慈愛と復讐の間

レクフル

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暴動

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 踞ったままの状態でいるウルスラに、オリビアは付き添っている。


「ウルスラ様、大丈夫ですか?」

「オリビア……お腹……痛い……」

「ウルスラ様っ?!」


 足元を見るとウルスラは出血していて、お腹を押さえて苦しそうにしている。

 慌てたオリビアはすぐに他の侍女や執事に医師を呼んでくるように頼み、ウルスラをベッドへ連れていった。

 
「オリビア……赤ちゃん……助けて……」

「ウルスラ様! しっかりなさってください! ウルスラ様っ!」

「お願い……この子は私と……ルーの子、なの……」

「えぇ、えぇ! 分かっております! 手を尽くします! ですから、気をしっかりお持ちください!」

「お願い……」


 それだけ言うと、ウルスラはそのまま意識を失った。
 すぐに医師が駆け付けウルスラに治療を施したが、弱った体で妊娠できた事自体が奇跡のようなものだった。

 力虚しく、ウルスラの子は流れてしまった。

 オリビアは悲しくて悲しくて、ウルスラが可哀想に思えてどうしようもなかった。

 ルーファスには恩義がある。けれど、これはあまりにも酷い。故意ではないのは分かっている。それでもこんな事態になってしまって、体も心も傷ついたウルスラの事を思うと、ルーファスの行動が許せなくなってくるのだ。

 眠るウルスラの手を両手でしっかり握り締めて、オリビアはただ涙を流していた。

 どうしてこうなってしまうのか。想い合っている二人なのに、なぜこうも上手くいかないのか。それが歯痒くて、どうにもならない気持ちになりながら、ただウルスラの身を案じていた。



 フェルディナンに呼び出され、指示を受けたルーファスは、すぐに王都へと向かった。

 何があってこうなっているのかは分からないが、騎士や兵士が雪崩れ込んでくる人々を押さえ込もうとするも、あまりの人の多さに対応出来ずにいた。

 やってきた群衆が手にしているのは剣や槍だけじゃなく、斧、ナタばかりか、クワやスキ等の農作業に使う物等を武器とし、一斉に襲いかかってくる。

 それは女性や幼い子供もそうで、騎士が斬りつけても体に痛みを感じていないのか、怯むことなく襲いかかってくるのだ。

 それには騎士でさえも及び腰になってしまい、その隙をついて攻撃され、辺りは負傷した者達で溢れていた。

 
「なんだ……これは……」

「ルーファス殿下! お気をつけください! 押し寄せる群衆はなりふり構わず、誰彼構わずに攻撃してきます! 女、子供もです!」

「彼らの要求は?!」

「何も、です! ただ目についた人を攻撃するのみです!」

「何も無いだと?!」


 普通こういう暴動は何か不満があって、それを訴える為に行動を起こすものだ。しかし、今回はそうではない。何の要求もせずに、ただ手当たり次第に暴力を振るうのだ。

 しかも手加減はしない。全力で向かってくる。それは常軌を逸していた。

 そう報告を聞いてるそばから、その騎士は斧を持った男に頭をかち割られて血を吹き出し、呆気なくその場に倒れてしまった。それは一瞬の事だった。
 何の躊躇いもなく、邪魔なモノを退けたといった感じで簡単に人に斧を振るっていく。
 それはこの男だけではなく、やって来た皆がそうだった。
 
 男は無表情で、ルーファスにも斧を振り上げてきた。それを瞬時に躱わし、剣を振るって斧を腕ごと落としてから、すぐにまた横薙ぎに剣を振るい首をも落とした。

 自国民にこうやって剣を振るう事がくるとは思いもせず、ルーファスはこの状況に困惑していた。

 押し寄せた群衆は王都の人々にも平気で攻撃していく。逃げ惑う女性や子供にも、容赦なく斬りかかっていく。それも無表情で。

 なにかがおかしい。何故こうなっている?

