ハイスぺ男子は私のおもちゃ ~聖人君子な彼の秘めた執着愛~

幸村真桜

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私のおもちゃよ、永遠に

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 福永と璃湖が思いを通わせてから早くも三ヶ月が経った。季節は秋に変わり、残暑も過ぎ去り過ごしやすい日が続いている。

 そして大安吉日の今日、璃湖は純白のウェディングドレスに身を包み結婚式場にいた。

 福永と初めて繋がったあの日から、この日を迎えるまではまるでジェットコースターような怒涛の日々だった。翌日に婚約指輪を購入し、次の週にはお互いの家に結婚の挨拶をし、その次の日には両家の顔合わせ。そこで式場と結婚式の日取りが決定し、申し込みまで済ませた。

 あまりのスピーディーさに璃湖の家族は驚いていたが、福永家の面々は全員がこの結婚に前のめりだった。あまりの勢いに、少し引いてしまったほどだ。

 聞けば福永は三年ほど前に宝村を辞めて彼の父親が社長を務める会社に次期社長として入社する予定だったらしい。それが福永ごねにごねたせいで、ずっと先延ばしになっていたのだという。

 その理由が璃湖だったというのだから、心の底から驚いだ。璃湖への恋心を抑えていた福永だったが、繋がりを断つのが嫌で宝村を離れる決心がつかなかったのだそうだ。

 こうと決めたら絶対に譲らない福永の性格を熟知している両親は、早々に説得を諦め静観することに決めたらしい。

 想い人と一向に進展しないことにかなりヤキモキしていたそうだが、その息子がようやく意中の人を連れてきた。しかも結婚すると報告してきたものだから前のめりになるのも当然だ。

 両家の格差を心配していた璃湖の両親もそれを知り、そんなに想ってくれる人とならと安心したようだ。そして福永の両親とはなんだかウマが合ったようで、璃湖と彼が結婚式の準備でヒイヒイ言っているときにすっかり仲良くなっていた。

 年末には四人で旅行に行く計画までたてているというから驚きだ。だが、結婚は当人同士のものだけではないというし、互いの両親が仲が良いというのは喜ばしいことだろう。

 会社ではしばらく注目されたが、なにしろやるべきことが多すぎて気にする余裕もなかった。部署内の人間が思いの外歓迎ムードだったおかげかもしれない。

 意外と表情に出やすい福永は、璃湖への気持ちが漏れていたようで彼の気持ちを知っている人も多かったのだ。彼のことがまったく眼中にない様子の璃湖に不憫さを覚えるほどだったと言われて、苦笑いをするしかなかった。

 チャペルの扉の前で今日までのことを思い出す。とても濃密な半年間だった。福永に契約関係を持ちかけられたときは、まさか彼と結婚することになるだなんて思いもしなかった。

 本当に色々なことがあったと感慨深い気持ちになる。

「細井様、本日はおめでとうございます。⋯⋯すごくお綺麗ですよ」

「ありがとうございます。今日という日を迎えられたのは宮森みやもりさんのおかげです。本当にお世話になりました」

 担当してくれたウェディングプランナーの宮森に声を掛けられて、頭を下げた。短期間の準備で、いっぱいいっぱいなときに彼女には本当に助けられた。

「そんな⋯⋯素敵なおふたりの結婚式に携われてとても光栄です。さあ、新郎様がお待ちですよ。扉を開けますね」

 そう言われ、璃湖はいよいよだと大きく息を吸い込んでから頷いた。

 扉が開くと、招待客の視線が一斉に璃湖に注がれる。入口で待っていた母が、ヴェールを下げて璃湖のことを抱きしめた。

「幸せになるのよ」

 その目に涙が浮かんでいることに気づいて、璃湖も釣られて泣きそうになる。だが、一緒にヴァージンロードを歩く父の顔があまりにも緊張で強張っているのを見て、こぼれそうになった涙が引っ込んだ。

 手と足が一緒に出るというなんともテンプレな動きをする父に、会場が温かい空気に包まれる。いつも堂々としているのに、こんな風になるのは意外だ。

 やっとの思いで祭壇に着くと、柔らかい笑みを浮かべた福永が待っていた。純白のタキシードに身を包み、髪をセットした福永は気品に溢れていてまるで本物の王子様のようだ。

 こちらに手を差し出す様に、思わず見惚れてしまう。ぽーっとしている璃湖の手を、父が福永の手に重ねた。それから感極まったように泣き出した。

「娘を⋯⋯璃湖を⋯⋯頼んだ。大事な、娘なんだ」

 父よ、それはずるい。目元を拭う姿に、引っ込んでいた涙が再びせり上がってくる。父の泣いている姿を見るのは初めてだ。それだけ大事に育てていてもらったのだと思うと、胸がいっぱいになる。

「はい。一生を賭けて⋯⋯大切にします」

 力強く璃湖の手を握った彼の言葉に耐えきれず涙がこぼれた。傍に控えていた宮森に渡されたハンカチで目元の拭い、ふたりで祭壇の前に立つ。

 なんだかとても厳かな気持ちだ。短期間での準備はとても大変だったが、今日という日を迎えられて本当に良かったと思う。

 式は順調に進み、次は誓いのキスだ。璃湖のヴェールを持ち上げた福永が、ほおっと感嘆の息をつく。

「璃湖、すごく綺麗だ」

「あ、ありがとう。恭弥さんも、素敵です」

 幸せそうに笑った福永が、顔を寄せる。それを見て、璃湖はそっと目を瞑った。人前でキスをするなんて恥ずかしいから、頬にしてほしいとお願いしてある。ドキドキしながら待っていると、柔らかいなにかが唇に触れた。驚いて目を開くと、福永が悪戯っぽく笑った。

「俺の世界一かわいい花嫁さん。一生、君のおもちゃでいることをここで神に誓うよ」

 璃湖にしか聞こえない声でそう呟いた福永に、璃湖は赤くなった。こんなところでなにを言っているのだ。先ほどまでの厳かな気持ちがすっかり吹き飛んでしまった。

 そんなことを神聖な場所で言うなんて、罰当たりではないのか。軽く睨むと、小さく笑った福永が璃湖に口づけた。

 頬にしてほしいと言ったのにと思いながら、璃湖も目を瞑る。長いキスに、牧師の咳払いが聞こえ式場内から小さな笑い声が聞こえてくる。璃湖は恥ずかしくて顔から火が出そうだが、ようやく唇を離した福永はとても満足そうだった。

 まったく仕方のない人だ。だけどそんな福永のことが愛おしくてたまらない。それが璃湖への深い愛ゆえの行動だと知っているから、結局は彼のことを許してしまう。

 福永ほど璃湖を愛して、極上の快楽で天国に連れて行ってくれる人はいない。隣で笑う彼を、一生大切にしていきたいと思う。だって、彼は璃湖の最愛の夫で⋯⋯永遠に最高のおもちゃなのだから。



 END





〈あとがき〉

 ここまで呼んでいただき誠にありがとうございました。途中、内容を変更したりと読者の皆様には大変ご迷惑をおかけしました。最後まで連載を続けられたのも、読んでいただいた読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
 もしかしたら、後ほど番外編を追加するかもしれませんが、一旦完結とさせていただきます。少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。

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