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第四章
第四十二話
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グレアと人間形態に戻ったラーラが階段を上った時、遠くに見えた仲間たちは劣勢であった。
グレアとジールバードは全身に裂傷を負い、ウロはふらつきながら複数人を相手に部屋の隅で戦っている。
ウロと部屋の壁の間にうずくまるマギクは、よく見ると既に応急処置は済ませてあるものの左足の膝から下と右手首を欠損しているようだった。
「もう一仕事、ですね」
「ええ」
「魔王の卵」たちは静かに動き出した。
敵の死体の横でそこから奪った剣を使い、もう一人の襲撃者と鍔迫り合いをしているジールバード。
襲撃者は踏み込んでジールバードの防御を崩すと、獲物を深く引いて突きの予備動作を取った。
その時、耳元で囁いた。
「無駄が多い。そこはもっとスマートに刺さないと」
刹那、敵は後ろから心臓を突き刺されて沈黙し、剣を抜かれると同時に半ば投げ捨てられるような形で地面に倒れた。
「…なっ、グレアか!」
「静かに。敵にバレちゃいます」
悪戯げに笑う「金髪金眼」の少女。
「敵さんは私達の名前に敏感なんですから」
頬に跳ねた返り血さえももはや彼女の美しく、妖しく、危険な雰囲気を演出するアクセサリーと化していた。
「まあ、とりあえずこれでやっと撃てますね? 『星狩り』のジールバード」
一方ラーラの方はリレラと戦っている二人の首を後ろから「星滅刀」で音もなく刎ねた所であった。
自分があれほど苦戦していた敵を、あの「眠り姫」が造作もなく片付けたことに驚いたリレラだったが、周囲に視線をやって全体の戦況を把握するや否やすぐに走り出した。
同じく周囲に視線をやり、「異変」に気付きつつあるカレミード。
その肩を重い弾丸が粉々に撃ち砕く。
「ガァッ!!」
激痛に叫ぶカレミード。
その意識と視線は間違いなくジールバードの方へと引き付けられた。
その間に死角の暗黒の中をグレア、ラーラ、リレラが泳ぎ回る。
ウロとマギクを追い詰める者たちは次々ラーラに殺害され、リレラは相方を「沈黙」という名の縄できつく縛る残党たちを片付ける。
主犯者が事態の深刻さに気付いた時、既に決着は付いていた。
カレミードは足を払われて尻もちをついた。
「動かないで」
髪を掴まれ、首に刃が当てられる。
「あなたの野望もこれで終わり」
グレアの「太陽」による治療を済ませた一同はカレミードを連れてダンジョンを出た。
その後「冒険者協会」に事の顛末を報告。依頼して書面に起こさせた。
「放任主義」な「冒険者協会」は各地で発生する冒険者間の内紛に対しても基本的に首を突っ込まないが、これぐらいであれば請け負ってくれるのだ、とマギクはグレアたちに語った。
書類は「貴金属同盟」盟主のシャールマの下へ送られることになった。
ひととおり手続きを終えた後、マギクは言った。
「このあと僕たちはカレミードに『話』を聞かないとなんだ。付いてきてもいいけど、もしかしたら退屈かもしれない。もし良かったら街で遊んでおいで」
グレアの脳裏に、かつてテンへ行われた拷問の光景がちらつく。
確かに見ていて楽しいものではないだろう。
グレアはラーラと相談し、街へと繰り出した。
さて、せっかく皆と別れて二人きりで遊びに出掛けたグレアたちだったものの、大量の魔力と体力を失ったことで耐え難い睡魔に襲われることとなった。
「どうしましょう…そこら辺で寝る訳にもいかないですよね」
数え切れないほどの人々が行き交う公共空間。人の目がある以上一見安全なように思えるが、同じく公共空間に分類され得る場所で散々な目に遭った彼女たちに対しては説得力を持たなかった。
「宿まで戻りますか?」
「でもせっかくここに来たのに。うーん…」
グレアの問いかけにラーラは頭を悩ませた。
「そうですね。じゃあ…」
ラーラは胸の前でパシッと音を立てて手を合わせた。
