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第15話 突然の終わり
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終わりは突然だった。
先触れもなくフリードがシャルロットの部屋を訪れた。
シャルロットの自室のテラスにて、急遽フリードと二人きりの場が設けられた。
ビアンカが紅茶を入れ終わりテラスから自室に戻ると、フリードが唐突に本日付けで出された通達について話しだした。
「政略結婚の禁止、ですか……?」
「ああ、今日通達が出たよ」
政界から離れているスラットレイ伯爵は知らなかったのかもしれないね、とフリードが付け加えた。
通達とは、議会で可決された重要な決定事項を国中に知らせる案内のことだ。
主要な都市では新聞に掲載されたり、そうでなければ街の掲示板に通達が掲示される。
女王陛下は即位してから権力主義を実力主義の流れに変えている張本人である。
時間を作り国中を回っては、国を良くしようと尽力する姿に国民の人気が高い。
しかし実力主義というのは当然、権力者や貴族達の反感が強かった。
それでも内部から変革し、騎士団や文官など、実力が評価される環境を整えた。
そして、反対派が一部の上位貴族だけになると、ようやく可決まで辿り着いたのであった。
「なぜ、女王陛下自ら政略結婚の禁止を……」
「実力主義って本来の国としてあるべき形だと思うんだ。そうでなければいつか国は崩壊する。政略結婚で力を持つなんて、どこかで歪みが生まれるだろ?……それに好きな人と自由に結婚できることで幸せになる人は純粋に増えるはずだ」
「幸せになる人が増える……」
「それに伴い二人の花嫁修行も、お終いだ」
「ちょ、っと頭がついていかなくて」
シャルロットは混乱していた。
「もちろん僕は母君の賛同者だったからね、ヤードルが決めた君たちと結婚する訳にはいかなかったんだよ。やっと可決したのに水を刺すことになるだろ?」
「なるほど……」
それは理解ができた。
「政略結婚じゃなければいいんだよ?君が僕を好きで、僕が君を好きであるならば」
お互い見つめあうが先の言葉は出てこない。
「僕たちって似たモノ同士だと思わないかい」
「……ええ、私もそう思いますわ」
お互い恋愛感情はなかった。
しかも、それをお互いが理解していた。
「ヤードルは母君と対立したい訳ではないが、実力主義社会が王家の没落に繋がるのを危惧していてね、王太子なこともあって、難しい立場なんだ」
なんとなく理解ができた。
「ただ正直、俺は今は仕事が楽しいし結婚はしばらくいいかな」
シャルロットは王城に住み込んでからフリードが公務で多忙なことを知った。
中々話す機会がないのは、フリードは王城にいないからだ。
ヤードル王太子は宰相と共に国政の取りまとめを、第二王子であるフリードは女王陛下と同様に国中を視察し、領主や民の話を聞き国政に反映する。
第三王子は王位継承権を放棄し、外国の地で絵を描いて暮らしているのは有名な話だが、定期的に外国の様子を知らせる手紙が届くらしい。
春に王立学院を卒業された第四王子のシルヴァン殿下は先月から隣国に滞在しているし、外交を中心に活躍されるだろう。
内情を知ると、なんとバランスの取れた王室なのかと感動すら覚える。
「さてここで一つ種明かしをしておこうかな」
「なにかしら?」
「昔たくさん図書管理室で本を読んだのを覚えているかい?」
「ええ、もちろん。フリード殿下は私とシルヴァン殿下にたくさん本を読んでくれましたもの」
「君はいつも短髪で黒髪の屈強な男が好みだと言っていたね」
「よく覚えていらっしゃいますね」
「でないと、おかしいと思わないかい?」
フリードが自室で待機する護衛のアランを一瞥する。
「……まさか!」
「好みの男が専属護衛騎士になるなんて、そんな偶然あるわけないだろ?」
