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第14話 事故の真相
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「シャルロット様、少し」
よろしいですかとアランが問う。
「今日、馬車に細工をしたと思われる犯人が午後のお茶会に参加されます」
「まあ!」
証言はあるが証拠が集まらない為、捕えるまで至っていないとアランは言う。
本当に誰かが細工していたのか。
馬車が壊れたことなどシャルロットはすっかり忘れていた。
知らぬ所で調査が進んでいたことに驚きと感謝の気持ちが浮かぶ。
「シャルロット様を危ない目に合わせた訳ですし、お茶会は不参加でいいかと」
「うーん……たくさんの人がいる手前、今日何かあるとは考えにくいけど」
「しかし、何かあっては遅いので」
「でもアランが守ってくれるでしょう?」
「それは、そうですが……」
「ふふふ、心配してくれてるのは分かってるわ」
ーーー
結局、シャルロットはお茶会に参加していた。
アランは見つかると令嬢達が群がるために、少し離れたところで待機している。
とても不服そうだったが、群がって仕事ができないほうが困るため、同僚に諭されて渋々シャルロットのそばを離れた。
開始する直前まで、お部屋に戻りましょうと言われたが、シャルロットはいつもの調子で大丈夫よと返した。
シャルロットには考えがあった。
私になにか恨みでもあるのであれば、接触してくるだろうと。
それが証拠になればいいと思ったのだ。
囮のような考えをアランが許してくれると思えず、アランには伝えなかった。
王城の庭にいくつものテーブルが用意され、シャルロットはヴェロニカと共に同じ席に着いた。
今日のお茶会は若い令嬢を中心とした交流会と聞いている。
同年代の令嬢が何人も参加しているようで、見知った顔が、ちらほらといるが、見た事のない令嬢も半数はいるようだ。
シャルロットとヴェロニカのテーブルに二人の令嬢が近づいてきた。
「こちらの席は空いてるかしら?」
パメラとスージーと名乗った二人が席についた。
剣術大会で後ろに座っていたご令嬢達だ。
スージーと名乗った令嬢の顔色が悪い。
パメラがスージーを無理やり連れてきたようだった。
パメラは腕を組み威圧的な態度を見せる。
「馬車で事故にあったらしいじゃない?」
シャルロットを見つめながら嘲笑する。
いきなり核心をつく話題にアランの言っていた犯人は彼女なのだろうかと思案する。
「……そうなのです、でも無事に王城に帰れましたわ」
「ふん」
「馬車のことは大事にしたくなかったので公言しておりませんでしたが……どなたからお聞きになりました?」
「別に、目撃者がいたら話は広まるでしょ」
嘘だ。
馬車の事故が起きた場所は誰もいなかった。
細工された馬車を調査した部署から情報が漏れたとも考えにくい。
「そうですね」
「車輪が壊れるだなんて不幸ね?日頃の行いのせいでは?」
「……パメラ嬢。なぜ、車輪が壊れたのだと知っているのですか?」
「っ、……馬車の事故といえば車輪しかないでしょ!?」
語気が強くなる。
「もう、やめましょうパメラ令嬢」
「だまりなさい!」
「こんなところで、よくありません……!」
「なによ!あんたのことだって許してないわよ!アラン様と大会後に話せたからって!」
パメラがわなわなと震えている。
「それは今はよいではないですか……!もうきっと、隠し通せません!」
「うるさい!」
シャルロットを睨みつけていたパメラが自分の紅茶に照準を合わせたかと思うと、紅茶のカップを持った。
その瞬間にシャルロットの視界が奪われた。
強い力で何かに覆われたかと思うと、バシャッと液体がかかる音がした。
キャッ、とシャルロットではない女性の声が聞こえた。
「アラン様!」
「暴行罪で逮捕します、捕えろ!」
普段は聞かないようなアランの低く怒ったような声色にシャルロットがビクリとする。
「いやよ!ちがうの!アラン様!」
護衛がパメラを取り押さえると、スージーは別の騎士に声を掛けられ、二人ともどこかへ連れて行かれた。
嵐のような出来事に呆気に取られるシャルロット。
「お体にかかってはいませんか」
「え、ええ、私は大丈夫だけど、アランは?火傷はしていない?」
「この程度で怪我はしません」
ほっとして胸を撫で下ろす。
「着替えてきますので、部屋に戻られる際は必ず護衛をつけてください。すぐに戻ります」
「ええ……」
一連の出来事に呆然としていた。
そんなシャルロットにヴェロニカが声をかける。
「あなたも大変ね」
「……どうしたらよかったのでしょう」
「別にどうもできないでしょ」
シャルロットが黙る。
「嫉妬を拗らせただけでしょ、……私も言えた立場ではないけれど」
「ヴェロニカ様……」
「……私もあの日は、ご……」
ヴェロニカが何か言いかけると、急速に辺りに緊張が走る。
真っ先に護衛が低頭すると、気づいた侍女やメイドが慌てて頭を下げた。
令嬢達が何事かしらと不思議に思うのも束の間、凛とした滑らかな声が庭に響き渡った。
「あら、皆様ごきげんよう」