「私が見てますから、安心して眠ってください」
「…良いのですか?」
「ええ。言ったでしょう? 少し多めに眠って『調整』してきたって。まだ力が有り余っているんです」
そこまで言うなら、とグレアは応じた。
二人は大通りに近いところにあったベンチに二人並んで腰かけた。
グレアはすぐに眠りにつき、そのうちラーラの肩にもたれかかった。
(本当に綺麗なお顔…)
フードの陰から覗くその寝顔を見ながら、ラーラも一つあくびをした。
20分程経ってグレアが目覚める。
「…寝てるじゃないですか」
肩にもたれかかり穏やかな寝息を立てているラーラ。
グレアは再び静かに目を閉じた。
結局二人は1時間程お互いに寄りかかったままぐっすり眠っていたが、何者かの悪意に襲われることは全くなかった。
「そろそろ終わった頃でしょうか」
「そんな気がします」
グレアは立ち上がり、眠い目をこすっているラーラの手を引いて立ち上がらせた。
二人は少しずつ意識を明瞭にさせながら宿の方へと歩いて行った。
宿に着くと、既に情報を聞き出し終えたマギクたちから色々と聞かされた。
べレムジアの「地龍」と「七色の魔獣使い」について、「キリカナム教団」教祖であり賞金首でもあるホーバについて、そして何者かによって常に所在地が知られていることについて。
「めんどくせーことになったよな」
ウロがベッドに寝ころんだまま言った。
「犯罪者の逆恨みに遭うなんてよ。しかも場所が割れてるってなったんなら連中はオレらの運命をその手に握った気でいるだろうよ。実際にそのとおりだしな」
「悔しいけど認めるしかないね。彼女の魔獣のうち一匹だけを相手取っただけでも、僕たち『夜明けの旅団』は危うく壊滅しかけた。だから僕たちは備えなければならない」
マギクはそう言うと、グレアたちの方へ視線を移し微笑んだ。
次の言葉を悟って、リレラがその橙色の目を輝かせる。
「その為に…グレア、ラーラ、君たちを徹底的に鍛え上げることにする」
目を丸くする二人。
そんな彼女らを前にマギクは熱弁する。
「途中邪魔が入ったが、いや入ったからこそかもしれない。僕らは君たちの実力がよく分かったんだ。率直に言って君たちは既にその年齢で、少なく見積もっても『銀級』最上位から『金級』下位相当の実力を備えている。…以前からこのパーティの旧メンバーを倒せてしまうくらいだから当然と言えば当然だけどね。だからそんな君たちの力を伸ばして伸ばして、僕たち以上の冒険者にしたい。そうすればこのパーティを守ることも、君たち自身を守ることも出来る」
目の前にいるのは「奇跡のマギク」。
全属性の魔法を中上級相当で使いこなし、十代にして「金級」パーティをまとめ上げる若き超天才。
そんな人物が躊躇なく「自らと肩を並べ、さらには超えて欲しい」と口にしたのだ。
グレアとラーラは顔を見合わせて頷き、
「こちらこそ宜しくお願いします」と頭を下げた。
「決まりだな」
ジールバードが頷く。
「じゃあ明日からはビシバシ指導させてもらうからね。もちろん無理のない範囲にはなるけど、それでも覚悟しておいてね」
笑顔のマギクが話す言葉を聞いて、やっぱり少しだけ恐ろしくなる「魔王の卵」たちであった。
夜中にふとグレアが目を覚ます。
ぼんやりとした目で見ると、どうやらマギクと…ラーラが二人で話しているようだった。
「正直に言って、君の魔力はグレアさんよりも遥かに上だ。どころか僕を超えているよ」
「本当ですか? お褒めに預かり光栄です」
「うん、本当だとも。僕はある魔法学校を首席で卒業したんだけど、在籍中一度も模擬線で勝てなかった同級生が居てね。彼は純粋な魔力でも僕よりずっと格上だった。でもその彼と比べてもラーラさんの方が上だよ。もしかしたら…その言っても大丈夫かな?」
「なんですか?」
マギクはラーラの側頭部に生えた、再生しかけの角へと視線をやった。
「構いませんよ。私の誇りなんです」