 次々に攻撃を仕掛けてくる者達を薙ぎ払うようにし、住人に及ぶ被害を取り除いていく。

 無表情で襲い掛かる者達を見て、見覚えがあるように感じる。この状態は……


「操られている、のか……?」


 絶え間なく襲いかかってくる者達。逃げ惑う住人に容赦なく襲い掛かり、問答無用に斬りかかっていく。
 あちらこちらで叫び声や子供の泣き声が聞こえ、血にまみれた人々が其処らじゅうにいて、建物も壊され、至る所がおびただしい血の色と化していた。

 それでもまだ群衆は絶える事なく王都へやって来て、王城へもその攻撃は広がっていく。

 ルーファスは襲い掛かる人々を斬り伏せていくが、いつまで経っても攻撃する者達は減らない。いや、減ってはいる。だがまた次から次へと新たにやって来るのだ。

 疲れながらも、攻撃の手を休める事も出来ずに剣を振るい続ける。迂闊に魔法は放てなかった。至る所に敵と守るべき住人がいるのだ。遠くで攻撃されている人を助ける為に魔法を使うのみで、広範囲に攻撃魔法を放つ事は出来なかったのだ。

 そうした混沌の中、一人何もせずに、攻撃もされずにせずに、ユラユラと歩く人物が目に入る。

 それは赤い髪と赤い瞳の少女だった。

 この阿鼻叫喚の状況下で、その少女は笑いながら辺りを嬉しそうに見ていたのだ。


「フューリズ……」


 それは自分の記憶にあったフューリズの面影そのままであった。
 しかし髪と瞳が何故か赤かった。

 なぜこんな所にフューリズがいる……?

 さっきまで部屋にいた筈だった。
 
 いや違う。部屋にいた者と、ここにいる者は全く違う人物だ。

 ではあれは誰だったのか……

 ここにいるのは間違いなくフューリズだ。

 目が見えなくなった時、最後に見たのはフューリズだった。

 その顔を忘れる筈がない。

 目の前にいるのは紛れもなくフューリズだ。

 禍々しい瘴気を放ち、異質な雰囲気を醸し出している。

 それはあの地下から感じた瘴気とそっくりだった。

 
「フューリズ……っ!」

「あら、ルーファスお兄様、お久し振りですわね」

「これはどういう事だ?!」

「聞きたいのはこちらですわ。私はお兄様から光を奪ってさしあげたのに。声も出るようになっているし、私の事が見えているようですし、どうしてそうなったのか教えて頂きたいわ」

「お前……っ! やはりお前は変わらぬのだな!その忌々しさはあの頃のままなのだな!」

「お兄様は変わられたのね。どうして髪も瞳も黒くなっているのかしら。口惜しいわ。許せないわ。本来私がそうでなければならないのに……っ!」

「お前こそなぜそんな髪色なのだ?! いや、そんな事はどうでも良い。この状況を作り出したのはお前か?! フューリズっ!」

「えぇ、そうよ。それの何がいけなくて? 私は仕返しをしているだけなのです。私に酷い仕打ちをした者達に罰を与えているだけですのよ?」

「お前はやはりそうなのだな……その残虐さは変わらぬままとはな……!」

「お兄様は変わられたわ。そんなふうに感情のままに話す等、あり得なかったのに。大人しくて寡黙で優しくて……つまらない人だった。
 でもそうね……お兄様に術をかけた時、あの時の自分にできる限りの、ありったけの術を施したのです。自分の持てる力を目一杯使って。
 そうしたらお兄様は目が見えなくなって話す事ができなくなって。本当は耳も聞こえなくしてやりたかったのですけれど、それは阻まれてしまって残念だったわ。
 それから体の痺れと、人を信じられなくなるようにもしたのです。それが殆ど無くなっちゃったのは本当に残念」 

「人を信じられなく……?」

「あら、お気づきではなかったのですね? 孤立させて差し上げたのです。感情の起伏も激しくなったでしょう? 思うように発言できるようにもして差し上げましたのよ?」

「これは……全てお前が……」

「その事は誉めて頂きたいわ? 意に添わない事があると感情が抑えられなくなったでしょう? これは私のお陰ですのよ?」

「自分のお陰等と! よくも言えたものだな!」

「まぁ、またそんなにすぐお怒りになって。女の子にそんなふうに言うものではありませんよ? ルーファス、お・に・い・さ・ま?」

「ふざける、な……っ!」

「ふふ……心に根付いたモノは簡単には抜けませんのね? アハ……アハハハハハッ!」


 そうだ。この笑い声だった。
 
 この嘲笑うような笑い声が許せなかったのだ。

 ギリリと歯を鳴らし、フューリズを睨み付ける。

 コイツをこのままにはいておけない。

 必ずこの手でその罪を償わせてやる。

 そう決心し、ルーファスは剣をフューリズに向けたのだった。
 
 

 
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