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愛はなかった
しおりを挟むルーファスとは夢で会って以来会えていない。
だけどその時は目が見えなかったり話せなかったりはしていなかった。
それは夢の中だったからだろうか。そんなふうにウルスラは考えた。
だけど、自分の知らない間にルーファスにはとんでもない事が起こっていたんだと知ったウルスラは、ルーファスの力になりたいと思った。
一人で寂しかったウルスラに安らぎを与えてくれた。勉強を教えてくれた。美味しい料理を食べさせてくれた。食材や生活用品を用意してくれた。着心地の良い服と靴も贈ってくれた。
してもらってばかりで、自分は何も返せていない。
あの頃の事を思い出すと、今でも心が穏やかになって暖かくなる。辛い時や悲しい時、寂しくてどうしようもなかった時、その思い出に何度助けられた事だろう。
なのに自分は何もできていない。与えてもらってばかりで、何一つルーファスの役に立てていない。そう感じた。
「力に……なりたい……」
「ウルスラ……」
「私、ルーの力になりたい! 私にできること、したい!」
「ウルスラ……それは……ルーファス殿下と結婚すると言う事、か?」
「それがルーの力になるなら……!」
「そうか……そうなんだな。もし、ルーファス殿下とウルスラの言うルーという人物が同じであれば……話を進めて貰うようにしよう」
「ありがとうございます!」
「礼など……少しは父親として、私の方こそウルスラの力になってあげたいとそう思っているんだよ。何かして欲しい事や欲しい物はあるかい?」
「して欲しい事……ある、です! 食べ物を!」
「食べ物? やっぱりお腹が空いていたのかな。ではすぐに用意を……」
「いえ、私のはもういいです! あの、王都の西にあるスラムの人達に、食べ物を渡して欲しいです!」
「スラム? なぜそんな所に……」
「食べられなくて困ってる人、いっぱいです! それはとても悲しいです!」
「そうか……ウルスラはそんな事が気になるんだね。分かった。では陛下に進言してみよう。ウルスラの望む事であれば、陛下は力を貸してくださると思うよ」
「ありがとうございます!」
「ウルスラはそうやって人の事ばかり考えるんだね。もっと自分の事を考えても良いと、私は思うよ」
「でも……色々あったけど、私はこうして元気です。一人で生きていけるように、お母さんに育てて貰えた、です。だから大丈夫です」
「良い子だね。本当に……愛しいよ……」
ブルクハルトはそう言って、ウルスラの頭を優しく撫でた。それがなんだか、頑張ったねって誉めて貰えたように思えて、凄く嬉しい気持ちになった。
しかし、ウルスラには一つ気になっている事があった。
「あの……私の代わりだった人は、どうなったですか?」
「……フューリズの事、だね……彼女は怒りに任せてヴァイス殿下を殺害してしまったんだよ。そんな事をしなければ温情を与えられただろうに……」
「何故怒った、ですか?」
「慈愛の女神の生まれ変わりとして育てられてね。フューリズもそう信じていたのだが、それが違うと言われてしまったからね。私も悪かった。今まで娘だと思っていた子が違うと分かってしまってから、本当の娘の事が……ウルスラの事が気になってしまってね。つい感情に任せて突き放すような態度を取ってしまったんだよ」
「それは……きっと悲しかったと……思います」
「そうだな……あの時は気が動転してしまってね……それでも、ヴァイス殿下の事さえなければ捕らえられる事も無かったと思うのだ。まぁ……それでも、もう今までと同じような待遇で王城で暮らす事は出来なかっただろうけれどね」
「じゃあ……どうなるのです?」
「それは……陛下がお決めになられるよ。私ではどうにもできない」
「きっと……とても悲しくて悔しくて……泣いてると思います。誰か助けになる人、いないですか?」
「どうかな……フューリズは残忍な所があってね。言う事を聞かない人には罰を与えていたのだよ。だから誰もがフューリズの言う事を聞いていたんだが、それは心からそうしたかった訳では無かったと思うのだ。心からフューリズを慕う人は……ヴァイス殿下だったと思うよ。しかしそんな存在を自ら……」
「そんな……あの……フューリズさんの力になってあげて欲しいです」
「え? 私が?」
「はい。フューリズさんはきっと、お、お父、さ、ま……を、求めていたんだと思います。だから、味方になってあげて欲しいです」
「そう、か……そうだな。私にとって、さっきまでは娘だと思っていた存在だったからね。突き放すように言ってしまった事を謝らなければならないな。分かった。陛下に会えるように頼んでみるよ」
「ありがとうございます」
「ウルスラは……やっぱり慈愛の女神の生まれ変わりなんだね。話せば話すほど、一緒にいる時間が長くなるほどそう感じるよ」
「それは……私には分からないです……」
「いきなりだったからね。少しずつで良いんだよ。あ、お茶が冷めてしまったかな。温かいのを入れ直して貰おうか」
「いいです、これで。勿体ないです。それに、冷めても美味しいです」
そう言って微笑むウルスラは、本当の女神のように見えた。
ウルスラの望むことは何でも叶えてあげよう。ブルクハルトはそう心に決めた。
そうやってウルスラとブルクハルトが親子として歩み寄っている頃、捕らえられたフューリズの目が覚めた。
フューリズは騎士に取り押さえられから、王城の一室に監禁された状態となっていた。リシャルトの放った光の拘束は続いていて、自身の持つ力は抑制されたままで、それにより体が痺れて動けない状況だった。
腕輪が壊れたが為にウルスラから奪っていた力は無くなり力は半減した。
しかしフェルディナンからの贈り物の首飾りも壊れてしまったので押さえつける効力は無くなり、今までとは違う感覚の力がフューリズには渦巻いていた。
それを光の力で押さえつけている状態であった。
フューリズは目覚めてから、そんな自分の体の変化に戸惑っていた。今まで感じていた力とは違うような感覚が身体中に蠢いているようにゾワゾワして、なんとも落ち着かないのだ。それを無理に押さえつけられているのが酷く不快であった。
そして、自分の置かれているこの状況にも納得していなかった。
王族を殺害したのだから、通常であれば牢獄へ送られる筈なのだが、そうではなく小部屋に結界を施し、そこに監禁させている。それはフェルディナンの精一杯の温情であったのだが、フューリズがそんな事を理解できる筈もなく。
こんな狭く質素な部屋を宛がわれた事にも納得出来なかったし、閉じ込められた状態であるのも勿論納得など出来なかったのだ。
自分は被害者であり、こんな事をされる覚え等一切ない。ヴァイスは自分を騙した。心を踏みにじった。それは万死に値する事であり、ああなってしまったのは仕方のない事だ。
フューリズは当然のようにそう思っていた。
自分はなにも悪くない。悪いのは全て自分以外の者達だ。
誰からも愛されていなかった。ヴァイスからも、父親であったはずのブルクハルトからも。
悲しみと絶望、そしてそれ以上に怒りが胸に湧いてくる。
許せない。許すこと等出来る訳がない。
歯をギリリと鳴らし怒り、それでも悲しみで溢れる涙をそのままに、フューリズはまだ動かぬ体の状態で打ちひしがれたのだった。
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