「それなら良かった。…きっと分かっていると思う。君の魔力がこんなにも優れているのは魔族の血がある程度は影響していると考えられる。でも全ての種類の魔族がこれほど高い魔力を持っている訳じゃない。君の中に宿る力は上級魔族のそれじゃないのかい? それこそ、そう、『魔王』とか」
ラーラの身体がぴくりとはねる。
グレアも動揺して息を変に詰まらせてしまい、咳き込んでしまった。
「グレアさん、起きていたんだね。…聞かれてしまったかな?」
「何をですか?」
「君をラーラさんと比べたところ」
「あー。…はい、聞いちゃいました」
「…確かに魔力はラーラさんに及ばない。でもグレアさんにはリレラを唸らせるくらいの剣術と不利な状況を打開する発想力がある。知っての通り魔法使いは接近戦に弱い。剣術でその弱点を補うことが出来るだけでどちらか一方しか使えない敵に対しては実力差があろうと自動的に有利になる。そして、相手が人間の場合はその『どちらか一方しか使えない敵』が殆どになる。加えてその発想力で数値化出来る能力以上の脅威を与えることができる」
「…こんなに褒められたの、人生で初めてです」
喜ぶどころかむしろ面食らうグレアを真剣な眼差しで見つめながら、マギクは話を再開する。
「これはまだみんなに提案していない、僕の脳内にある計画だけど、国王と交渉して賞金首の登録を取り下げてもらおうと思っているんだ。君たちは今や『夜明けの旅団』のかけがえのない一員だ。それなのに首を狙われている間は冒険者証さえ発行してもらえない。そんなのは納得できないからね」
「登録の取り下げって、そんなこと出来るんですか?」
「少ないけど前例が無い訳じゃない。それに僕は多少無理をしてでも試す価値はあると思っているよ。僕には何となく感じられるんだ。君たちは何か大きなことを成し遂げるんじゃないかってね。これは大いに将来を期待させられる有望株に対する投資でもあるんだよ」
明日は朝早くから出発だからもう寝なよ、とマギクは笑いかけた。
「僕はちょっと出て来るよ」
静まり返った部屋の中、グレアとラーラは互いに顔を見合わせていくつか言葉を交わし、その後すぐに二人並んで眠りについた。
日付が変わり、新しい朝がやってくる。
グレアとジールバードは全身に裂傷を負い、ウロはふらつきながら複数人を相手に部屋の隅で戦っている。
ウロと部屋の壁の間にうずくまるマギクは、よく見ると既に応急処置は済ませてあるものの左足の膝から下と右手首を欠損しているようだった。
「もう一仕事、ですね」
「ええ」
「魔王の卵」たちは静かに動き出した。
敵の死体の横でそこから奪った剣を使い、もう一人の襲撃者と鍔迫り合いをしているジールバード。
襲撃者は踏み込んでジールバードの防御を崩すと、獲物を深く引いて突きの予備動作を取った。
その時、耳元で囁いた。
「無駄が多い。そこはもっとスマートに刺さないと」
刹那、敵は後ろから心臓を突き刺されて沈黙し、剣を抜かれると同時に半ば投げ捨てられるような形で地面に倒れた。
「…なっ、グレアか!」
「静かに。敵にバレちゃいます」
悪戯げに笑う「金髪金眼」の少女。
「敵さんは私達の名前に敏感なんですから」
頬に跳ねた返り血さえももはや彼女の美しく、妖しく、危険な雰囲気を演出するアクセサリーと化していた。
「まあ、とりあえずこれでやっと撃てますね? 『星狩り』のジールバード」
一方ラーラの方はリレラと戦っている二人の首を後ろから「星滅刀」で音もなく刎ねた所であった。
自分があれほど苦戦していた敵を、あの「眠り姫」が造作もなく片付けたことに驚いたリレラだったが、周囲に視線をやって全体の戦況を把握するや否やすぐに走り出した。
同じく周囲に視線をやり、「異変」に気付きつつあるカレミード。
その肩を重い弾丸が粉々に撃ち砕く。
「ガァッ!!」
激痛に叫ぶカレミード。
その意識と視線は間違いなくジールバードの方へと引き付けられた。
その間に死角の暗黒の中をグレア、ラーラ、リレラが泳ぎ回る。
ウロとマギクを追い詰める者たちは次々ラーラに殺害され、リレラは相方を「沈黙」という名の縄できつく縛る残党たちを片付ける。
