悪役令嬢リティシア

如月フウカ

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誕生日パーティ編 その9

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ㅤとてもとても嫌な予感がした私は一応笑顔を浮かべたが、明らかに顔が引きつってしまう。


 結果的にその予感は的中した。イサベルは丸くて可愛らしい目を更に丸くして驚き、アーグレンはそれ程表情には出さなかったが、驚いているのが分かった。


「リティ!私達からは特大ケーキのプレゼントよ!この間貴女が買ってくれたもののお返しよ!」


 ワゴンに載せられて現れたのは今まで見たこともない程の大きさの特大ケーキであった。見上げなければ全体を見ることができない。


 苺は小さいものではなくちゃんと大きいものが用意されており、とにかく全てが巨大である。


 嬉しいけどこんなのどうやって食べろって言うのよ……。


 というか貴女が買ってくれたもの……ってもしかしてアレクと出掛けた時に買ったやつのことを言っているのなら比にならないんですけど……。


 私が思わず口をぽかんと開けて特大ケーキを眺めていると、「驚いたでしょ?これが私達からの愛よ!!」と大声でお母様が叫ぶのでちょっと黙ってほしいなと思ってしまった。


 お願いだから皆の前でそんなこと言わないで……公爵夫人が親バカなのはちょっと問題ありでしょ……ってあぁもう周知の事実なのか。


 パーティに参加してくれた人々はケーキを見上げ一瞬驚いた様子を見せたが、「この夫婦ならやるか」とでもいった感じらしく、特にそれ以上のリアクションは見せなかった。


「さぁリティ、殿下と一緒に食べ……あれ?まだ来てないの?おかしいわね、ちゃんと招待状は送ったわよね?」


「あぁ送ったはずだ。リティの誕生日パーティに来ないなんてやっぱりリティには相応しくな……」


「お父様?まだ来ないとは決まっていませんので殿下の悪口はやめて下さいね」


 何度も言うようだけど相応しくないのはアレクじゃなくて私だからね。なんでお父様もお母様も私に釣り合うかどうかで考えるのかしら……どう考えても逆じゃないの。


「リティシア様、この特大ケーキ、殿下にも早くお見せしたいですね。」


「そうね。きっと驚くでしょうね」


「流石に殿下もこのように大きなケーキは見たことがないでしょうね……。驚く顔が目に浮かぶようです」


 イサベルが笑顔で、アーグレンはケーキを見上げながらそう呟いた。


 先程から何度も話題になっているのに当の本人は一向に現れる気配がない。よく見てみるとアルターニャを除き、他の王族らしき姿もなかった。まぁそれはどうでもいいが。


 アレクのことだからどんなに忙しくてもちゃんと来てくれると思ってたのに……。


 本当に来る気がないの?可愛く着飾ったイサベルを見せて恋に落とす渾身の少女漫画作戦が台無しになっちゃうじゃない……。


「このケーキは殿下が来るまで食べられないわねぇ、崩れないように一旦下げてもらうしかないかしら」


「そうですね、すみません折角出して頂いたのに」


 お父様はケーキを一旦下げるように指示する。巨大ケーキが消えると一気に空間が広くなったように感じた。あの大きさは本当にやりすぎ以外の何物でもない。


「いいのよ、悪いのはリティじゃなくてパーティに来ない殿下なんだから」


「お母様そういう発言はやめてもらえますかね?殿下はお忙しい方なんですよ」


「えぇもちろん分かってるわよ~。分かってるけど、リティの反応が面白くてつい……。本当にリティは殿下が大事なのねぇ」


「だからそういうのではなくて……」


 今までのは私の反応を楽しむためにわざと言っていたのね…。でもアレクの悪口なんてどう足掻いても無視できないししょうがないわよ。


 もしこのままアレクが来なかったらどうするか一人でじっくり考えなきゃ。その為には少しここを離れる必要があるわね。こんな騒がしいとこじゃ何も浮かばないわ。


 こちらを見て優しく微笑む両親に私は言いにくそうに言葉を告げる。


「お母様、お父様。少し会場を離れても宜しいですか?」


「いいけど、どうしたの?パーティが気に入らなかった?」


「いえ、少し……風に当たりたいんです」


「分かった。行ってきなさい」


 不思議そうに私を見ていたが、最終的にはこちらの意見を優先してくれた。親バカなのを除けば正に親の鑑だ。


 イサベルが「あ、リティシア様私も一緒に……」と声をかけてくれたのだが、「ごめんなさい、ちょっと一人になりたいの」と伝える。イサベルは私の方に伸ばしかけた手を寂しげに引っ込めた。


 護衛騎士であるアーグレンは当然私に着いてこようとしたが「パーティで危険なことなんて起こりやしないわ。だから今は一人にさせて」と彼女と同じ様に伝える。彼は心配そうにこちらを見ていたが、納得してくれた。


 私は一人で会場を後にすると、近くに控えていた執事が声をかけてくる。


「おや、リティシア様、パーティがお気に召しませんでしたか」


「そんなんじゃないわ。ただ一人になりたいの。私はバルコニーにいるわ。何か用があったら声をかけて頂戴」


「畏まりました。リティシア様の仰せのままに」


 アレク……本当に来なかったら許さないわよ。


 私は重い足取りでバルコニーのある二階へと続く階段を少しずつ登っていく。


 ……この時の私はまだ気がついていなかった。公爵邸に近づく一人の来訪者の存在に。
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