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第四章
第四十三話 前編
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早朝に王都を出発した一同は日々を鍛錬に費やしながら旅を続けた。
その目的地は大陸最大級の温泉地帯である隣国ワイバール王国のセレミタット。
「ここらで一旦休憩だ」
リレラとグレアは剣を下ろし、腰を下ろして汗を拭いた。
「だいぶ剣が重くなってきたな」
「本当ですか!?」
「うん。剣同士でかち合った時、結構強く踏ん張らないと押されるくらい。特異体質のあたしとこんなに打ち合えるなんて、やっぱりグレアは才能があるんだね」
「ありがとうございます。ここ二週間の訓練の成果が出て来たようで嬉しいです。でもリレラ様の教え方とか加減の仕方が上手だったから上達したんだと思いますよ」
二人が会話している裏、野営地から少し離れたところではマギクに教えられながらラーラが新たな魔法の習得を目指していた。
「そう。その感覚だ。もう少し魔力全体を小さく圧縮するイメージで」
「こんな感じですか?」
電撃から成り、敵を焼きながら押しつぶす恐るべき死のドーム:「雷包」をラーラが遂に完成させる。
マギクはその光景に目を輝かせた。
「うん、出来ているよ! そのままもう少し維持出来るかい? その間、この感覚とイメージを身体で覚えるように意識するんだ」
「はい…!」
魔力の許す限界まで形状を維持し続け、ラーラは遂に魔法を解く。
「一旦休憩しよう」
マギクは「地」属性魔法を使って二人分の滑らかな石製の椅子を生成した。
師弟はゆったり腰かけながら言葉を交わした。
ここ数週間はラーラも目覚めている時間が多くなり、既に三つの中上級魔法を習得している。
「本当に飲み込みが早くて、教えていて楽しいよ」
「お褒め預かり光栄ですが、効率的に習得できているのはマギク様が私の課題を分析して、的確に指導してくださるからですよ」
その夜も、リレラとマギクはいつものように二人きりで話していた。
「グレアからおんなじことを言われたな。『上達しやすいのはリレラさんの教え方が上手だからなんだ』って」
「そうなんだ。奇遇なものだね」
マギクはそうは言いつつも、普段の彼女らの様子からしてこの現象は起こるべくして起こったと考えていた。
それはリレラも同意見。
二人から発せられた言葉が一言一句違わず重複した。
「あの二人、本当に姉妹みたいだよね」
翌朝、グレアとリレラは一戦交えた後、その反省をしながら体力を回復していた。
そこに「刺客」がやって来る。
「よう、順調か?」
木剣担いで現れたのはウロ。
王都出発以降、彼は剣術と体術を重点的に磨いてきた。
その目的は「原点回帰」。
ありとあらゆる武術流派を体得してきたはずの「便利屋」。
その類まれなる能力を生かし、幾度となく危機を切り抜けてきた。
しかし、各地に築き上げた「道場破り」の伝説。それを考えれば少々物足りないと言わざるを得ない。
そんな不満が誰よりも大きかったのはウロ本人であったのだ。
「もし良ければオレとも剣を交えちゃくれねえか?」
「いいよ」
リレラは即答した。
「どっちが先にやる?」
「…私も参加していいんですか?」
発言の意図を読み取ったグレアが少し興奮気味に質問する。
「うん。良いよねウロ?」
「当然だ。たまにはタイプの違う奴ともやった方が成長できる。オレもお前もな」
話し合いの結果、グレアが先に戦うこととなった。
両者構えを取り、審判リレラの合図で走り出した。
二人の剣が激しくぶつかり、両者弾かれて体勢を崩す。
相手の隙を逃さぬよう、そして自らの隙を消せるよう二人は急いで攻撃態勢を取った。
しかしウロが速度で勝り防御も難しい突きを繰り出してきたのを見て不利であるのを悟ると、グレアは咄嗟の判断で上半身を反らして紙一重で回避し、そのまま距離を取った。
レイピアを用いた決闘用の剣術スタイル…右手を後ろに、半身の体勢で素早く距離を詰めながら鋭い刺突を繰り出すウロ。
グレアは回避に徹しながら隙を探り、遂に突き出されていた相手の剣を下から叩いて上へと弾く。
体格が小さかったからこそ成せた業。
そのまま懐に潜り込んで突きを見舞う。