したり顔のフリード殿下。
「まあ!」
シャルロットは偶然に自分の好みの男性が専属護衛騎士になったと本気で思っていた。
確かにフリードの元で近衛騎士をしていた者を当てがったとは言ってはいたが。
「折角来てもらうことになったなら、好みの騎士を、と思ってね。……君達の関係は進んだかい?」
「……私は殿下の婚約者候補でしたから、進むことは不敬になってしまいますわ」
「それもそうか。でももう違うだろ?君が望むのであれば連れていくかい?」
シャルロットはハッとする。
婚約者候補でなくなったのであれば、自分の気持ちに正直になってもいいと気づいた。
「……そんな、騎士様を物のように扱うのはいけませんよ」
「真面目だねえ……では想いを伝えるしかないね」
「……私の気持ちってそんなにバレバレかしら?」
フリードが高笑う。
「まあ、俺には分かる程度かな?きっとあいつは何も気づいていないよ、そして今のこの状況にイライラしてるだろうね」
「そうでしょうか?」
「ああ、そうとも」
「それに婚約者じゃなくなったからってすぐに言い寄るなんて、最低な女だと思われないかしら」
もう一度自室を覗くとアランの姿がない。
前室に戻ったのだろうか。
「それは、君とあいつの関係次第だろ?」
「そうですけど……」
「これを逃すと会うことは無くなるだろうね、確実に」
「それは、寂しいわ……」
素直になったシャルロットにフリードが声を上げて笑う。
「はあ…面白い。……ではそろそろ行くよ、これからもよろしく頼むよ、スラットレイ家には引き続き世話になる」
「ええ、父に伝えますわ。あ、あと一つ申し上げてもよいですか?……」
フリードはシャルロットの話が終わると、ビアンカも一緒に退室させた。
代わりにアランが入ってきた。
フリードが気を利かせて二人きりにしてくれたのだろう。
「お呼びですか」
フリードがわざわざ場を整えてくれた。
私もいつここを去ることになるか分からない。
もしかしたら、最後の機会かもしれない。
シャルロットは覚悟を決めた。
先触れもなくフリードがシャルロットの部屋を訪れた。
シャルロットの自室のテラスにて、急遽フリードと二人きりの場が設けられた。
ビアンカが紅茶を入れ終わりテラスから自室に戻ると、フリードが唐突に本日付けで出された通達について話しだした。
「政略結婚の禁止、ですか……?」
「ああ、今日通達が出たよ」
政界から離れているスラットレイ伯爵は知らなかったのかもしれないね、とフリードが付け加えた。
通達とは、議会で可決された重要な決定事項を国中に知らせる案内のことだ。
主要な都市では新聞に掲載されたり、そうでなければ街の掲示板に通達が掲示される。
女王陛下は即位してから権力主義を実力主義の流れに変えている張本人である。
時間を作り国中を回っては、国を良くしようと尽力する姿に国民の人気が高い。
しかし実力主義というのは当然、権力者や貴族達の反感が強かった。
それでも内部から変革し、騎士団や文官など、実力が評価される環境を整えた。
そして、反対派が一部の上位貴族だけになると、ようやく可決まで辿り着いたのであった。
「なぜ、女王陛下自ら政略結婚の禁止を……」
「実力主義って本来の国としてあるべき形だと思うんだ。そうでなければいつか国は崩壊する。政略結婚で力を持つなんて、どこかで歪みが生まれるだろ?……それに好きな人と自由に結婚できることで幸せになる人は純粋に増えるはずだ」
「幸せになる人が増える……」
「それに伴い二人の花嫁修行も、お終いだ」
「ちょ、っと頭がついていかなくて」
シャルロットは混乱していた。
「もちろん僕は母君の賛同者だったからね、ヤードルが決めた君たちと結婚する訳にはいかなかったんだよ。やっと可決したのに水を刺すことになるだろ?」
「なるほど……」
それは理解ができた。
「政略結婚じゃなければいいんだよ?君が僕を好きで、僕が君を好きであるならば」
