小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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一日の終わりに(その2)

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 風呂場での一悶着からようやく解放された結城は、台所のテーブルに上半身をベッタリと預けて脱力していた。
「僕はいつか大事なものを奪われてしまう気がする・・・」
 浴室内を女傑たちから必死に逃げ回り、出てきた時には茹でダコのような有様になっていた。未だに湯気がホカホカと昇っている。
「D$4L☆2CJ(訳:まぁ、飲めよ)」
 結城の前に置かれたコップに、マスクマンはココナッツミルクを注いだ。
「あ、ありがとう―――――ぷはぁ」
 ココナッツミルクを飲み干すと、思わず安堵の溜め息が出た。疲れを取るはずの入浴はとんでもない目に遭いかけたが、その一杯で忘れられそうな気がした。
 テーブルの向かいに座るマスクマンもまた、自分のコップにココナッツミルクを注ぎなおし、ゴクゴクと飲んでいる。相変わらず縦長の仮面の下方に付いている口で飲んでいるので、いったいどんな飲み方をしているのか甚だ疑問ではあるが。
 近場で開かれていたバザーの骨董コーナーで彼を見つけたことを、結城は思い出していた。どれでも500円のワンコインだと言われたので、一番目を引いたどこかの民族の仮面を購入した。自宅に持ち帰り、どこに飾ろうかと考えていると、いきなり仮面から影のように真っ黒な体が形成され、仮面を被った大男の姿になった。言葉はまったく分からなかったが、不思議と意思疎通はできた。アテナの鑑定ではどこかの精霊の一種で、邪悪な存在ではないとの評価だったので、彼もまた結城たちと生活するようになった。いまでは結城の相談に乗ってくれる良き友人のような間柄である。
「これ、食べて」
 ココナッツミルクで落ち着いてきた結城の前に、シロガネはカットフルーツの盛り合わせを差し出した。
「やり過ぎた。反省してる」
 やはり無表情ではあるが、少し俯き気味なので、気を落としているような意思は伝わってくる。表情こそ硬いが、シロガネは感情豊かなタイプだった。
 結城がマフオク(マフーオークション)で見つけた古い短剣。アンティーク扱いになっていたので、凶器に分類されていなかったその商品に、なぜか琴線に触れるものを感じ、彼は購入を即決した。届いたのは短剣が収まっているであろう小さめのダンボール箱だったが、まさかその中から人間の手が伸びてくるとは予想していなかった。ある意味ホラーな演出の後、箱から出てきたのは真っ白なエプロンドレスを身に付けた少女だった。
 いきなりご主人様認定されて困惑したものの、彼女の家事能力は非常に高く、料理、洗濯、掃除、さらには山菜の採取から獣肉の処置までこなした。おまけに鋭い洞察力まである。
 シロガネの優秀さに、結城は生活面で大いに助けられていた。
「大丈夫だよ、シロガネ。フルーツありがとう。いただきま―」
 結城はフルーツに手を伸ばそうとしたが、横でシロガネが皮を剥いたバナナにピンク色のゴム製品を被せているのが目に留まり、思わず振り返った。
「なにしてるの、シロガネ」
「私もバナナ、食べる」
「バナナに何を被せたの?」
「明るい家族計画」
「な、なんで?」
「この食べ方がおいしいと、書いてあった」
 シロガネはポケットから『けだものメイドのバナナ狩り千人』を取り出して、結城にズイと見せ付けた。またもヨーロッパ書院ガールズ文庫である。
「こうして食べていると、別のバナナも見つかる。書いてあった」
 妙に卑猥なゴム製品を被せられたバナナを持ちながら、シロガネは結城ににじり寄ってくる。基本的に優秀な彼女ではあるが、なぜかこういう方面でアグレッシブなアクションを起こすことが度々ある。
 その標的は常に結城なので、彼はその都度こう思っていた。
 や、ヤられる。
「君やっぱり全然反省してないでしょ。マスクマン、助け―」
 テーブルの向かいにいるはずのマスクマンに助けを求めようとしたが、直感が働いた彼はとっくにいなくなっていた。自分のコップとココナッツミルクも持って消えている。
「結城、バナナ出た?」
「え・・・いや・・・その」
 目前まで寄ってきたシロガネの爛々と輝く眼力に気圧され、しどろもどろになる結城。
「出ないなら、バナナ狩る」
 シロガネは手を高く掲げ、結城のズボン(の一部)に狙いを定めた。これも小説内にあった演出か。
「へ? ちょっ! ちょっと待っ―オォワアアァ!」
 古屋敷の台所から、盛大な叫び声が闇夜に響き渡った。

 一方その頃、マスクマンは居間で録画した番組を見ていた媛寿とアテナに混ざり、一緒に『メガネ探偵ドイル君』を視聴していた。
 今週は解決編で犯人が明かされるため、二人とも盛り上がり、台所から叫び声が挙がったことには露ほども気付いていなかった。
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