グレアとしては、これで勝負が決まると半ば確信していた。
しかし、フットワークを用いて一瞬で距離を取られ、剣先が僅かに届かない。
今度は体格の小ささが災いした。
「この流派に突きで勝負すんのは感心できねえな」
無造作に放たれた「白巌流」の横切り。
グレアは予備動作の大きいそれに防御を間に合わせることは出来たが、大きく横に跳ね飛ばされる。
「『白打』っていうんだとよ。何も意識せず打てるからだとさ。実際には魔力操作もキチぃし、使いどころも見極めないとで名ばかりだがな」
「…そんな技を使われていちゃダメですね」
言葉を返しながら態勢を立て直そうとするグレアのもとにウロが「駿馬」で急接近する。
無数の斬撃が不規則な軌道を描きながら様々な方向からグレアに襲い掛かる。
「泰然流:流刃」。
グレアは後ろに下がりながらその全てを辛うじて防ぎ切り、「隼斬り」を最も基本の型に近い角度で振るえる瞬間を見つけ出した。
澄み切った太刀筋。血のにじむような反復練習に裏付けされた神速の一撃。
しかし、不規則な攻撃の為に用意された独特な構えが功を奏し、この一撃も辛うじて防がれた。
とはいえ「流れ」はグレアのもとへ引き寄せられた。
「雲歩」によって時折距離を詰めながら繰り出される「隼斬り」。
先程とは打って変わり、今度はウロがサンドバッグになった。
だが技能を取り戻しつつある「武芸百般」。やられっぱなしではなかった。
グレアの意識が「攻撃」の一色に染まり切る瞬間を感じ取ると、「八星流」の歩法:「無骨の歩み」で目の前から消え去った。
慌てたグレアが振り向きざまに放った水平切りを受け止め、泰然流:「水袋」でその衝撃をそのまま打ち返す。
「かはッ!」
内臓をやられ、思わず咳き込み動きを止めるグレア。
その頭の上に木剣が振るわれる。
今度はウロの全意識が「攻撃」の一色に染まったその瞬間、背後を取られ首に刃を突き付けられていたのはウロの方だった。
「チェックメイトです」
「…『乾坤流』の『魂取』か。どこで覚えたんだ。『理識』で視えてても間に合わなかった」
「昔『乾坤流』の子と知り合った時に教えてもらって」
かつてキオーテから習い、そしてキオーテを殺した技。
直線的な「蒼風流」と曲線的な「乾坤流」。緩急のついたカウンターの一撃は「グレアは『蒼風流』しか使わない」という先入観も相まって回避不可能となった。
体力を回復した後、第二戦が始まる。
「お前の課題は『リズム』を外されたら力を発揮できなくなること。自覚してんだろ?」
「最近あたしなりの色々試してみてるんだ。その成果を確かめたいからリズムをずらしてみて欲しいんだ」
「上等だぜ。言われなくてもそうするつもりだっつーの」
「両者、構えてください」
初審判で緊張気味のグレアはぎこちなく指示した。
二人が戦闘態勢に入ったのを確認し、
「始め!」
思い切って開戦の合図をかける。
しかし、開戦しても二人は動かない。
審判の不安を感じ取って、
「分かってるよ。ちゃんと始まってる」
とリレラは言った。
「…仕掛けて来いってことね」
リレラは呼吸を整えると、力強く地面を蹴って走り出した。
「そうするからには全部防いでね!」
「白巌流:吹雪」。
その名のとおり吹き付ける吹雪のような激しい斬撃たちがウロに襲い掛かる。
ウロはその全てを剣で受け止めながら、「泰然流」の「柳」を使い即座に受け流している。
受け流される度に僅かながらリレラの身体軸はブレ、脳内のイメージとも乖離してくる。
このままでは大きく「崩れる」と悟った彼女は地面を蹴り、一旦距離を取ろうとした。
そこに雷閃の如き蹴り脚が突き刺さる。
「けほッ!」
リレラは不意に鳩尾を蹴られて一瞬怯んだ。
ウロの素早い突きはその隙を逃さない。
しかしやはり「炎刃」。リレラは防御を間に合わせ、素早く距離を取る。
「剣を交えるとは言った。だがオレに限って言えば使うのは剣だけじゃねえ。なにより体術を使わないなんて一言も言ってないしな」
ウロが一気に接近する。
「泰然流:流刃」。
放つ技法こそそれだが、その身体の使い方は複数の体術を我流で繋ぎ合わせた不規則なもの。
一撃毎に質の変わる七色の剣術。完全にウロのペースだった。
「確かにそうだった。久しぶりだから忘れたけど、あんたはいつもそうだったね」
しかし次の瞬間、ウロの手から木剣が叩き落とされる。
