悪役令嬢リティシア

如月フウカ

文字の大きさ
94 / 209

しおりを挟む
【アルターニャ】


 時は少し遡り、私がリティシアと殿下を書斎に押し込んだ直後から話が始まる。


 私は、こちらを鋭い視線で見つめてくるリティシアの護衛騎士にため息をつく。凄い警戒されてるのね。


「…たかが騎士如きが王女を睨みつけるってどうなの?」


「私は睨みつけている訳ではありません。ただ目つきが悪いだけです」


 私はその返答に苛立ちながらもあくまでも平成を装って答える。


「それはそれで問題あるじゃない…。まぁ良いわ、貴方のご主人様と殿下を心配してるなら大丈夫。さっきも行った通りここはお城なのよ?何も起こらないわ。」


 そう、このお城で何かが起こる方が珍しい…。何も起きないわ。きっとね。


「私が殿下を好きなことくらい貴方ならとっくに知っているでしょう?この中には殿下もいるんだから何もしないわよ」


 私の言葉に少し安心したのか護衛騎士の瞳に浮かぶ警戒が少し揺らいだ。


 …彼は何も答えないが。


「…貴方、平民って言ったわよね。平民の貴方が一体どうやって護衛騎士になったの?いくら殿下の親友だからってそう簡単になれるとは思えないわ」


 普通の貴族が騎士になることすら険しい道のりであるのに、それに留まらず令嬢の護衛騎士にまで任命されるなんて…どう考えても相当な実力者だ。


 仮にリティシアを傷つけるのであればどうにかしてコイツをどかさなければ絶対に不可能だろう。


 そうでなくても殿下があの女を庇っているのに…どうしてリティシアを庇う人が次々に現れるのか全く理解できないわね。


「…騎士になれたのは殿下のおかげです。勿論努力はしましたけど、殿下がいなければ絶対に無理な話でした。それから…私は陛下に命じられてリティシア公女様をお護りするようになりました。それだけです」


 ちゃんと答えているようでぼかした返答しかしていない…まぁそれで良いわ。別に今の質問に大した意味も…興味すらないんだもの。


 陛下に命じられたっていうのはちょっと気になるけど…陛下とブロンド公爵が親友なのは既に知られていることだし、特に気に留めるようなことではないわね。


「じゃぁもう一つ。リティシアの噂は知っているわね?それでも尚仕えようとするのは何故?とても『陛下に命じられたから』だけじゃなさそうなんだけど」


 普通はいくら主人のためとはいえ他国の王女相手に反抗的な態度を取ったりしないわ。


 殿下の親友だから殿下の婚約者を護ろうとしてるとすれば納得はいくけど…そこまで必死になるかしらね?


 王族に逆らうなんて…下手したら自分の首が飛ぶかもしれないのに。


 貴方のその忠誠心…とっても邪魔なのよねぇ…。


「…リティシア公女様は優しく聡明な…私のお仕えするべき大切な主人です。それだけで十分理由になると思いますが」


 優しく聡明ねぇ…それはリティシアじゃなくて殿下でしょ?全く…とんでもない間違いね。


 返事をしない私をじっと見つめ彼は口を開く。


「…一つ、私からも質問をさせて頂けますか」


「えぇ、どうぞ」


「何故リティシア公女様を嫌うのですか」


 騎士は再び真っ直ぐ私の目を見つめる。その目はどう見ても…リティシアを心から信じている。


 あぁなんだ…そんなこと?


 無意識に私の口から冷たい笑いが溢れた。


「そんなの…当たり前じゃない。ムカつくからよ。あの瞳も、行動も…全部ね。今更殿下に興味を示すなんて許せない。今まで散々蔑ろにして来たくせに!」


 殿下がこれまでどれだけ苦労をしてきたか、私は全て知っている。なのに殿下はリティシアと婚約破棄をするどころかずっと…ずっと見守ってきた。


 あの女はずるいから、悪いことは殿下の前ではしない。実際に見たことがないから彼女の悪い噂を殿下は信じなかった。


 でも本当は薄々気づいていて、ずっと改心してくれることを信じて見守っていたあの殿下の気持ちを少しも知らないくせに…今更普通になったところで認められるわけがない。


 あの時…殿下を奪えるものなら奪ってみせろってよく言えたわよね。


 殿下は貴女のものなんかじゃないのに…貴女のものになるわけないのに。


「…私は過去の公女様を知りません。ですが…今の公女様は素晴らしいお方です。どうかご理解頂けないでしょうか。アルターニャ王女様。」


 ほらこうやって皆がリティシアの味方をする。…どうして?


 私はずっとずっと殿下が好きだったのに。


 リティシアなんかよりもずっと身分が高いのに…リティシアよりも、ずっと良い女なのに!


 今更、今更殿下と結ばれるなんて許せない。いや…許さないわ。必ず…引き離す。


「理解できないわね。私とリティシアは決して分かりあえない存在…貴方も分かってるんでしょ?」


「…そんな事ありません。公女様は…アルターニャ王女様と敵対するつもりはないはずです。」


「嘘おっしゃい。私に向かって殿下を奪ってみせろって言ったのよ?たかが公女のくせに生意気な…」


 だからある仕掛けを用意したの…きっとそろそろだわ。


 …私を怒らせた罰よ。


 お兄様が教えてくれた通りにやってやるわ。リティシア、私の風の魔法の威力…受けてみなさい。


 私は微かに感じる炎の魔力を元にリティシアの位置を把握し、意識を集中させる。この位置であれば、きっと殿下は巻き込まないはずだ。


 ねぇ護衛騎士さん。実はこの部屋は防音魔法がかけられているのよ。


 つまり何が起こっても…絶対に気づかれない。


 そして私は呟いた。


落下ヴィートリー
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...