主犯者が事態の深刻さに気付いた時、既に決着は付いていた。
カレミードは足を払われて尻もちをついた。
「動かないで」
髪を掴まれ、首に刃が当てられる。
「あなたの野望もこれで終わり」
グレアの「太陽」による治療を済ませた一同はカレミードを連れてダンジョンを出た。
その後「冒険者協会」に事の顛末を報告。依頼して書面に起こさせた。
「放任主義」な「冒険者協会」は各地で発生する冒険者間の内紛に対しても基本的に首を突っ込まないが、これぐらいであれば請け負ってくれるのだ、とマギクはグレアたちに語った。
書類は「貴金属同盟」盟主のシャールマの下へ送られることになった。
ひととおり手続きを終えた後、マギクは言った。
「このあと僕たちはカレミードに『話』を聞かないとなんだ。付いてきてもいいけど、もしかしたら退屈かもしれない。もし良かったら街で遊んでおいで」
グレアの脳裏に、かつてテンへ行われた拷問の光景がちらつく。
確かに見ていて楽しいものではないだろう。
グレアはラーラと相談し、街へと繰り出した。
さて、せっかく皆と別れて二人きりで遊びに出掛けたグレアたちだったものの、大量の魔力と体力を失ったことで耐え難い睡魔に襲われることとなった。
「どうしましょう…そこら辺で寝る訳にもいかないですよね」
数え切れないほどの人々が行き交う公共空間。人の目がある以上一見安全なように思えるが、同じく公共空間に分類され得る場所で散々な目に遭った彼女たちに対しては説得力を持たなかった。
「宿まで戻りますか?」
「でもせっかくここに来たのに。うーん…」
グレアの問いかけにラーラは頭を悩ませた。
「そうですね。じゃあ…」
ラーラは胸の前でパシッと音を立てて手を合わせた。
「私が見てますから、安心して眠ってください」
「…良いのですか?」
「ええ。言ったでしょう? 少し多めに眠って『調整』してきたって。まだ力が有り余っているんです」
そこまで言うなら、とグレアは応じた。
二人は大通りに近いところにあったベンチに二人並んで腰かけた。
グレアはすぐに眠りにつき、そのうちラーラの肩にもたれかかった。
(本当に綺麗なお顔…)
フードの陰から覗くその寝顔を見ながら、ラーラも一つあくびをした。
20分程経ってグレアが目覚める。
「…寝てるじゃないですか」
肩にもたれかかり穏やかな寝息を立てているラーラ。
グレアは再び静かに目を閉じた。
結局二人は1時間程お互いに寄りかかったままぐっすり眠っていたが、何者かの悪意に襲われることは全くなかった。
「そろそろ終わった頃でしょうか」
「そんな気がします」
グレアは立ち上がり、眠い目をこすっているラーラの手を引いて立ち上がらせた。
二人は少しずつ意識を明瞭にさせながら宿の方へと歩いて行った。
宿に着くと、既に情報を聞き出し終えたマギクたちから色々と聞かされた。
べレムジアの「地龍」と「七色の魔獣使い」について、「キリカナム教団」教祖であり賞金首でもあるホーバについて、そして何者かによって常に所在地が知られていることについて。
「めんどくせーことになったよな」
ウロがベッドに寝ころんだまま言った。
「犯罪者の逆恨みに遭うなんてよ。しかも場所が割れてるってなったんなら連中はオレらの運命をその手に握った気でいるだろうよ。実際にそのとおりだしな」
「悔しいけど認めるしかないね。彼女の魔獣のうち一匹だけを相手取っただけでも、僕たち『夜明けの旅団』は危うく壊滅しかけた。だから僕たちは備えなければならない」
マギクはそう言うと、グレアたちの方へ視線を移し微笑んだ。
次の言葉を悟って、リレラがその橙色の目を輝かせる。
「その為に…グレア、ラーラ、君たちを徹底的に鍛え上げることにする」
目を丸くする二人。
そんな彼女らを前にマギクは熱弁する。
