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50話 女神様の祝福を
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祝福の街、ルマ
その昔、疫病が蔓延したが元聖女により浄化されその猛威は広まる事なく沈静したのだが、それ以降ルマの街では怪我や病で苦しむ人はいなくなったという。
なぜそうなったのか理由は不明だが、聖女に守られたからだとか、女神の恩恵だとか言われており、人々はそれからこの地を『祝福の街』と呼ぶようになったのだ。
そんな説明をしつつ、メリエルは以前ジョエルから聞いた元聖女フィグネリアの事を思い出していた。
ジョエルを虐げ、シオンを育児放棄した聖女であったフィグネリアは、自分達の悪評を娘に擦り付け、持参金もほぼ渡さずに売るようにして嫁がせた毒親だ。だから元聖女の功績とは言え、母親であるフィグネリアの事を言うのは憚られたのだ。
しかし、シオンはフィグネリアの事ではなく、前世で自分がここに送り込まれた事を思い出していた。
あの時は酷かった。
寒い時期で大雪が降っていた。そんな寒空の中、所々に人が倒れていて、雪に埋もれてしまった人も多くいた。助けを求める声やうめき声があちらこちらから聞こえていた。
薬屋や治療院の前では人々が集まり、早く薬を、早く診てくれと扉を叩き、今にも暴動が起きそうな状態だった。
弱々しく訴えながらも力尽きて倒れていく人もいて、泣き声や嘆く声も至る所から聞こえていた。
それが今はどうだろう。
目に映る人々は皆が健康そうで朗らかで、ハツラツとした笑顔で活動的である。
救えていた……
あの時、魔力がほぼ無くなり、自身も疫病に侵され、倒れて力尽きる寸前に教会まで瞬間的に移動してきたから、シオンはその後どうなったのかを確認出来ずにいたのだ。
今世でも気にならなかった訳ではない。だが、あの時シオンはフィグネリアから何処に行かされるかも教えて貰えずに、強制的に転移陣で飛ばされてしまっていたのだ。それがどこの地域でどこにある街であったのかは、シオンには知る由もなかったのだ。
知らずに涙が溢れていた。
何も出来なかった前世で、たった一つ。自分がしてきた事が後世に続き、生きる人々の暮らしを守れている。
それが凄く嬉しかったのだ。
「奥様! も、申し訳ありません! 元聖女様の話をしてしまって……!」
「違うの……そうじゃないのよ、メリエル……」
「そうですか。ここがあの場所だったんですね」
全てを知っているジョエルは、辺りを見渡してからシオンを見つめた。
メリエルは訳が分からずにジョエルに説明を求める眼差しを向けるが、ジョエルは何も言おうとしなかった。理由を知りたくとも、シオンにそれを聞く事はメリエルには出来なかった。
オロオロとしているメリエルに、通りすがりの親子連れが声をかける。
「女神様の祝福を」
「え?」
「救世主様だね、お母さん!」
「ふふ、そうかもね」
「あの、どういう事ですか?」
「あら、貴方達はこの街の人ではないの?」
「えぇ。先程から何度も同じように声をかけられました。それも私にだけ。なぜなのかよく分からなくて……」
「そうなのね。それは、貴女が昔この街を救ってくれた救世主様の容姿に似ているからなのよ」
「えっと、それは元聖女のフィグネリア様の事では……」
「そうなんだけど、その方ではなくてね。ここは昔、疫病が蔓延して多くの人が亡くなってしまったの。だけどね、そんな中、一人の少女がこの街を救う為に尽力してくれたのよ」
「え?! 元聖女様ではなく、少女がですか?!」
「えぇ。おそらく元聖女様のお弟子さんではないかと言われているんだけどね。倒れて苦しくて動けなくなった人達を奇跡の力で回復させてくださったそうなの。献身的に一人一人と向き合うその少女が貴女と同じ、茶色の髪とアンバーの瞳をしていたのよ。だからね。そんな子がいたら、皆が恩を返したいとばかりに『女神様の祝福を』と言うようになったって事なの」
