小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

文字の大きさ
203 / 459
豪宴客船編

それぞれの夜その2

しおりを挟む
「ふは~」
 ベッドで大の字になった多珂倉稔丸たかくらねんまるは、大きく息を吐いて脱力した。
 ちょうど激しい運動の後で喉が渇いたので、ベッド脇に置いたミネラルウォーターを取ろうとするが、キングサイズのベッドでは腕を一杯に伸ばしても届きづらい。
「これでいいのカ?」
「おっ、ありがとシトローネ」
 稔丸より先にボトルを取ったのは、背中に流した金髪と尖った耳が印象的なエルフ、シトローネだった。そのまま稔丸の手にボトルを渡すと、シトローネは再びベッドにうつ伏せになった。
「あ~、ところでさぁ……」
 ミネラルウォーターを半分ほど飲むと、稔丸は両脇で寝ている二人・・に対して話を切り出した。
「別にこーゆーことのために君らの身柄を引き取ったわけじゃないからさ、無理してくれなくってもいいんじゃないかな~って思うんだよね……」
 稔丸は話しながら、白い背中を見せて仰向けになっているシトローネをちらりと見た。するとその視線に気付いたのか、シトローネも稔丸を顔を見返してきた。
「何か物足りなかったカ? 次は猫の耳でも着けるカ?」
「いや、そうじゃなくってね。ってかどこからそんなこと仕入れてくるの?」
「気にするナ、稔丸。私たちが好きでやっているだけダ。お前が私たちを買っていなかったら、もっと酷い目に遭っていたからナ」
「だからってボクんとこにいなきゃいけないわけでも。普通に故郷くにに帰ってもいいのに」
「お前が存命のうちは共にいて力になると決めタ。他の奴も同じ気持ちダ」
 シトローネは寝ながら左手を伸ばすと、稔丸の腕に指を軽く這わせた。
「それに『スエゼンクワヌハオトコノハジ』と日本では言うのだロ?」
「本当にどこからそーゆーの聞いてくるんだか……」
 稔丸は半ば呆れながら言った。
 裏のマーケットで競売にかけられている異種族を見つけては、多珂倉家の財力で以って競り落とすのが稔丸の習慣だった。初めはちょっとした憐れみからの行動だったのだが、いつからか稔丸は気になった異種族が競売にかけられているとすぐさま競りに参加するようになった。そして他の追随を許さない金額を積み、誰よりも早くハンマーを叩かせた。
 何も稔丸は異種族をコレクションするのが趣味なわけでも、相当な好色家なわけでもない。ただ、人間として同じ人間が異種族に非道な行いをしている様が気に入らなかったので、稔丸独自のやり方で冷やかしてやっただけのことだった。
 もちろん、身柄を引き取った異種族には、元いた場所に戻れるように手配もしていた。だが、中には戻ることなく稔丸の元に留まる者も少なくなかった。
 理由は様々ではあるものの、稔丸への礼があるというのは共通していた。
(嬉しくないわけじゃないけど、けっこう体力持ってかれるからキツい時あるんだよな~)
 稔丸は両脇に寝ている二人・・に目を遣りながら、少々複雑な思いを抱えていた。
 一息ついた稔丸が立ち上がろうとすると、部屋のドアがノックされた。
「入っていいよ」
「稔丸さん、頼まれていた栄養剤を持ってきました。それから稔丸さん宛てにお手紙が―――きゃあああ! ナニしてるんですか!」
「あたっ!」
 入室してきた小柄な少女は、持っていた薬瓶を稔丸に投げつけた。こめかみに見事にヒットした薬瓶は上に跳ね、やがて稔丸の手に収まった。
「そ、そういうことしてたなら先に言ってください!」
「あたた、ごめん雪花せっか。つい忘れてた」
 真っ赤になって顔を背けたのは、コロポックルの雪花だった。外見はどう見ても子どもにしか見えないが、すでに二十歳は過ぎている。
「しかも三人でなんて!  稔丸さん不潔です!」
「なら雪花もそろそろ稔丸の相手をしたらどうダ?」
「え!? そ、それは、まだ心の準備が……」
 シトローネに言われた雪花は、今度は別の意味で顔を赤くして言葉を詰まらせた。
「いやいやシトローネ。雪花に手を出しちゃったらボクの趣味疑われるって前にも―――ぱほっ!」
 シトローネに反論していた稔丸の顔に、雪花のスリッパが高速で叩きつけられた。
「稔丸さんの大ボケ! 女たらし! ○○枯れて×××腐っちゃえ!」
「ご、ごめんごめんって。ほんの冗談だって。それで雪花、ボク宛の手紙って?」
 怒りで真っ赤になってむくれたまま、雪花は封筒を稔丸に手渡した。
 封筒の裏面を見た稔丸は目を鋭く細め、急ぐように中身を検めた。
 入っていたのは一枚の便箋と、数枚のチケット。その両方に目を通した稔丸は、右隣で寝ているもう一人に語りかけた。
「どうやら君のお仲間が『出品』されるようだよ、グリム」
 稔丸がグリムと呼んだのは、癖の強い黒髪を持つ長身の美女だった。シトローネと同じくベッドに寝ていたグリムは、稔丸の言葉に耳をそばだてた。頭部に生えた獣の耳を。

捕獲者キャプチャーが倒されただと?」
 探索者シーカーからの通信を受けた男は、意外な報告に怪訝な顔をした。高レベルの捕獲者でなかったとはいえ、三体を送り込んで全滅するとは思っていなかったからだ。
「回収? いや、放っておけ。あの三人に重要な情報は持たせていない。定着も一過性インスタントだ。失って惜しいものでもない。それよりも倒されるまでの経緯をまとめて報告してくれ。では」
 男は通信を切り、椅子の背もたれに深く腰掛けて宙を仰いだ。
(投与したのは百々目鬼どどめき餓鬼がき、京都で発掘した中型鬼、だったか。完全定着しなかった失敗作とはいえ、三鬼も送り込んで退けられたというのか)
 男は受けた報告から、彼我の武力差を想定し、このまま『F‐06』の回収を続行するべきか考えた。『出品』の期限を思えば、すぐにでも回収したいところではあるが、『F‐06』を匿っている者は三鬼をあっさりと撃退する戦力を有している。逐次投入では損害を増やすばかりで、まとまった兵を揃えるにも、対抗できる手練を呼び寄せるにも時間がかかる。
(『F‐06』は惜しい商品ではあるが、いま焦るのは得策ではないな。次の機会に持ち越せるように進言するか)
 男は頭の中で今後の方針をまとめると、先程とは別の人物に通信を繋いだ。
「おそれいります。例の件でご相談させていただきたいのですが……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について

青の雀
恋愛
ある冬の寒い日、公爵邸の門前に一人の女の子が捨てられていました。その女の子はなぜか黄金のおくるみに包まれていたのです。 公爵夫妻に娘がいなかったこともあり、本当の娘として大切に育てられてきました。年頃になり聖女認定されたので、王太子殿下の婚約者として内定されました。 ライバル公爵令嬢から、孤児だと暴かれたおかげで婚約破棄されてしまいます。 怒った女神は、養母のいる領地以外をすべて氷の国に変えてしまいます。 慌てた王国は、女神の怒りを収めようとあれやこれや手を尽くしますが、すべて裏目に出て滅びの道まっしぐらとなります。 というお話にする予定です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...