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【アルターニャ】
時は少し遡り、私がリティシアと殿下を書斎に押し込んだ直後から話が始まる。
私は、こちらを鋭い視線で見つめてくるリティシアの護衛騎士にため息をつく。凄い警戒されてるのね。
「…たかが騎士如きが王女を睨みつけるってどうなの?」
「私は睨みつけている訳ではありません。ただ目つきが悪いだけです」
私はその返答に苛立ちながらもあくまでも平成を装って答える。
「それはそれで問題あるじゃない…。まぁ良いわ、貴方のご主人様と殿下を心配してるなら大丈夫。さっきも行った通りここはお城なのよ?何も起こらないわ。」
そう、このお城で何かが起こる方が珍しい…。何も起きないわ。きっとね。
「私が殿下を好きなことくらい貴方ならとっくに知っているでしょう?この中には殿下もいるんだから何もしないわよ」
私の言葉に少し安心したのか護衛騎士の瞳に浮かぶ警戒が少し揺らいだ。
…彼は何も答えないが。
「…貴方、平民って言ったわよね。平民の貴方が一体どうやって護衛騎士になったの?いくら殿下の親友だからってそう簡単になれるとは思えないわ」
普通の貴族が騎士になることすら険しい道のりであるのに、それに留まらず令嬢の護衛騎士にまで任命されるなんて…どう考えても相当な実力者だ。
仮にリティシアを傷つけるのであればどうにかしてコイツをどかさなければ絶対に不可能だろう。
そうでなくても殿下があの女を庇っているのに…どうしてリティシアを庇う人が次々に現れるのか全く理解できないわね。
「…騎士になれたのは殿下のおかげです。勿論努力はしましたけど、殿下がいなければ絶対に無理な話でした。それから…私は陛下に命じられてリティシア公女様をお護りするようになりました。それだけです」
ちゃんと答えているようでぼかした返答しかしていない…まぁそれで良いわ。別に今の質問に大した意味も…興味すらないんだもの。
陛下に命じられたっていうのはちょっと気になるけど…陛下とブロンド公爵が親友なのは既に知られていることだし、特に気に留めるようなことではないわね。
「じゃぁもう一つ。リティシアの噂は知っているわね?それでも尚仕えようとするのは何故?とても『陛下に命じられたから』だけじゃなさそうなんだけど」
普通はいくら主人のためとはいえ他国の王女相手に反抗的な態度を取ったりしないわ。
殿下の親友だから殿下の婚約者を護ろうとしてるとすれば納得はいくけど…そこまで必死になるかしらね?
王族に逆らうなんて…下手したら自分の首が飛ぶかもしれないのに。
貴方のその忠誠心…とっても邪魔なのよねぇ…。
「…リティシア公女様は優しく聡明な…私のお仕えするべき大切な主人です。それだけで十分理由になると思いますが」
優しく聡明ねぇ…それはリティシアじゃなくて殿下でしょ?全く…とんでもない間違いね。
返事をしない私をじっと見つめ彼は口を開く。
「…一つ、私からも質問をさせて頂けますか」
「えぇ、どうぞ」
「何故リティシア公女様を嫌うのですか」
騎士は再び真っ直ぐ私の目を見つめる。その目はどう見ても…リティシアを心から信じている。
あぁなんだ…そんなこと?
無意識に私の口から冷たい笑いが溢れた。
「そんなの…当たり前じゃない。ムカつくからよ。あの瞳も、行動も…全部ね。今更殿下に興味を示すなんて許せない。今まで散々蔑ろにして来たくせに!」
殿下がこれまでどれだけ苦労をしてきたか、私は全て知っている。なのに殿下はリティシアと婚約破棄をするどころかずっと…ずっと見守ってきた。
あの女はずるいから、悪いことは殿下の前ではしない。実際に見たことがないから彼女の悪い噂を殿下は信じなかった。
でも本当は薄々気づいていて、ずっと改心してくれることを信じて見守っていたあの殿下の気持ちを少しも知らないくせに…今更普通になったところで認められるわけがない。
あの時…殿下を奪えるものなら奪ってみせろってよく言えたわよね。
殿下は貴女のものなんかじゃないのに…貴女のものになるわけないのに。
「…私は過去の公女様を知りません。ですが…今の公女様は素晴らしいお方です。どうかご理解頂けないでしょうか。アルターニャ王女様。」
ほらこうやって皆がリティシアの味方をする。…どうして?
私はずっとずっと殿下が好きだったのに。
リティシアなんかよりもずっと身分が高いのに…リティシアよりも、ずっと良い女なのに!
