていったような気がする。


 でも…私が変われば変わるほど…アレクの運命もきっと大きく変わってしまう。私が悪役であれば彼の未来は変わらないが私が変わってしまえば…彼の未来はもう分からない。


 確実な方をとるのであれば…私が悪役になるしかない。完全な悪役ではなくアドバイスが出来るような中途半端な悪役…。時が来れば退場するただの脇役と変わらない。


 それでいいの。


 …それで、いいの?


「…一つ質問しても良いかしら」


「あぁもちろん。なんだ?」


「貴方が…貴方がもし悪役に生まれ変わったらどうする?その世界で悪役になるのが決まっていて、何もしなければ殺されるの。アレクシスの意見とは変わっちゃうけど、本当に物語としてそう作られているとする。それを貴方は知っているとして…」


 誰かに決められた人生だなんて自分自身に失礼だって…そう思える貴方には分からないかな。


 貴方は悪とは真逆の位置に存在する人だから…悪役としてだなんて考えられないかもしれない。


 …それからね、話は変わるけど私がまず凄いなと思えることは…私の意見をただ否定するんじゃなくて肯定から入ったこと。


 彼はあくまでも自分の意見として述べていた。私を否定しなかった。完全否定をしないことで私も冷静になり、自分の意見を見つめ直すことができるの。


 それがどれだけ凄いことなのかを…アレクはきっと気づかない。


「…そうだな。もし物語の悪役に生まれ変わったら…何故悪に染まったのかを探るかな」


 アレクシスはあり得ないと決めつけるでもなく、分からないと返事を曖昧にするのでもなく…ただ真剣に私の質問に向き合ってくれる。


 誰かに真っ直ぐ向き合える貴方が誰からも好かれるのは…当然のことよね。


「仮に全てが決められた悪役だとしても何かしらの理由があると思うんだ。それに気づいたら、原因を全部取り除いてあげればいい。…変えられない未来なんてきっと一つも存在しない。だって未来は初めから決められたものじゃないんだから」


「…そう」


 もしも悪役に生まれ変わったのが私ではなくアレクだったとしたら…自分の未来を変えて色んな人を助けようとするんでしょうね。


 でも私は不器用だから…より確実な方に縋るしかない。アレクシスを幸せにするために、悪役わたしはいつか退場しなければならない。


 でも…未来は変えられるって言ってもらえるとこんなに気が楽になるものなのね。


 ありがとうアレク、私…貴方を絶対に幸せにしてみせるわ。


 私が軽く微笑むとほぼ同時にガタン、と頭上で音がした。うっすらと魔力も感じ、本棚を背にして立っていた私は振り返る。


 そして少し離れたところにいたアレクシスは飛び込んできた光景に一瞬にして青ざめた。


「リティシア!危ない!」


 本棚から溢れた無数の本が私めがけて落下していた。
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