悪役令嬢として役を頂いたからには、最後まで演じきりたいです!

椎名さえら

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オリヴィア・エヴァンス嬢の場合

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えーと…どうして私はこんなところにいるんでしょうかね!?


半刻後、私はサットン侯爵邸にいた。
あのあと、私が連れていたメイドに彼が家に帰るように言いつけ、自分が送るから大丈夫だとエヴァンス侯爵に伝えてくれと言いながらも彼の馬車に押し込まれる。いやいや先触れなしに訪れていいわけ!?とか、これじゃあ両親が完全に勘違いするじゃん!!とかぐるっぐる頭の中を色んな思いがよぎったが、彼があまりにも沈鬱な表情をしているので、声に出すのは控えておきました…。うん、イケメンはどんな表情してもイケメンだね…。

それで連れてこられた彼の生家、サットン侯爵邸のあまりの豪華さに私は開いた口が塞がらなかった。かなり躊躇して、重くなる足取りに気付いた彼が否応なしに家の中に連れてきて、応接間で待ってろ!と押し込まれたので、えーとソファーに座っているのが今の状況です。

(思いっきり流されてない!?私ってば…)

ほどほど令嬢すぎて、現世での経験が足りないのが足を引っ張ってる、絶対にー。貴族令嬢はどうやってこういう誘いをかわしてるんだろう?前世での私はそれなりに恋愛経験がございまして…死んだのは確か39歳の時、交通事故でした。涙なくては語れない事故でした。

まぁ何が言いたいかというと、思いっきり流されてるけど、多分本当の貴族令嬢に比べると貞操観念が緩いってこと。まぁあれだけイケメンの貴公子が好きって感情をだだ漏れにしてくれると、こっちも気になるっていうか…私ってば最高にちょろい!ちょろいのは分かってる!言わないでくれ!私みたいに自己肯定感が低い女は、好きだ好きだって言ってくれる男に心が傾きがちなんだ!しかも話が合ってイケメンでどうして断る必要があるのだ!ちょ、ちょろいのは分かってる、言わないでくれ!(2回目)

いや、なんだかんだ理屈を並べているけど、正直に言えば…彼に惹かれている自分がいるってことを認めないといけないってことですね。


自分でも頭がこんがらがってきたので、先ほどこの屋敷のメイドが出してくれた紅茶をぐびっと飲んだ。さすがお金持ち侯爵家…美味しい紅茶でございます。

そうこうしている間に、がちゃっとドアが開いて、私をこの悩みの渦に招待してくれた美貌の貴公子が登場した。

「待たせて申し訳なかった。これを見てくれないか」

目の前に歩いてきた彼に示されたのはーーーー見たことのある、白っぽい色の、刺繍入りの、リボン。しかも私はこのリボンの色がもともとは薄ピンクだったことを知っている。

「こ、これは…」

ぱっと彼を見上げると、彼がうん、と頷いた。

「これは10年以上前に、ある少女がつけていたリボンで、俺はこの持ち主をずっと探していたんだ」



あの日は、両親がある公爵家のお茶会に家族で招待されて、私もミアも行くことになった。とても広い公爵邸の庭園で貴族の子供たちがたくさん集まって遊んでいたので、これは珍しいと私たちもそこに行ってみると、小さな男の子ー名前も顔も覚えていないーが身体の大きな男の子に突き飛ばされて泣いていたのだった。私はこの頃はまだ前世の記憶は取り戻していなくて、それこそほどほど令嬢のオリヴィア・エヴァンスなわけなのだが、その小さな男の子が可哀想になり、手をひっぱって屋敷まで連れて行ったのである。それから庭園に戻ると、大きな男の子が私の前に立ち塞がって、お前余計なことを言ってないだろうなぁ?と凄んできた。今から思うと、その公爵家のゆかりのある家の子息だったのかもしれない。

『何も言ってないわよ、でも弱いものいじめはよくないわ』

私はその男の子の態度に腹が立って、はっきりとそう言った。するとその男の子はさすがに女の子には手を出さなかったのだが、代わりに私のリボンをするっとといて、そのまま走って逃げてしまったのである。私は呆れてものもいえずに、リボンをそのままにして、心配そうにハラハラしていたミアに笑顔を向けて、女の子たちの集まりへと歩いていった。

(でもあの男の子は絶対に、サットン様ではなかったわ)

さすがにあまり記憶はないものの、彼とは顔立ちが違いすぎた。

「俺もあの場にいたんだ。最初にあいつがジュリアンに手を出した時に、止めたら良かったんだが、あいつと関わり合いになりたくて怯んだ。そしたら君がやってきて、颯爽とジュリアンを助けた上に、あいつが君を脅すようなことを言っても一歩もひかなかったのをみて、ただただ驚嘆したんだ」

どうやら彼はあの小さな男の子とは顔見知りだったようだ。そして、あの大きな男の子がリボンをくしゃくしゃに丸めて捨てたのを、彼がそっと拾って、そのまま持っていた、ということらしい。

「君の名前を知りたかったんだが、誰に聞いても知らなくて…それからずっと…その探していたんだ」

(ええええ!?)

今やレオナルドは頬を染めて、リボンを握りしめている。

「大人になってから色んな集まりや夜会に出向いてずっとあの少女を探していたんだが、なかなか見つけられず、もう無理かもしれないと諦めた時に…君に出会ったんだ。すぐにあの時の少女だと分かったよ」

私がぽかんとして彼を見ると、彼の顔はますます真っ赤になっていった。

「そう…だったの?」

思わず敬語がするりと落ちてしまったが彼は気にしなかったようだ。

「ああ、やっと君を見つけたんだから、逃げられると困る」

呆然として彼を見上げているうちに、不思議な気持ちになって、彼に言い聞かせるように言葉を紡いだ。

「サットン様、思い出は美化されるものです。貴方はきっとその時の私に恋されたかもしれませんが、本当に私を知ったらきっと幻滅なさいます」

しかし彼はきっぱりと首を横に振った。

「いや、それは違うぞ、オリヴィア・エヴァンス。俺は再会した瞬間から君をずっと見ているが、一切飽きることがない。君の外見の美しさについては前に言ったから今は省くが、生き生きとした表情で毎日を楽しんでいる。夜会で会う度に胸がときめいたもんだ。俺は今の君に恋をした」

(ちょ、ちょっと待って…)

信じられないことが私の身に起こっている…

レオナルド・サットン侯爵子息が話していている内容の方がよっぽど、物語より物語みたいで、彼がそうやって恋心を伝えているのが…《悪役令嬢その2》に過ぎない私って一体これどういうこと!?

私はそっと彼に手を伸ばして、リボンを渡してくれるように示した。すると彼は一瞬渡したくないというようにリボンをぎゅっと握ったが、やがて諦めたように私にそのリボンを渡してくれる。

懐かしい絹のリボン。私のイニシャルが刺繍されている。そうしてつるつるした絹のリボンを眺めているうちに、そのリボンの色褪せた部分が一定ではないことに気づく。

(そうか…)

彼はきっとこのリボンを本当に大切にして、きっと時折優しく撫でていたに違いない。

「ふふっ…」

思わず笑みが漏れる。

2

「サットン様、このリボンはお返しします」

このリボンはもう彼のものだ。

私がそっとそのリボンを渡すと、彼がその真意をはかるように私の顔を不安げに見つめた。

「きっといつか貴方様に飽きられるような気がしますけど、それまではどうかお側に置いてください」

「飽きるわけ、ないじゃないかっ!」

彼が破顔して、私をソファから立たせると、ぎゅっと抱きしめたのだった。
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