今更、今更殿下と結ばれるなんて許せない。いや…許さないわ。必ず…引き離す。
「理解できないわね。私とリティシアは決して分かりあえない存在…貴方も分かってるんでしょ?」
「…そんな事ありません。公女様は…アルターニャ王女様と敵対するつもりはないはずです。」
「嘘おっしゃい。私に向かって殿下を奪ってみせろって言ったのよ?たかが公女のくせに生意気な…」
だからある仕掛けを用意したの…きっとそろそろだわ。
…私を怒らせた罰よ。
お兄様が教えてくれた通りにやってやるわ。リティシア、私の風の魔法の威力…受けてみなさい。
私は微かに感じる炎の魔力を元にリティシアの位置を把握し、意識を集中させる。この位置であれば、きっと殿下は巻き込まないはずだ。
ねぇ護衛騎士さん。実はこの部屋は防音魔法がかけられているのよ。
つまり何が起こっても…絶対に気づかれない。
そして私は呟いた。
「落下」
時は少し遡り、私がリティシアと殿下を書斎に押し込んだ直後から話が始まる。
私は、こちらを鋭い視線で見つめてくるリティシアの護衛騎士にため息をつく。凄い警戒されてるのね。
「…たかが騎士如きが王女を睨みつけるってどうなの?」
「私は睨みつけている訳ではありません。ただ目つきが悪いだけです」
私はその返答に苛立ちながらもあくまでも平成を装って答える。
「それはそれで問題あるじゃない…。まぁ良いわ、貴方のご主人様と殿下を心配してるなら大丈夫。さっきも行った通りここはお城なのよ?何も起こらないわ。」
そう、このお城で何かが起こる方が珍しい…。何も起きないわ。きっとね。
「私が殿下を好きなことくらい貴方ならとっくに知っているでしょう?この中には殿下もいるんだから何もしないわよ」
私の言葉に少し安心したのか護衛騎士の瞳に浮かぶ警戒が少し揺らいだ。
…彼は何も答えないが。
「…貴方、平民って言ったわよね。平民の貴方が一体どうやって護衛騎士になったの?いくら殿下の親友だからってそう簡単になれるとは思えないわ」
普通の貴族が騎士になることすら険しい道のりであるのに、それに留まらず令嬢の護衛騎士にまで任命されるなんて…どう考えても相当な実力者だ。
仮にリティシアを傷つけるのであればどうにかしてコイツをどかさなければ絶対に不可能だろう。
そうでなくても殿下があの女を庇っているのに…どうしてリティシアを庇う人が次々に現れるのか全く理解できないわね。
「…騎士になれたのは殿下のおかげです。勿論努力はしましたけど、殿下がいなければ絶対に無理な話でした。それから…私は陛下に命じられてリティシア公女様をお護りするようになりました。それだけです」
ちゃんと答えているようでぼかした返答しかしていない…まぁそれで良いわ。別に今の質問に大した意味も…興味すらないんだもの。
陛下に命じられたっていうのはちょっと気になるけど…陛下とブロンド公爵が親友なのは既に知られていることだし、特に気に留めるようなことではないわね。
「じゃぁもう一つ。リティシアの噂は知っているわね?それでも尚仕えようとするのは何故?とても『陛下に命じられたから』だけじゃなさそうなんだけど」
普通はいくら主人のためとはいえ他国の王女相手に反抗的な態度を取ったりしないわ。
殿下の親友だから殿下の婚約者を護ろうとしてるとすれば納得はいくけど…そこまで必死になるかしらね?
王族に逆らうなんて…下手したら自分の首が飛ぶかもしれないのに。
貴方のその忠誠心…とっても邪魔なのよねぇ…。
「…リティシア公女様は優しく聡明な…私のお仕えするべき大切な主人です。それだけで十分理由になると思いますが」
優しく聡明ねぇ…それはリティシアじゃなくて殿下でしょ?全く…とんでもない間違いね。
返事をしない私をじっと見つめ彼は口を開く。
「…一つ、私からも質問をさせて頂けますか」
「えぇ、どうぞ」
「何故リティシア公女様を嫌うのですか」
騎士は再び真っ直ぐ私の目を見つめる。その目はどう見ても…リティシアを心から信じている。
あぁなんだ…そんなこと?
無意識に私の口から冷たい笑いが溢れた。
「そんなの…当たり前じゃない。ムカつくからよ。あの瞳も、行動も…全部ね。今更殿下に興味を示すなんて許せない。今まで散々蔑ろにして来たくせに!」
殿下がこれまでどれだけ苦労をしてきたか、私は全て知っている。なのに殿下はリティシアと婚約破棄をするどころかずっと…ずっと見守ってきた。
あの女はずるいから、悪いことは殿下の前ではしない。実際に見たことがないから彼女の悪い噂を殿下は信じなかった。
でも本当は薄々気づいていて、ずっと改心してくれることを信じて見守っていたあの殿下の気持ちを少しも知らないくせに…今更普通になったところで認められるわけがない。
あの時…殿下を奪えるものなら奪ってみせろってよく言えたわよね。
殿下は貴女のものなんかじゃないのに…貴女のものになるわけないのに。
「…私は過去の公女様を知りません。ですが…今の公女様は素晴らしいお方です。どうかご理解頂けないでしょうか。アルターニャ王女様。」
ほらこうやって皆がリティシアの味方をする。…どうして?
私はずっとずっと殿下が好きだったのに。
リティシアなんかよりもずっと身分が高いのに…リティシアよりも、ずっと良い女なのに!
今更、今更殿下と結ばれるなんて許せない。いや…許さないわ。必ず…引き離す。
「理解できないわね。私とリティシアは決して分かりあえない存在…貴方も分かってるんでしょ?」
「…そんな事ありません。公女様は…アルターニャ王女様と敵対するつもりはないはずです。」
「嘘おっしゃい。私に向かって殿下を奪ってみせろって言ったのよ?たかが公女のくせに生意気な…」
だからある仕掛けを用意したの…きっとそろそろだわ。
…私を怒らせた罰よ。
お兄様が教えてくれた通りにやってやるわ。リティシア、私の風の魔法の威力…受けてみなさい。
私は微かに感じる炎の魔力を元にリティシアの位置を把握し、意識を集中させる。この位置であれば、きっと殿下は巻き込まないはずだ。
ねぇ護衛騎士さん。実はこの部屋は防音魔法がかけられているのよ。
つまり何が起こっても…絶対に気づかれない。
そして私は呟いた。
「落下」
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