小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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豪宴客船編

幕間・クロランの朝

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 クロランが目を開けた場所は、コンクリートで固められた薄暗い部屋だった。触れるところ全てが冷たく、中でも一番冷たく感じるのは、部屋と廊下を区切る鉄格子だった。
 その鉄格子から最も離れた部屋の隅で、クロランは自身を抱えるようにして震えていた。
 部屋の冷たさに震えているのではない。身の内から湧き出てくる恐怖に震えていた。
 クロランの周りからは何の音も聞こえない。最初は幾人もの『声』が聞こえていた。それが一人、また一人と連れて行かれ、最後に残ったのがクロランだった。
 もう『声』が聞こえない。それがクロランを指一本動かせないほどに震え上がらせていた。
 次に連れて行かれるのが自分であること。連れて行かれた先でどんなことをされてしまうのか分からないこと。連れて行かれた『みんな』がどうなってしまったのか分からないこと。考えれば考えるほど、クロランの心は恐怖を湧き出し続けた。
 そして、ついに鉄格子が開かれる。涙で歪んだ醜い影が、クロランに向かって手を伸ばしてきた。

「っ!」
 恐怖が頂点に達しようとした時、クロランは目を覚ました。
 混乱して辺りを見回すが、そこは結城ゆうきの部屋だった。
 気分が落ち着いてくると、ようやく夢を見ていたことに気が付いた。
 クロランは大きく息を吐くと、隣で寝ている結城と媛寿えんじゅを見た。朝陽が差し込む時間帯とはいえ、まだ二人とも眠りの中だった。
 二人の寝顔を見て安心する一方で、クロランは二人と自由に話せないことをもどかしく思った。本当ならもっと話したいことがあるのに、心の中のせきのようなものが邪魔してしまっている。
 最近のクロランにとって、追われていること以上に、結城や媛寿と話せないというデメリットの方が、心の重大な部分を占めていた。
 今度は残念な気分で息を吐いたクロランは、ふとベッドの下の方に盛り上がった部分を見つけた。大き過ぎはしないが、明らかにこんもりと盛り上がっているのが分かる。
 盛り上がりの正体が気になったクロランは、手で軽く押してみるも、沈んだと思ったら手を離せばまた元に戻った。
 起き上がりこぶしのようなそれがますます気になったクロランは、押し付けては離し、押し付けては離しを繰り返した。
 いくら押さえつけても一向に凹む気配がないので、いよいよクロランは両手で思い切り押さえてみることにした。
 狙いを定めて両手を構える。全体重を掌に載せるつもりで、盛り上がりに向かって両手を押し込んだ。
「ぎょええええ!」
 朝の古屋敷ふるやしきに結城の絶叫が響き渡った。

「M☆1↑WV?(おい結城、朝の叫び声は何だったんだ?)」
 朝一のココナッツミルクを飲みながら、マスクマンが結城に聞いた。
「ああ、いや、イノシシに正面から体当たりされるっていう変な夢を見ちゃって。それが妙にリアルで。特に股間に直撃した時の衝撃が」
「? くろらん、どうしたの?」
 結城とマスクマンが話している一方で、クロランは顔を真っ赤にしながら俯いていた。
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