小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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操屍術

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 遺体を探すという依頼を受けてから、二日目の朝になった。屋敷で朝食を摂った結城たちは神妙な面持ちで居間に集まっている。
「昨日は狭丘市を歩き回ってけっこう情報が得られた・・・」
 結城は昨夜、シロガネに大切なフルーツをもぎ取られそうになり、微妙な鈍痛を抱えていたが、そのあたりは顔に出すことなく話を切り出した。
「できれば今日中には遺体を見つけてあげたい」
 これ以上時間がかかれば、遺体の状態もどうなるか分かったものではない。そんな状態で依頼者に引き渡すより、できれば綺麗な状態でお還ししたい。結城の目には、いま強い決意が宿っていた。
「みつける!」
「そうですね」
「J㊤55(訳:ケリをつけるか)」
「今日で、終わらせる」
 結城の決意に、四人も呼応する。その心強い返事に、結城は目的が達成できる予感を覚えた。
「問題は遺体がどこまで歩いていって、今どこに留まっているのか、なんだけど・・・」
「OЭ15B#00(訳:屋外に出られたんじゃ、流石ににおいは追えなかった)」
 マスクマンの嗅覚は優れているが、人や乗り物の行き交いが激しく、霊や情念も充満している場所では、においの分別をつけるのは難しかった。ここからは遺体そのものが移動したことを加味し、行き先を確実に、ピンポイントで探り当てる方法が必要なのだ。
「一つ、思い至ったことがあります」
 頭を捻っていた結城に対し、挙手したのはアテナだった。
「アテナ様、遺体のある場所が分かったんですか?」
「いいえ、そうではなく探す方法について考えが浮かびました」
 アテナは一旦言葉を切り、結城の目を見つめ、言った。
「ユウキ、もう一度クキに会いなさい」

 急ぎのメールを発信した結城たちは、再び狭丘市を訪れ、一日目に立ち寄った喫茶店で九木が来るのを待っていた。今日は媛寿もアテナも注文はジュースとコーヒーだけに留まっている。その代わり、依頼が解決したらパフェとヒマラ屋のチーズケーキを要求されたが、それは置いておく。
「遺体の在り処が分かったって?」
 来客用ドアのカウベルを鳴らし、九木はいそいそと店内に入ってきた。心なしか不精髭が伸び、髪形も雑になっている。
「いえ、場所はまだ分かってません」
「なんだよ~それ~。こっちは昨日からてんてこ舞いだってのに~」
「でも見つかる確率はかなり高いと思います」
 結城は昨日、自分たちで探索して得た情報を九木に話した。にわかに信じ難い遺体の自立歩行という結論だったが、九木もまた霊能者であり、結城たちとの関わりも浅くないので、その話に一応の納得を見せた。
「遺体が歩いていったのに、ゾンビとかの類じゃないっか~。それって、もしかして」
「心当たりがあるんですか?」
「操屍術か何かじゃないかと思う。多分だけど」
「ソウシジュツ?」
 聞きなれない言葉に、九木を除く全員が首を傾げた。
「平たく言えばキョンシーって奴だよ。中国の妖怪映画に出てくるアレ。元々は遺体を運びやすくするために遺体に動いてもらおうって作られた術、だったかな。話聞いてると、そんな感じのじゃないか?」
「では遺体を操った犯人、術者がいるということですね、クキ」
「まぁ、ホントにそうなら、ですけどね。う~ん・・・」
 アテナの推論に応えたあと、九木は額に手を当てて唸り始めた。
「『ホントにそうなら』って、違うかもしれないんですか、九木刑事?」
「う~ん、捜査情報なんだけどな~、こっちも教えてもらったしな~」
 またも警察官としての葛藤に駆られる九木だったが、仕方ないと折れて話し始めた。
「実は昨日、公園で急に連絡が入ったんだけど、近くの暴力団の事務所が襲撃されたって」
「? 抗争か何かですか?」
「いや、違う違う。いまのヤーさんでンナことに訴えるのはよっぽどの奴だって。オレのところに連絡が来たのは、コイツが襲撃者の中にいたからだったんだよ」
 九木はスーツの胸ポケットから一枚の写真を取り出し、皆に見えるようにテーブルの真ん中に置いた。中年男性の顔写真だが、目を閉じ、皮膚は妙に青ざめ、口は半開きになっている。
「T=79D(訳:これって死んでるだろ)」
「マスクん、当たり。それ、盗まれた無縁仏。事務所を襲った連中は全員顔を隠してたんだけどさ、反撃食らった奴の覆面が破れてビルの廊下のカメラに顔が映ったんだよ。それが盗まれた遺体と同じ顔だったから、オレんとこに連絡が来たってワケ」
 長く話して喉が渇いたのか、九木は手元の冷水を少し煽り、話を続けた。
「さっきの話に戻すけど、もし操屍術だってんなら、ちょっと変なんだよ」
「変?」
「ああ。詳しく知らないけど、操屍術ってのはあくまで遺体を歩かせるだけってモンらしいんだ。死んでる体だから、複雑な命令はできない。そこはゾンビも同じなんだが、襲撃した連中はけっこういい動きしてたらしいし、オレもカメラの映像見せてもらった。操屍術ならあんなキビキビした動きじゃないと思うんだが・・・」
 九木は難しい顔をして黙ってしまった。
 犯人がその操屍術を使ったというなら、遺体が歩いたことの説明はつく。しかし、九木の見立てでは違うかもしれないと言っている。では、どうやって遺体を操っているのか。
「あっ、そうだ!」
 結城もつられて考えて込んでいたが、九木が唐突に声を挙げたので、推理を中断した。
「小林くん、遺体の在り処が分かるって言ってたけど、アレってどういう意味?」
「あっ、忘れていました。そのために九木刑事を呼んだんだった」
 今度は結城が上着のポケットから二つの紙面を取り出し、テーブルに置いた。
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