悪役令嬢として役を頂いたからには、最後まで演じきりたいです!

椎名さえら

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オリヴィア・エヴァンス嬢の場合

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《悪徳令嬢その2》の、全編通して一番セリフが多い今日、私は何を着るのかを朝からめちゃくちゃ頭悩ませていた。ヒロインならともかく、《悪徳令嬢》が何を着ているのかなんて、言及されている小説ってあまりない。せいぜい、《けばけばしい下品な》とか《派手な色で顔に似合わない》とかそういう感じかな。

しかもエディスならまだしも、私のドレスについては余計に何も書かれていないわけ。でも、私は個人的に、どうしても!どーーしても!!誰もみてなかったとしても、自分の見せ場なのである程度小綺麗にしたいわけです。

記録に残らなくても記憶に残りたい、ってやつ(意味違う)。

なので、正直言って昨日のレオナルドが家に訪ねて来た時よりよっぽどおしゃれなブルーのドレスを着た。ほどほど令嬢の私のここぞ!ドレス。です。ブルーも色によっては野暮ったくなるのだけどこのブルーは、私の髪色と眼の色を引き立たせてくれることを自分でもわかっているし、合わせて綺麗にお化粧もした。うん、いい!自己満足だけど、めちゃくちゃいいー!


「あら、お姉様今日デートなの?」

部屋でひとりで女優気分を高めていたら、ミアがやってきて、ご機嫌に尋ねてきた。頭にレで始まる人を思い浮かべているのかもしれないけど、違いまーす!

「ううん、今日は違う用事で公園に行くの。ほらあの王都中心にある、噴水が目印の」

「そうなんですか」

ミアは明らかに、がっかり、という顔をしたが、気を取り直したかのように楽しんできてくださいね~と送り出してくれた。あー私の妹、めちゃくちゃ良い子!大好き!私が男だったら絶対に嫁にす(以下略)!



(よし、ターゲット捕獲!!)

木々の隙間から噴水の辺りをのぞいていたら、ヒーローとヒロインが腕を組んで歩いてきた。おおお!数日前より断然に愛が深まっているように見受けられます!いいぞいいぞ!物語通りじゃない!

私は出来る限り、《悪役令嬢その2》らしい、ツンとすました顔をしながら2人に近づいていった。ヒーローがまず私に気づいて、ヒロインを庇うように前に立つ。うん、君ほんといい男。ヒーローらしい振る舞い、100点満点!

「何か用か?」

「用事なんてありませんわ、そうやって見せびらかすようにお二人でこんな公の場を歩かれるなんて…エディス様が気落ちされているのをご存知ではないのですか?」

ヒーローはその精悍な顔をぐっと顰めたが、ヒロインが気丈にも顔をあげて私に言った。

「もちろん知っていますわ、でも…」

(あー可愛い、ほんと可愛い、私が男だったら絶対に嫁にす(自主規制))

私は嫌味ったらしい笑みを浮かべてヒロインを見た。

「まあでも…あれだけ一生懸命な姿を見させられたら、少しは貴女のことを認めて差し上げてもよろしくてよ?ーーせいぜいお二人で末長く仲良くされたらいいわ」

ヒーローとヒロインがぽかんと私を見つめる。うおーー!これこれ!小説の通り!やがてヒロインが顔をうす紅色に染めて微笑む。

(ぎゃー!可愛い!可愛いすぎる!)

「ありがとうございます、オリヴィア様」

「あら、私にお礼をいうのは間違っていらっしゃるわよ?ーーーではごきげんよう」



や り き っ た…!


2人が完全に見えない木陰にまで歩いていき、満足感に震える。いい仕事をした…!《悪役令嬢その2》のハイライトである。私は震える両手で自分の顔を覆った。

その時、私の肩をぐっと掴む人がいた。


「ーーー君はもしかして、まだ彼が好きなのか?」


なんでここにいる!?

蒼白な顔をしたレオナルドがそこに立っていた。



「サ、サ、サットン様、どうして此処へ?」

「俺か?俺は彼に誘われて散歩しに来たんだが。そもそも今日は君に訪問を断られた日ではないか」

彼はそういうと、木立の向こう側で楽しそうにヒロインと語らっているヒーローを指し示した。

(そうでしたそうでした…最初今日うちに来たいって仰ってましたよね…断ったけど!だから暇だったのね!?)

そして確かに彼は物語でもヒーローの親友ポジジョンであった。とはいえ今日のシーンに彼がいたかどうかまでは書き込まれていなかったので、物語の主軸には関係のないパートであることは間違いない。大丈夫だよね?この人が今私と此処で話してても!?物語には関係ないよね!?そうだ!そうに違いない!そう思うしかない!

レオナルドは、真っ青の顔のまま、私のドレス姿を見下ろした。

「そんな可愛い格好をして…!どうして彼にそんな綺麗な君を見せたかったんだ」

「え?あ、いや、これは…」

さすがに百戦錬磨(と勝手に認定)のモテ男は目敏い。このドレスが正直昨日の彼の訪問を受けたものより数倍気合が入っていることは簡単にお見通しらしい。

「誤解です、私はお二人にお幸せに、とお伝えしただけです」

「でも、今、泣いていたじゃないか…!」

私が自分の一世一代の演技を無事終えて快哉に震えていた姿は、はたから見たら、悲しみのあまり泣いていたように思えるということに気づいて愕然とした。

「泣いてないです」

ここで《悪役令嬢その2》がヒーローに未練があるような筋立てになっては敵わないと私は否定するのに必死である。

「本当に?」

彼は疑わしげにその美貌を歪めながらも、心配そうに私を見た。
彼の顔をしげしげと見ていたら、唐突に気づいてしまう。

(この人…本当に私のことを…好き!?)

「あの…サットン様?」

「なんだ」

「どうしてその、私、なんでしょう?こんな地味な女ですのに」

彼は君は分からずやだな、と言わんばかりにしかめ面をしてみせた。

「だから君は決して地味じゃないと言っているだろうに…!話してやるからついてこい」

「え!?」

有無を言わさないようにがっしりと腕を掴まれて私は彼にどこぞに連行される。
頭で必死に今日の物語のシーンを総さらいをして、とりあえず私の出番は終わったのだから退場しても大丈夫なはず、と自分を納得させた。

(もうちょっとだけ、《悪役令嬢その2》の名シーンの余韻に浸りたかったよ~~)
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