女王陛下だ。
シャルロットやヴェロニカだけでなく、令嬢達が立ち上がるとカーテシーで挨拶する。
陛下が近づいてくると、こちらに顔を向ける。
「シャルロットにヴェロニカ、あなた達には無理をさせたわね」
「とんでもございません」
「お気遣いのお言葉に感謝します」
二人が返事する。
わざわざ陛下が声をかけてくださる意図が汲みきれないが、花嫁修行のことで間違いないだろう。
「全く、ヤードルったら仕方のない子だわ……では皆様、楽にして」
それだけ言い残すと女王は颯爽とエントランスに入っていった。
ーーー
アランの話によると、捕らえた二人の令嬢の取り調べ中にスージーが馬車の細工を自白したらしい。
簡潔に言えば逆恨みだった。
アランに憧れる二人は、もう何年も追っかけをしているらしい。
騎士団の公開練習があれば毎回見に行き、話せるタイミングがあれば必ず声をかけたらしい。
ただでさえ近衛騎士は敷居が高く遠い存在だ。
そんな憧れの騎士が突然一人の令嬢の専属護衛になったことが許せなかったらしい。
しかもその令嬢は騎士に詳しくないなどとのたまい、剣術大会の成績すら知らなかった。
頭に来たパメラが、衝動的に車輪の一つずつをそれぞれの付き人に細工させた。
これが細工に差があった理由のようだ。
細工された車輪のうち一つの車輪は目立ちにくかったため、御者も気づかずに脱輪してしまった。
御者は馬車の管理不足として数ヶ月の減給処分になるらしい。
どうにかならないかと、アランに尋ねたが、シャルロットが怪我をした以上、覆ることはないようだ。
スージーはとんでもないことをしてしまったと、すぐに自首したかったがパメラに止められていたそうだ。
アラン曰く、初犯であることから罰金刑が有力らしい。
お茶会での出来事を加えても禁固刑にはならないだろうとの見立てだった。
「あなたを危ない目に合わせてしまい申し訳ありません」
「あなたは悪くないじゃない……それに彼女達にとって、あなたに知られてしまうことが、きっと一番の罰になっているわ……」
「私はあなたを守れなかったことを悔いています」
「何を言うの。しっかり守ってくれたわ、あの日は私を城に連れ帰ってくれたし、今回だって紅茶は一滴もかからなかったもの」
「ですが、あなたは怪我をしてしまった」
「押し相撲でもできるような怪我たいしたことないわ」
アランが大きなため息をつく。
「強がっていませんか?」
「ええ、本音よ?あなたは迎えにきてくれたし、私の心は何も傷ついていないの」
「あなたという人は本当に……」
「それより剣術大会のあとにスージー嬢と会話したそうだけど」
「……そうですね、覚えていません」
「え、……え?」
「たくさんの方に祝いの言葉をかけていただいたので、誰と話したかは覚えていないですね」
「……なんだか二人が不憫になってきたわ」
「それに女性の顔を覚えるのは苦手です」
「私は?すぐに覚えられたかしら」
「……職務の、一環ですので……」
「面白くない答えね」
むっと少し眉を寄せたシャルロットだったが、困った様子のアランを見て声を上げて笑ってしまった。
よろしいですかとアランが問う。
「今日、馬車に細工をしたと思われる犯人が午後のお茶会に参加されます」
「まあ!」
証言はあるが証拠が集まらない為、捕えるまで至っていないとアランは言う。
本当に誰かが細工していたのか。
馬車が壊れたことなどシャルロットはすっかり忘れていた。
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「でもアランが守ってくれるでしょう?」
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囮のような考えをアランが許してくれると思えず、アランには伝えなかった。
王城の庭にいくつものテーブルが用意され、シャルロットはヴェロニカと共に同じ席に着いた。
今日のお茶会は若い令嬢を中心とした交流会と聞いている。
同年代の令嬢が何人も参加しているようで、見知った顔が、ちらほらといるが、見た事のない令嬢も半数はいるようだ。
シャルロットとヴェロニカのテーブルに二人の令嬢が近づいてきた。
「こちらの席は空いてるかしら?」
パメラとスージーと名乗った二人が席についた。
剣術大会で後ろに座っていたご令嬢達だ。
スージーと名乗った令嬢の顔色が悪い。
パメラがスージーを無理やり連れてきたようだった。
パメラは腕を組み威圧的な態度を見せる。
「馬車で事故にあったらしいじゃない?」
シャルロットを見つめながら嘲笑する。
いきなり核心をつく話題にアランの言っていた犯人は彼女なのだろうかと思案する。
「……そうなのです、でも無事に王城に帰れましたわ」
「ふん」
「馬車のことは大事にしたくなかったので公言しておりませんでしたが……どなたからお聞きになりました?」
「別に、目撃者がいたら話は広まるでしょ」
嘘だ。
馬車の事故が起きた場所は誰もいなかった。
細工された馬車を調査した部署から情報が漏れたとも考えにくい。
「そうですね」
「車輪が壊れるだなんて不幸ね?日頃の行いのせいでは?」