「あ?」
その首元に木剣の切っ先がちょこんと当てられる。
「そこまでです! 勝者リレラ様!」
その目的地は大陸最大級の温泉地帯である隣国ワイバール王国のセレミタット。
「ここらで一旦休憩だ」
リレラとグレアは剣を下ろし、腰を下ろして汗を拭いた。
「だいぶ剣が重くなってきたな」
「本当ですか!?」
「うん。剣同士でかち合った時、結構強く踏ん張らないと押されるくらい。特異体質のあたしとこんなに打ち合えるなんて、やっぱりグレアは才能があるんだね」
「ありがとうございます。ここ二週間の訓練の成果が出て来たようで嬉しいです。でもリレラ様の教え方とか加減の仕方が上手だったから上達したんだと思いますよ」
二人が会話している裏、野営地から少し離れたところではマギクに教えられながらラーラが新たな魔法の習得を目指していた。
「そう。その感覚だ。もう少し魔力全体を小さく圧縮するイメージで」
「こんな感じですか?」
電撃から成り、敵を焼きながら押しつぶす恐るべき死のドーム:「雷包」をラーラが遂に完成させる。
マギクはその光景に目を輝かせた。
「うん、出来ているよ! そのままもう少し維持出来るかい? その間、この感覚とイメージを身体で覚えるように意識するんだ」
「はい…!」
魔力の許す限界まで形状を維持し続け、ラーラは遂に魔法を解く。
「一旦休憩しよう」
マギクは「地」属性魔法を使って二人分の滑らかな石製の椅子を生成した。
師弟はゆったり腰かけながら言葉を交わした。
ここ数週間はラーラも目覚めている時間が多くなり、既に三つの中上級魔法を習得している。
「本当に飲み込みが早くて、教えていて楽しいよ」
「お褒め預かり光栄ですが、効率的に習得できているのはマギク様が私の課題を分析して、的確に指導してくださるからですよ」
その夜も、リレラとマギクはいつものように二人きりで話していた。
「グレアからおんなじことを言われたな。『上達しやすいのはリレラさんの教え方が上手だからなんだ』って」
「そうなんだ。奇遇なものだね」
マギクはそうは言いつつも、普段の彼女らの様子からしてこの現象は起こるべくして起こったと考えていた。
それはリレラも同意見。
二人から発せられた言葉が一言一句違わず重複した。
「あの二人、本当に姉妹みたいだよね」
翌朝、グレアとリレラは一戦交えた後、その反省をしながら体力を回復していた。
そこに「刺客」がやって来る。
「よう、順調か?」
木剣担いで現れたのはウロ。
王都出発以降、彼は剣術と体術を重点的に磨いてきた。
その目的は「原点回帰」。
ありとあらゆる武術流派を体得してきたはずの「便利屋」。
その類まれなる能力を生かし、幾度となく危機を切り抜けてきた。
しかし、各地に築き上げた「道場破り」の伝説。それを考えれば少々物足りないと言わざるを得ない。
そんな不満が誰よりも大きかったのはウロ本人であったのだ。
「もし良ければオレとも剣を交えちゃくれねえか?」
「いいよ」
リレラは即答した。
「どっちが先にやる?」
「…私も参加していいんですか?」
発言の意図を読み取ったグレアが少し興奮気味に質問する。
「うん。良いよねウロ?」
「当然だ。たまにはタイプの違う奴ともやった方が成長できる。オレもお前もな」
話し合いの結果、グレアが先に戦うこととなった。
両者構えを取り、審判リレラの合図で走り出した。
二人の剣が激しくぶつかり、両者弾かれて体勢を崩す。
相手の隙を逃さぬよう、そして自らの隙を消せるよう二人は急いで攻撃態勢を取った。
しかしウロが速度で勝り防御も難しい突きを繰り出してきたのを見て不利であるのを悟ると、グレアは咄嗟の判断で上半身を反らして紙一重で回避し、そのまま距離を取った。
レイピアを用いた決闘用の剣術スタイル…右手を後ろに、半身の体勢で素早く距離を詰めながら鋭い刺突を繰り出すウロ。
グレアは回避に徹しながら隙を探り、遂に突き出されていた相手の剣を下から叩いて上へと弾く。
体格が小さかったからこそ成せた業。
そのまま懐に潜り込んで突きを見舞う。
グレアとしては、これで勝負が決まると半ば確信していた。
しかし、フットワークを用いて一瞬で距離を取られ、剣先が僅かに届かない。
今度は体格の小ささが災いした。
「この流派に突きで勝負すんのは感心できねえな」