「そうだったんですね……」
「その後この街を含めたレサスク地区全体を元聖女様が浄化して救ってくださったのだけど、その姿をこの街では誰も見てなくてね。だからこの街だけは、ただ一人献身的に頑張ってくれた少女の事を敬うようにしているの。その少女の事を私達は『救世主様』と呼んでいるのよ」
そんな事があったのかと驚きつつ感心し、メリエルは立ち去る親子連れに軽く会釈をした。
街を救った少女に感心しつつメリエルがシオンに目をやると、さっきよりも大量の涙を流している。そしてそれを慰めるように肩を抱き、頭を撫でているジョエルもまた、なぜか涙ぐんでいた。
「お嬢様……良かったてすね。本当に良かった……」
「えぇ……本当に……っ!」
涙で言葉にならず、シオンはジョエルの肩に顔をうずめる。
二人の様子にメリエルは訳が分からずに、ただ見守るしか出来なかった。
しばらくベンチに座ってシオンが落ち着くのを待つ。その間もメリエルを見た人達は『女神様の祝福を』と言って微笑んで立ち去っていく。
その度にシオンは嬉しそうに瞳を潤わせ、言って行く人達に会釈をしていた。
さっき泣いていたのは悲しい涙ではないだろうと分かるのだが、その理由は依然として分からなかった。
ただ、シオンが言うつもりはなさそうだから無理に聞き出す事をメリエルが出来る筈もない。仲は良くても主従関係にあるのだから。
ようやく泣き止み落ち着いたシオンは、何かを感じるようにスッと目を閉じた。しばらくそうしていてゆっくりと目を開けると、ある場所を見つめながらポツリと喋り出す。
「ねぇジョエル……」
「はい、どうしましたか、お嬢様?」
「わたくしは今、魔力がほとんどないの」
「はい。ずっとそう言われてましたね」
「でもね。さっきから何だか不思議なの」
「何かおかしな事でもありましたか?」
「えぇ……」
そう言うとシオンは徐ろに立ち上がる。ジョエルもメリエルもそれにつられて立ち上がる。
シオンが見つめているのは大聖堂だった。
「あそこにわたくしの魔力を感じるの」
その昔、疫病が蔓延したが元聖女により浄化されその猛威は広まる事なく沈静したのだが、それ以降ルマの街では怪我や病で苦しむ人はいなくなったという。
なぜそうなったのか理由は不明だが、聖女に守られたからだとか、女神の恩恵だとか言われており、人々はそれからこの地を『祝福の街』と呼ぶようになったのだ。
そんな説明をしつつ、メリエルは以前ジョエルから聞いた元聖女フィグネリアの事を思い出していた。
ジョエルを虐げ、シオンを育児放棄した聖女であったフィグネリアは、自分達の悪評を娘に擦り付け、持参金もほぼ渡さずに売るようにして嫁がせた毒親だ。だから元聖女の功績とは言え、母親であるフィグネリアの事を言うのは憚られたのだ。
しかし、シオンはフィグネリアの事ではなく、前世で自分がここに送り込まれた事を思い出していた。
あの時は酷かった。
寒い時期で大雪が降っていた。そんな寒空の中、所々に人が倒れていて、雪に埋もれてしまった人も多くいた。助けを求める声やうめき声があちらこちらから聞こえていた。
薬屋や治療院の前では人々が集まり、早く薬を、早く診てくれと扉を叩き、今にも暴動が起きそうな状態だった。
弱々しく訴えながらも力尽きて倒れていく人もいて、泣き声や嘆く声も至る所から聞こえていた。
それが今はどうだろう。
目に映る人々は皆が健康そうで朗らかで、ハツラツとした笑顔で活動的である。
救えていた……
あの時、魔力がほぼ無くなり、自身も疫病に侵され、倒れて力尽きる寸前に教会まで瞬間的に移動してきたから、シオンはその後どうなったのかを確認出来ずにいたのだ。
今世でも気にならなかった訳ではない。だが、あの時シオンはフィグネリアから何処に行かされるかも教えて貰えずに、強制的に転移陣で飛ばされてしまっていたのだ。それがどこの地域でどこにある街であったのかは、シオンには知る由もなかったのだ。
知らずに涙が溢れていた。