「途中邪魔が入ったが、いや入ったからこそかもしれない。僕らは君たちの実力がよく分かったんだ。率直に言って君たちは既にその年齢で、少なく見積もっても『銀級』最上位から『金級』下位相当の実力を備えている。…以前からこのパーティの旧メンバーを倒せてしまうくらいだから当然と言えば当然だけどね。だからそんな君たちの力を伸ばして伸ばして、僕たち以上の冒険者にしたい。そうすればこのパーティを守ることも、君たち自身を守ることも出来る」
目の前にいるのは「奇跡のマギク」。
全属性の魔法を中上級相当で使いこなし、十代にして「金級」パーティをまとめ上げる若き超天才。
そんな人物が躊躇なく「自らと肩を並べ、さらには超えて欲しい」と口にしたのだ。
グレアとラーラは顔を見合わせて頷き、
「こちらこそ宜しくお願いします」と頭を下げた。
「決まりだな」
ジールバードが頷く。
「じゃあ明日からはビシバシ指導させてもらうからね。もちろん無理のない範囲にはなるけど、それでも覚悟しておいてね」
笑顔のマギクが話す言葉を聞いて、やっぱり少しだけ恐ろしくなる「魔王の卵」たちであった。
夜中にふとグレアが目を覚ます。
ぼんやりとした目で見ると、どうやらマギクと…ラーラが二人で話しているようだった。
「正直に言って、君の魔力はグレアさんよりも遥かに上だ。どころか僕を超えているよ」
「本当ですか? お褒めに預かり光栄です」
「うん、本当だとも。僕はある魔法学校を首席で卒業したんだけど、在籍中一度も模擬線で勝てなかった同級生が居てね。彼は純粋な魔力でも僕よりずっと格上だった。でもその彼と比べてもラーラさんの方が上だよ。もしかしたら…その言っても大丈夫かな?」
「なんですか?」
マギクはラーラの側頭部に生えた、再生しかけの角へと視線をやった。
「構いませんよ。私の誇りなんです」
「それなら良かった。…きっと分かっていると思う。君の魔力がこんなにも優れているのは魔族の血がある程度は影響していると考えられる。でも全ての種類の魔族がこれほど高い魔力を持っている訳じゃない。君の中に宿る力は上級魔族のそれじゃないのかい? それこそ、そう、『魔王』とか」
ラーラの身体がぴくりとはねる。
グレアも動揺して息を変に詰まらせてしまい、咳き込んでしまった。
「グレアさん、起きていたんだね。…聞かれてしまったかな?」
「何をですか?」
「君をラーラさんと比べたところ」
「あー。…はい、聞いちゃいました」
「…確かに魔力はラーラさんに及ばない。でもグレアさんにはリレラを唸らせるくらいの剣術と不利な状況を打開する発想力がある。知っての通り魔法使いは接近戦に弱い。剣術でその弱点を補うことが出来るだけでどちらか一方しか使えない敵に対しては実力差があろうと自動的に有利になる。そして、相手が人間の場合はその『どちらか一方しか使えない敵』が殆どになる。加えてその発想力で数値化出来る能力以上の脅威を与えることができる」
「…こんなに褒められたの、人生で初めてです」
喜ぶどころかむしろ面食らうグレアを真剣な眼差しで見つめながら、マギクは話を再開する。
「これはまだみんなに提案していない、僕の脳内にある計画だけど、国王と交渉して賞金首の登録を取り下げてもらおうと思っているんだ。君たちは今や『夜明けの旅団』のかけがえのない一員だ。それなのに首を狙われている間は冒険者証さえ発行してもらえない。そんなのは納得できないからね」
「登録の取り下げって、そんなこと出来るんですか?」
「少ないけど前例が無い訳じゃない。それに僕は多少無理をしてでも試す価値はあると思っているよ。僕には何となく感じられるんだ。君たちは何か大きなことを成し遂げるんじゃないかってね。これは大いに将来を期待させられる有望株に対する投資でもあるんだよ」
明日は朝早くから出発だからもう寝なよ、とマギクは笑いかけた。
「僕はちょっと出て来るよ」
静まり返った部屋の中、グレアとラーラは互いに顔を見合わせていくつか言葉を交わし、その後すぐに二人並んで眠りについた。
日付が変わり、新しい朝がやってくる。
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