無造作に放たれた「白巌流」の横切り。
グレアは予備動作の大きいそれに防御を間に合わせることは出来たが、大きく横に跳ね飛ばされる。
「『白打』っていうんだとよ。何も意識せず打てるからだとさ。実際には魔力操作もキチぃし、使いどころも見極めないとで名ばかりだがな」
「…そんな技を使われていちゃダメですね」
言葉を返しながら態勢を立て直そうとするグレアのもとにウロが「駿馬」で急接近する。
無数の斬撃が不規則な軌道を描きながら様々な方向からグレアに襲い掛かる。
「泰然流:流刃」。
グレアは後ろに下がりながらその全てを辛うじて防ぎ切り、「隼斬り」を最も基本の型に近い角度で振るえる瞬間を見つけ出した。
澄み切った太刀筋。血のにじむような反復練習に裏付けされた神速の一撃。
しかし、不規則な攻撃の為に用意された独特な構えが功を奏し、この一撃も辛うじて防がれた。
とはいえ「流れ」はグレアのもとへ引き寄せられた。
「雲歩」によって時折距離を詰めながら繰り出される「隼斬り」。
先程とは打って変わり、今度はウロがサンドバッグになった。
だが技能を取り戻しつつある「武芸百般」。やられっぱなしではなかった。
グレアの意識が「攻撃」の一色に染まり切る瞬間を感じ取ると、「八星流」の歩法:「無骨の歩み」で目の前から消え去った。
慌てたグレアが振り向きざまに放った水平切りを受け止め、泰然流:「水袋」でその衝撃をそのまま打ち返す。
「かはッ!」
内臓をやられ、思わず咳き込み動きを止めるグレア。
その頭の上に木剣が振るわれる。
今度はウロの全意識が「攻撃」の一色に染まったその瞬間、背後を取られ首に刃を突き付けられていたのはウロの方だった。
「チェックメイトです」
「…『乾坤流』の『魂取』か。どこで覚えたんだ。『理識』で視えてても間に合わなかった」
「昔『乾坤流』の子と知り合った時に教えてもらって」
かつてキオーテから習い、そしてキオーテを殺した技。
直線的な「蒼風流」と曲線的な「乾坤流」。緩急のついたカウンターの一撃は「グレアは『蒼風流』しか使わない」という先入観も相まって回避不可能となった。
体力を回復した後、第二戦が始まる。
「お前の課題は『リズム』を外されたら力を発揮できなくなること。自覚してんだろ?」
「最近あたしなりの色々試してみてるんだ。その成果を確かめたいからリズムをずらしてみて欲しいんだ」
「上等だぜ。言われなくてもそうするつもりだっつーの」
「両者、構えてください」
初審判で緊張気味のグレアはぎこちなく指示した。
二人が戦闘態勢に入ったのを確認し、
「始め!」
思い切って開戦の合図をかける。
しかし、開戦しても二人は動かない。
審判の不安を感じ取って、
「分かってるよ。ちゃんと始まってる」
とリレラは言った。
「…仕掛けて来いってことね」
リレラは呼吸を整えると、力強く地面を蹴って走り出した。
「そうするからには全部防いでね!」
「白巌流:吹雪」。
その名のとおり吹き付ける吹雪のような激しい斬撃たちがウロに襲い掛かる。
ウロはその全てを剣で受け止めながら、「泰然流」の「柳」を使い即座に受け流している。
受け流される度に僅かながらリレラの身体軸はブレ、脳内のイメージとも乖離してくる。
このままでは大きく「崩れる」と悟った彼女は地面を蹴り、一旦距離を取ろうとした。
そこに雷閃の如き蹴り脚が突き刺さる。
「けほッ!」
リレラは不意に鳩尾を蹴られて一瞬怯んだ。
ウロの素早い突きはその隙を逃さない。
しかしやはり「炎刃」。リレラは防御を間に合わせ、素早く距離を取る。
「剣を交えるとは言った。だがオレに限って言えば使うのは剣だけじゃねえ。なにより体術を使わないなんて一言も言ってないしな」
ウロが一気に接近する。
「泰然流:流刃」。
放つ技法こそそれだが、その身体の使い方は複数の体術を我流で繋ぎ合わせた不規則なもの。
一撃毎に質の変わる七色の剣術。完全にウロのペースだった。
「確かにそうだった。久しぶりだから忘れたけど、あんたはいつもそうだったね」
しかし次の瞬間、ウロの手から木剣が叩き落とされる。
「あ?」
その首元に木剣の切っ先がちょこんと当てられる。
「そこまでです! 勝者リレラ様!」
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