何も出来なかった前世で、たった一つ。自分がしてきた事が後世に続き、生きる人々の暮らしを守れている。
それが凄く嬉しかったのだ。
「奥様! も、申し訳ありません! 元聖女様の話をしてしまって……!」
「違うの……そうじゃないのよ、メリエル……」
「そうですか。ここがあの場所だったんですね」
全てを知っているジョエルは、辺りを見渡してからシオンを見つめた。
メリエルは訳が分からずにジョエルに説明を求める眼差しを向けるが、ジョエルは何も言おうとしなかった。理由を知りたくとも、シオンにそれを聞く事はメリエルには出来なかった。
オロオロとしているメリエルに、通りすがりの親子連れが声をかける。
「女神様の祝福を」
「え?」
「救世主様だね、お母さん!」
「ふふ、そうかもね」
「あの、どういう事ですか?」
「あら、貴方達はこの街の人ではないの?」
「えぇ。先程から何度も同じように声をかけられました。それも私にだけ。なぜなのかよく分からなくて……」
「そうなのね。それは、貴女が昔この街を救ってくれた救世主様の容姿に似ているからなのよ」
「えっと、それは元聖女のフィグネリア様の事では……」
「そうなんだけど、その方ではなくてね。ここは昔、疫病が蔓延して多くの人が亡くなってしまったの。だけどね、そんな中、一人の少女がこの街を救う為に尽力してくれたのよ」
「え?! 元聖女様ではなく、少女がですか?!」
「えぇ。おそらく元聖女様のお弟子さんではないかと言われているんだけどね。倒れて苦しくて動けなくなった人達を奇跡の力で回復させてくださったそうなの。献身的に一人一人と向き合うその少女が貴女と同じ、茶色の髪とアンバーの瞳をしていたのよ。だからね。そんな子がいたら、皆が恩を返したいとばかりに『女神様の祝福を』と言うようになったって事なの」
「そうだったんですね……」
「その後この街を含めたレサスク地区全体を元聖女様が浄化して救ってくださったのだけど、その姿をこの街では誰も見てなくてね。だからこの街だけは、ただ一人献身的に頑張ってくれた少女の事を敬うようにしているの。その少女の事を私達は『救世主様』と呼んでいるのよ」
そんな事があったのかと驚きつつ感心し、メリエルは立ち去る親子連れに軽く会釈をした。
街を救った少女に感心しつつメリエルがシオンに目をやると、さっきよりも大量の涙を流している。そしてそれを慰めるように肩を抱き、頭を撫でているジョエルもまた、なぜか涙ぐんでいた。
「お嬢様……良かったてすね。本当に良かった……」
「えぇ……本当に……っ!」
涙で言葉にならず、シオンはジョエルの肩に顔をうずめる。
二人の様子にメリエルは訳が分からずに、ただ見守るしか出来なかった。
しばらくベンチに座ってシオンが落ち着くのを待つ。その間もメリエルを見た人達は『女神様の祝福を』と言って微笑んで立ち去っていく。
その度にシオンは嬉しそうに瞳を潤わせ、言って行く人達に会釈をしていた。
さっき泣いていたのは悲しい涙ではないだろうと分かるのだが、その理由は依然として分からなかった。
ただ、シオンが言うつもりはなさそうだから無理に聞き出す事をメリエルが出来る筈もない。仲は良くても主従関係にあるのだから。
ようやく泣き止み落ち着いたシオンは、何かを感じるようにスッと目を閉じた。しばらくそうしていてゆっくりと目を開けると、ある場所を見つめながらポツリと喋り出す。
「ねぇジョエル……」
「はい、どうしましたか、お嬢様?」
「わたくしは今、魔力がほとんどないの」
「はい。ずっとそう言われてましたね」
「でもね。さっきから何だか不思議なの」
「何かおかしな事でもありましたか?」
「えぇ……」
そう言うとシオンは徐ろに立ち上がる。ジョエルもメリエルもそれにつられて立ち上がる。
シオンが見つめているのは大聖堂だった。
「あそこにわたくしの魔力を感じるの」
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