「……パメラ嬢。なぜ、車輪が壊れたのだと知っているのですか?」
「っ、……馬車の事故といえば車輪しかないでしょ!?」
語気が強くなる。
「もう、やめましょうパメラ令嬢」
「だまりなさい!」
「こんなところで、よくありません……!」
「なによ!あんたのことだって許してないわよ!アラン様と大会後に話せたからって!」
パメラがわなわなと震えている。
「それは今はよいではないですか……!もうきっと、隠し通せません!」
「うるさい!」
シャルロットを睨みつけていたパメラが自分の紅茶に照準を合わせたかと思うと、紅茶のカップを持った。
その瞬間にシャルロットの視界が奪われた。
強い力で何かに覆われたかと思うと、バシャッと液体がかかる音がした。
キャッ、とシャルロットではない女性の声が聞こえた。
「アラン様!」
「暴行罪で逮捕します、捕えろ!」
普段は聞かないようなアランの低く怒ったような声色にシャルロットがビクリとする。
「いやよ!ちがうの!アラン様!」
護衛がパメラを取り押さえると、スージーは別の騎士に声を掛けられ、二人ともどこかへ連れて行かれた。
嵐のような出来事に呆気に取られるシャルロット。
「お体にかかってはいませんか」
「え、ええ、私は大丈夫だけど、アランは?火傷はしていない?」
「この程度で怪我はしません」
ほっとして胸を撫で下ろす。
「着替えてきますので、部屋に戻られる際は必ず護衛をつけてください。すぐに戻ります」
「ええ……」
一連の出来事に呆然としていた。
そんなシャルロットにヴェロニカが声をかける。
「あなたも大変ね」
「……どうしたらよかったのでしょう」
「別にどうもできないでしょ」
シャルロットが黙る。
「嫉妬を拗らせただけでしょ、……私も言えた立場ではないけれど」
「ヴェロニカ様……」
「……私もあの日は、ご……」
ヴェロニカが何か言いかけると、急速に辺りに緊張が走る。
真っ先に護衛が低頭すると、気づいた侍女やメイドが慌てて頭を下げた。
令嬢達が何事かしらと不思議に思うのも束の間、凛とした滑らかな声が庭に響き渡った。
「あら、皆様ごきげんよう」
女王陛下だ。
シャルロットやヴェロニカだけでなく、令嬢達が立ち上がるとカーテシーで挨拶する。
陛下が近づいてくると、こちらに顔を向ける。
「シャルロットにヴェロニカ、あなた達には無理をさせたわね」
「とんでもございません」
「お気遣いのお言葉に感謝します」
二人が返事する。
わざわざ陛下が声をかけてくださる意図が汲みきれないが、花嫁修行のことで間違いないだろう。
「全く、ヤードルったら仕方のない子だわ……では皆様、楽にして」
それだけ言い残すと女王は颯爽とエントランスに入っていった。
ーーー
アランの話によると、捕らえた二人の令嬢の取り調べ中にスージーが馬車の細工を自白したらしい。
簡潔に言えば逆恨みだった。
アランに憧れる二人は、もう何年も追っかけをしているらしい。
騎士団の公開練習があれば毎回見に行き、話せるタイミングがあれば必ず声をかけたらしい。
ただでさえ近衛騎士は敷居が高く遠い存在だ。
そんな憧れの騎士が突然一人の令嬢の専属護衛になったことが許せなかったらしい。
しかもその令嬢は騎士に詳しくないなどとのたまい、剣術大会の成績すら知らなかった。
頭に来たパメラが、衝動的に車輪の一つずつをそれぞれの付き人に細工させた。
これが細工に差があった理由のようだ。
細工された車輪のうち一つの車輪は目立ちにくかったため、御者も気づかずに脱輪してしまった。
御者は馬車の管理不足として数ヶ月の減給処分になるらしい。
どうにかならないかと、アランに尋ねたが、シャルロットが怪我をした以上、覆ることはないようだ。
スージーはとんでもないことをしてしまったと、すぐに自首したかったがパメラに止められていたそうだ。
アラン曰く、初犯であることから罰金刑が有力らしい。
お茶会での出来事を加えても禁固刑にはならないだろうとの見立てだった。
「あなたを危ない目に合わせてしまい申し訳ありません」
「あなたは悪くないじゃない……それに彼女達にとって、あなたに知られてしまうことが、きっと一番の罰になっているわ……」
「私はあなたを守れなかったことを悔いています」
「何を言うの。しっかり守ってくれたわ、あの日は私を城に連れ帰ってくれたし、今回だって紅茶は一滴もかからなかったもの」
「ですが、あなたは怪我をしてしまった」
「押し相撲でもできるような怪我たいしたことないわ」
アランが大きなため息をつく。
「強がっていませんか?」
「ええ、本音よ?あなたは迎えにきてくれたし、私の心は何も傷ついていないの」
「あなたという人は本当に……」
「それより剣術大会のあとにスージー嬢と会話したそうだけど」
「……そうですね、覚えていません」
「え、……え?」
「たくさんの方に祝いの言葉をかけていただいたので、誰と話したかは覚えていないですね」
「……なんだか二人が不憫になってきたわ」
「それに女性の顔を覚えるのは苦手です」
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