お互い見つめあうが先の言葉は出てこない。
「僕たちって似たモノ同士だと思わないかい」
「……ええ、私もそう思いますわ」
お互い恋愛感情はなかった。
しかも、それをお互いが理解していた。
「ヤードルは母君と対立したい訳ではないが、実力主義社会が王家の没落に繋がるのを危惧していてね、王太子なこともあって、難しい立場なんだ」
なんとなく理解ができた。
「ただ正直、俺は今は仕事が楽しいし結婚はしばらくいいかな」
シャルロットは王城に住み込んでからフリードが公務で多忙なことを知った。
中々話す機会がないのは、フリードは王城にいないからだ。
ヤードル王太子は宰相と共に国政の取りまとめを、第二王子であるフリードは女王陛下と同様に国中を視察し、領主や民の話を聞き国政に反映する。
第三王子は王位継承権を放棄し、外国の地で絵を描いて暮らしているのは有名な話だが、定期的に外国の様子を知らせる手紙が届くらしい。
春に王立学院を卒業された第四王子のシルヴァン殿下は先月から隣国に滞在しているし、外交を中心に活躍されるだろう。
内情を知ると、なんとバランスの取れた王室なのかと感動すら覚える。
「さてここで一つ種明かしをしておこうかな」
「なにかしら?」
「昔たくさん図書管理室で本を読んだのを覚えているかい?」
「ええ、もちろん。フリード殿下は私とシルヴァン殿下にたくさん本を読んでくれましたもの」
「君はいつも短髪で黒髪の屈強な男が好みだと言っていたね」
「よく覚えていらっしゃいますね」
「でないと、おかしいと思わないかい?」
フリードが自室で待機する護衛のアランを一瞥する。
「……まさか!」
「好みの男が専属護衛騎士になるなんて、そんな偶然あるわけないだろ?」
したり顔のフリード殿下。
「まあ!」
シャルロットは偶然に自分の好みの男性が専属護衛騎士になったと本気で思っていた。
確かにフリードの元で近衛騎士をしていた者を当てがったとは言ってはいたが。
「折角来てもらうことになったなら、好みの騎士を、と思ってね。……君達の関係は進んだかい?」
「……私は殿下の婚約者候補でしたから、進むことは不敬になってしまいますわ」
「それもそうか。でももう違うだろ?君が望むのであれば連れていくかい?」
シャルロットはハッとする。
婚約者候補でなくなったのであれば、自分の気持ちに正直になってもいいと気づいた。
「……そんな、騎士様を物のように扱うのはいけませんよ」
「真面目だねえ……では想いを伝えるしかないね」
「……私の気持ちってそんなにバレバレかしら?」
フリードが高笑う。
「まあ、俺には分かる程度かな?きっとあいつは何も気づいていないよ、そして今のこの状況にイライラしてるだろうね」
「そうでしょうか?」
「ああ、そうとも」
「それに婚約者じゃなくなったからってすぐに言い寄るなんて、最低な女だと思われないかしら」
もう一度自室を覗くとアランの姿がない。
前室に戻ったのだろうか。
「それは、君とあいつの関係次第だろ?」
「そうですけど……」
「これを逃すと会うことは無くなるだろうね、確実に」
「それは、寂しいわ……」
素直になったシャルロットにフリードが声を上げて笑う。
「はあ…面白い。……ではそろそろ行くよ、これからもよろしく頼むよ、スラットレイ家には引き続き世話になる」
「ええ、父に伝えますわ。あ、あと一つ申し上げてもよいですか?……」
フリードはシャルロットの話が終わると、ビアンカも一緒に退室させた。
代わりにアランが入ってきた。
フリードが気を利かせて二人きりにしてくれたのだろう。
「お呼びですか」
フリードがわざわざ場を整えてくれた。
私もいつここを去ることになるか分からない。
もしかしたら、最後の機会かもしれない。
シャルロットは覚悟を決めた。
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