慈愛と復讐の間

レクフル

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その実力

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 ウルスラと会えなくなってからの年月、ルーファスは自分に出来る限りの事を実行していた。

 手の震えが無くなってからは意思の疎通が可能となり、自分の考えを書き出して知らせる事が出来るようになった。

 王都や他の街、村、そして各国の情勢を把握し、問題点を書き連ねていく。それをフェルディナンが精査する。ルーファスの指摘で初めて知る事も多く、そしてその対応策も目を見張るものがあった。

 そんな事があってから、フェルディナンはルーファスに試験的に一つの寂れた街を任せてみたが、その街は目まぐるしく変化していった。

 ルーファスがまずしたのは、その街の主たる収入源であった農作物の調査だった。それがこの街の気候に合っているか、畑の広さと生産量を比較し、適性度を調べた。それによりこの土地に適切な農作物を割り出し、栽培方法も詳しく調べて指導した。

 そうした事で豊富に作物が収穫でき、そしてその農作物を使って名物料理を作らせた。それが評判となり、街には多くの観光客がやって来るようになった。観光客が来ると便乗するように宿屋や土産屋、食堂と飲み屋も増える。
 それに付随するように観光客を楽しませる為の観劇ができる舞台を作り、劇団を呼び寄せる。その周りに露店も出店しはじめ、日に日に街は活気づいてきた。
 そうして寂れていた街を蘇らせたのだ。

 ルーファスは何処に何を作ればいいのかを見極めるのに長けていた。
 
 次にフェルディナンは犯罪の多い街の復興に着手させてみた。

 犯罪が多発する理由の多くは、一番に貧困さが浮き彫りになる。なので、まずは仕事を与える事にした。その仕事とは、汚れた街並みを清掃し綺麗にする事だ。
 犯罪の多い場所には共通しているのだが、街中が汚れている事が多い。ゴミは散乱し、建物は朽ちている物が殆どだ。
 そして娼婦も此処彼処にいる。借金の返済や貧困等で仕方なく娼婦に身を落とすのだが、その売上金の殆どを元締め搾取している事が多く、抜け出したくても抜け出せない状態に陥らせている。
 それには国が介入する事にした。

 風営法を設置し、給与を決め、無理に体を売ることなく仕事が出来るようにしたのだ。
 元締めは殆どが裏組織の者だが、それを徹底的に調査し計画的に外堀を埋め、そして捕らえていった。
 ルーファスはそこに最も力を入れたのだ。

 犯罪が少なくなり、治安が良くなってきてからは、人々に仕事を斡旋する為に冒険者ギルドを設置した。
 依頼は薬草採取や護衛、熊等の獣討伐等から、街の清掃や建設の手伝い等もあった。

 そうして少しずつ街は蘇ってゆく。

 その功績をフェルディナンは嬉しく思っていた。

 他国との交渉術も必要な事だが、自国を豊かにしていく事も大切な事であり、表立って動くことは出来ずとも、ルーファスはその本領を発揮できたのだ。

 それからはルーファスの負担になりすぎない程度に、フェルディナンは公務をさせていった。それにはルーファスも快く引き受けた。
 自分一人では出来ない事も多いことから、人を頼る術も身に付けていく。そうして人の動かし方を知っていったのだ。

 日々ルーファスは忙しく働き、そしてリハビリを欠かさない。まだ辿々しいが、少しずつ話す事も出来ている。そのリハビリにはオリビアが率先して付き合っている。


「ルーファス殿下、最近はいつもお忙しそうですね。あまり無理をなさらないでくださいね」

「だい、じょ……ぶ」

「いつもそう仰います。ですが、ルーファス殿下は凄いです。本当に見えてらっしゃらないのかと思う程に、王城の中ではもう私の手が無くとも自由に何処へでも行けますね」

「オリビァには……せわ、に…な、てる」

「そんな事は……少しでもお役に立てられているのが嬉しいのでございます。今もこうして、お話相手とならさせて頂ける事が嬉しく思うのです」

「なら、よか、た」

「でも、ルーファス様がこうやって意欲的になられたのは、やっぱりウルスラさんのお陰ですよね」

「そ……だな」

「今はどちらにいらっしゃるんでしょうか……」

「あの、小屋に、は……い、行け、なか、た」

「そうですね……ルーファス殿下の指示通り、その小屋に繋がる森へ使者が行っても、その場所には誰も行けなかったんですよね……」

「あぁ……ウルス、ルァは……無事、だろぅ、か」

「きっと……きっと無事でいらっしゃいます!」

「そぅ……信じ、てる……」


 ルーファスは窓際に置いた薬草の花を見る。殆ど見えてはいない。だが、ぼんやりと花だけが白く淡く浮き上がるように見える。

 そうして花を見続けていると、少し他の物も暗い影が明るくなったように感じる。ルーファスにとってはこれもリハビリなのだ。

 失意のどん底にいた自分をこうやって救い上げてくれたウルスラの存在は、ルーファスにとっては今もなお大きくて、その想いはあの頃から何ら変わること等ない。
 いや、それどころか、日を追うごとにウルスラへの想いは募っていく。

 今も元気でいるのだろうか。

 寂しくはないのだろうか。

 食事は摂れているのか。

 悲しい事は起こっていないのか。

 苦しい思いをしていないだろうか。

 考えれば考えるほど、胸は苦しくなってくる。そしてどうにも出来ない自分に苛立ちを覚える。
 それを払拭する為に、ルーファスは自分が今出来うる事を積極的にするようにしている。そうしないとウルスラに会った時に顔向け出来ないような気がするのだ。
 そればかりか、少しでも努力を惜しむとウルスラに会えなくなってしまうのではないのかと、そんなふうに考えてしまうのだ。

 今も鮮明に記憶に残る、赤い髪と赤い瞳を持つ笑顔の素敵な幼い少女。

 この国では、赤い髪を持つ者は多くはないが、然程珍しい訳でもない。10人に1人と言った割合でいるのが現状だ。

 それ故に、探しだす事は困難であった。何より、あの森の中にある小屋には誰もたどり着く事が出来なかったのだ。
 ルーファスも近くまで行ってみた事はあるが、見えないからか森の複雑な獣道に翻弄されて、どうしてもたどり着けなかったのだ。

 それでも、今もなお毎日のように夜に食事の用意は欠かせない。渡したい物は常に準備し、いつウルスラが夢に出てきても良いようにと心掛けている。

 ウルスラの事を思い浮かべている時、ルーファスの心はいつも穏やかになる。それだけで癒されていく。

 しかしフューリズの事を思い出すと、今まで凪いでいた心がざわめき立つ。
 最後に見た、あの人をバカにしたような目付きと嘲り笑う声が忘れられずにいる。

 もうすぐヴァイスとフューリズの婚礼の儀が行われる。それにはルーファスは反対をし、何とかフェルディナンに止めさせるように直訴し手紙を出したのだが、それは受け入れられなかった。

 フェルディナンはルーファスがフューリズを想っていて、だから弟のヴァイスと結婚させたくないと思っているのだと勘違いしていた。

 しかし、この国の次期国王には慈愛の女神の加護はどうしても必要だと考え、フェルディナンはルーファスを憐れに思いながらも意見を聞くことはしなかった。

 言葉で伝える事が出来ない事がこんなにもどかしいのかと、ルーファスはこんな時思うのだった。

 結婚を賛成できない意思表示として、婚礼の儀には参加しない事を表明した。それは僅かばかりの抵抗ではあったが、決して良くはならない未来を歩む弟を、ルーファスは祝福する事等出来なかったのだ。
 
 そして何より、フューリズに二度と会いたくなかったのだ。





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